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すべての歓びに

外がうっすら暗くなりはじめると、遊び疲れた息子が床の上でねむります。その体の上にタオルをかけて、わたしは夕飯の準備をします。窓から吹きぬける風が気持ちよく、リビングは静かで、とても心穏やかな時間です。

夕方の料理のお供にしている音楽がクロード・ドビュッシーという人の曲で、ピアノが苦手なわたしでも美しい旋律に癒されます。



わたしはとくに「en bateau」という曲が好きで、包丁を動かしながら、綺麗なものって、どうしてこうも、悲しみを連想させるのだろうな、としんみりしてしまいます。

悲しい曲ではないと思います。邦題(というのでしょうか?)は「小舟にて」だそうなので、小舟から眺める湖の美しさや、水上を滑りゆく楽しさなどを表した曲なのかもしれません。

だけど、この旋律が、美しいものを見て、歓びに打ち震える心の動きが、ひた隠しにしてきた身体の奥の悲しみに、そっと語りかけるようで。励ましたり、同調するというよりかは、微笑みや、朝の日差しに近いことばで、露わにされるようで。

あまりの歓びに、涙が溢れるような。
まるで泣き笑いをする人々のような。

わたしには詳しい知識はありませんけど、
なんだかそんな曲だなあと思えるのでした。


もう一つ、よく聴く曲を。知り合いが好きだというバッハの曲で、話の流れから「こんど聴いてみるね」と言ってしまったからには聴いておかねば……とあれこれ聴き比べするうちにすっかり好きになってしまいました。

演奏している角野さんの表情も、ピアノや曲への愛が伝わってきて素敵だなと思います。


「en bateau」も「主よ、人の望みの喜びよ」も優しい曲なんですけど、とくにクロード・ドビュッシーの方はわけもなく咽び泣きたくなります。

すべての悲しみに歓びが訪れますように。
そう願わずにはいられない旋律です。


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