涙を呑む鳥Ⅰ読書感想文(下)

上・下巻通しての感想

 今回『涙を呑む鳥』を読んで思ったのは、「これは紛れもなくイ・ヨンドが書いた小説だなぁ~」ということです。
 翻訳された文章で、訳者も違うのに「この文章イ・ヨンドっぽい!」と感じる箇所が多々ありました。

「オレノール、そなたの心の中で最も確かなものを疑い、最も明らかなものを放棄せよ。──(中略)──同じことだ。死を強要するのも、生を強要するのも」

 170ページのこことか、特にそう思いました。

 それと、「王とは何か?」というテーマがたびたび出てくるのも印象的です。ドラゴンラージャでもキルシオンを通してこのテーマを扱っていましたが、本書でも「王とは何か?」という問いが投げかけられます。

 そんな問いかけの中で出てきたのが「涙を呑む鳥」というワード。
 無敵王の祭りを終わらせたあと、ケイガンは「王は、涙を呑む鳥なのだ。最も華やかで、最も美しいが、最も早く死ぬ」という言葉を発します。
 王とは、自分がそうなりたいと思うだけでは成れず、求める人の存在によって王に成る……
 北部には王がいないという話も出てきますし、この「王とは何か」というテーマが『涙を呑む鳥』という作品を貫く一つのテーマなのだと思います。


 個人的に一番印象的だったのは、下巻79ページ以降のケイガンが離脱しようとしたシーン。
 ナーニがリュンを乗せたがらないことを理由として、大寺院までケイガンが同行することが決まったとき、ビヒョンとティナハンは喜び、ケイガンもまた彼らに対する執着が残っていることを自覚していました。

 この場面で思い出したのは、ジョジョの奇妙な冒険第3部のラストシーンです。

 ジョジョの3部では、日本からエジプトまで過酷な旅を続け、何人もの仲間の命を失いながらも、それでも最後には「この旅は楽しかった」と言い切ります。
 ビヒョン、ティナハン、そしてケイガンもこの旅は楽しかったのでしょう。どんなに危険で過酷な旅だったとしても。


 どことなく「西遊記」っぽさもあるなーと思いました。メンバーがちょうど4人ですし。三蔵法師の乗っている馬の白竜をナーニに当てはめればさらにピッタリ。


 本書は4部構成の一作目ということで分からないことが多いですね。
 セリスマ一派と大寺院が企んでいること、群霊者、龍人、ハヌルチ、斗億神……
 早川書房を信じて続刊を待つこととします。


細かい感想

ナガ、流石に温度変化に弱すぎじゃね?

砂漠地帯でも“極寒”なの?

何年か前にあったニシキヘビ脱走事件を思い出しました。
脱走したと通報があってから捜索隊がアパートの周辺を探したが見つからず、結局飼い主のアパートの屋根裏に潜んでいたという事件。

専門家が気温の低さから遠くには移動できないことを指摘してアパートのすぐ近くを捜索するようにアドバイスしていたが聞き入れられず、結局、天井からの物音で発見に至ったと記憶しています。
有能な専門家だなぁ~と当時思っていました。

寺院の暖房が温突(オンドル)

世界史の授業でやったわぁ~。韓国の伝統的な暖房装置だって。

鉄拳王

珪岩(ケイガン)を砕くってダジャレなのか?直前に“慧眼”も出てきたし。

「俺の仲間のことを化け物と呼ぶな」

ティナハンのセリフ。
ハッキリ「仲間」と断言するんすねぇ~。
気持ちの良い男だゼ。

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