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<無為フェス -Vol.2->#12 石黒萌子『I just place the things I collected and cherish them. (集めたものを置いて、それを愛でているだけだ。)』

2023年11月28日(火) 9時 - 21時

好きで集めているものや気がつくと集まっているもの。
私の家には脈絡なく長い期間かけて集まってきたものたちがたくさんある。幾度かの引っ越しも乗り越えてついてきたものも多い。
普段押し入れにしまってあったり、部屋の片隅に追いやられているそれらのものたちを、セノグラフィーとしてBUoYの地下空間に配置して愛でることが目的である。
観客/演者/演目不在のセノグラフィー実験。


スケジュール

9:30-搬入開始
10:00-空間に並べていく
12:00- 昼休憩
13:00- 鑑賞、記録
18:00 終了、片付け
(15-18時を一般公開時間とした)

配置したもの

  • 各地の蚤の市や古道具屋で見つけたガラスの小瓶やガラス玉

  • ヴィンテージの青い服たち

  • 見つけるとつい買ってしまう鉱石

  • 各地の古道具屋で見つけた小さな棚

  • 蚤の市で集めた古い写真

  • パンダのぬいぐるみ

  • 村上春樹の文庫本

  • いつかの制作で使った紙もの、ロール用紙

  • 展示や旅先で集めたポストカード

  • ミニチュアやスケールが通常より少し小さいものたち

  • 絵を描くことにはまっていた時に買いだめしていた白いキャンバス

  • 制作で使ったミラーフィルムの余り

など

広い地下空間の隅っこにものたちを運び入れ、設置してあるスピーカーにPCを接続してBrian Enoのアンビエント音楽を流す。
なるべく全体が見渡せる入口脇に三脚をセットしカメラで画角を調整する。


まず、ひとつの照明をコードリールに繋ぐところから始めた。

柱の位置や奥の浴槽部分の丸み、マンホールのような床の丸印、段差、壁面の色など既存の空間を意識しながら配置を進めていく。

どうしても浴槽側を背景に入り口側からの視点を意識した配置になってしまう。例えば棚は浴槽の方を向いた後ろ向きの配置にはならないし、柱と被って見えないというものもない、パンダたちも皆こちら側を向いて礼儀正しく座っている。
そのことに途中で気がついて修正しようかと思ったが、これがこの空間にとってのひとつのセノグラフィー解なのだと気づく。

以前、自身の大学院の研究で日常空間において「舞台的である」空間とはどんな特徴があるのかをまとめたことがあるのだが、たくさんある要素の中に「方向性(正面性)を持つこと」「段差があること」「背面(壁のような)を持つこと」があった。
BUoYの地下スペースの元銭湯部分は空間の奥の壁にくっつくように存在する。特徴的な曲線の浴槽部分が残っており、その手前からタイルの床面が一段上がって広がっている。

この広い空間をセノグラフィーの視点で見た時に、めいっぱい使おうとすると咄嗟にこの部分を一番「奥」と見なした構成になったのだ。
(もちろん解はこれ以外にもあると思うし、この文章を書いている今はトライしてみたい別の方向性もある。)

正面から見る。

セノグラフィーは一般的に舞台美術と訳されるが、Scenography = Scene+Graphicと考えれば、もう少し広義に捉えることができる。
シーンを意識しながら構成していくことがセノグラフィーと言えるだろう。

この観客/演者/演目 不在のセノグラフィー実験に置いて、そのSceneを強く意識させるのは、カメラの存在だった。
これはもちろん設置したカメラのことでもあるが、無意識に空間をフレーミングし、シーンをイメージしている自分自身の目のことでもある。

上手側から見る。

また、空間のスケールにもかなり影響を受けた。
BUoYの地下スペースは床面積が広く、縦方向より横方向の印象が強い空間だ。
広い空間に一斉に並べて鑑賞することが目的だったが、平面的に並べているとのっぺりとした印象があり、どうしても高さが欲しくなる。
家では大きいと思っていたものがとても小さく感じる。
置いてあった脚立を持ってきてその上にものを配置したり、ロール紙を寝かせずに立てて置いてみたりするようになる。
同じジャンルのものをまとめて並べようとする傾向もあった。これもひとつだと遠くから見た時のインパクトに欠けるからだと思う。

ホワイトキューブの空間ではできないサイトスペシフィックな構成になったことも面白かった。持ってきたものと元からあったものが自然と混ざり合っている状態が出来上がった。フレームに絶妙に入り込む既存の要素がセノグラフィーの強度を高めていた。

今回の配置を図面に反映してみたもの(グレーは既存)
公開時間には50人ほどの人がきて、個人的なものたちを一生懸命見てくれた。

他者に見てもらうための展示ではなく、この空間に思う存分に広げてセノグラフィーとして鑑賞したい、というとても個人的で贅沢な1日だった。
この大変無意味な余白的企画を場所を変えて続けていきたいと思っている。


information
Title : I just place the things I collected and cherish them. (集めたものを置いて、それを愛でているだけだ。)
Date : 28,November,2023  9:30-19:00 (open 15:00-18:00)
Venue : BUoY basement space
Scenography ( Installation ):Moeko Ishiguro
Photography:Moeko Ishiguro
Special thanks : BUoY、Hayatokurobe
Hosted by:無為フェス / BUoY

instagram :https://www.instagram.com/moekoishiguro
Web :https://moekoishiguro.com


BUoYスタッフより

無為フェスについてはこちらの記事をご覧ください。




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