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脚本解釈の話。恐れながら大きな所へつっこっみ失礼。

 最近、こうもしていられない、と日本のドラマもチェックする。んが。第一話からもやもや。小さな記事を見つけてさらに暗雲。なので書かせていただきます。テレビ番組がいつでも好きな時に見られる時代「ゴールデンタイム」と言う言葉がこんなに錆びつく日が来るとは思いませんでしたが。キー局、ゴールデン、お金かかってる所のやつへ。
 
 「ビリーブ」さんすいません。新聞記事に「〇〇(主演男優)さんのアイデアで、ト書きにはなかった動きが追加された。夫婦の何げないコミュニケーションから、2人の関係性の輪郭がくっきりと浮かび上がった瞬間だった」って絶賛記事、脚本を書く立場から付け足したその内容が気になってました。そしてその内容が追って別の記事でわかりました。1話は見逃し配信でいつでも見れますのでご興味ある方はそちら確認しながら読んでみてください。ネタバレしますので承知の上で読み進めてください。
 
 付け足されたのは、うっすら喧嘩っぽい会話の最中、妻を抱き寄せて「痩せた?」って動きでした。私はこれを見た時に、おや? と思いました。そして、これが役者によって付け足されたものだと知ってものすごく納得しました。
 違和感の理由は一つです。仲良んだか悪いんだかどっちに描きたいかわからなくなったからです。どっちかわからないようにしたいなら、どっちかわからないようにしたい、という意図をお客さんが受け取れるようにしなければ。「で? どっち」ではダメです。偉そうですが。一視聴者としてそう思います。二人暮らしなのに余命1年の癌(余命がわかったのは裁判中、という設定)になった事を言わないなんて、とんでもない精神的な断絶です。そこにたどり着く納得感があるような「日常風景」を設定するべきでした。新聞記事は「輪郭が浮かび上がった」とほめていましたが、確かに、輪郭は浮かび上がりましたよ。でも物語に沿った形でなければマイナスでしかありません。ドラマはバラバラの部品でできているではないのだから。ここで凹っとしたらどっかで凸ってなってる。時間も空間も含めた重層的なもので、それがよみきれてないとこうやって迷子の凹を産んでしまう。よかれと思って。脚本が軽視されてるなあ、とも思います。
 
 一文字も変えるな、という脚本家もいますが、私はそれが正解とも思ってません。脚本を読めている役者がその場で適格なアドリブを思いつくならそんな素敵な事はありませんし。実際にとても素敵な場面に遭遇したことあります。でもこの場合、詰めが甘く、違和感を産んでしまった。もしどうしても付け足したいのであれば脚本家に相談してやればよかった。意図をくみ取ってうまいこと修正してくれたと思います。
 この場合、おそらく妻を想う感じを出したかったのだと思います。(決してアイデアの披露をしたかったわけではない、はず)その方向は後の脱獄衝動につながるので間違っていないと思います。でもガンの話ができないくらいの精神的に距離がある設定も同時に存在するので、抱き寄せた後、または触ってきたらすぐ女優さんは全力で離れるくらいの演技が必要だったと思います。実際はしっかりと抱き寄せられた後、見つめ合って相手の耳元に近寄ってささやき返します。その中身が喧嘩のセリフであっても、精神的にも身体的にも仲いい夫婦にしか見えません。それなのに、ガンを言わずに夫の投獄を見送ってしまう。つながっていない。そうだ、そうそう、刑務所で「れいこ」と名前を呼ぶと「急に名前で呼ばないでよ。心臓に悪い」みたいなセリフがあるんですが。これは日常の仲の悪さを表現したかったと思うですが、下の名前呼ばれてびっくりする妻が腰を抱かれてあの反応。やっぱりつながってない。
 精神的な一貫性にかけるとその人物がそこにいるのを脳みそが信じられないので物語を追おうとする気持ちがしなびます。私は。監督の目に見えない仕事が大事なのにな。
 
 未熟な提案をよくよく検討せずに足す現場もおかしいのに、その提案が絶賛される。脚本家は何を思うのか気になるところですが、業界でスーパー大御所ですが先生にも恐れながら突っ込ませていただきます。いや、実質、どなたのアイデアかわかりませんが。
 主人公が「細かい事に気が付く」という設定をつくりたい、という事ですね。で採用されていたのが歯磨き中にちょっと歯磨き粉の向きを変えていた、というシーンを一発はさんでからの「俺の歯磨き粉使っただろ」でした。やりたい事はわかります。「歯磨き粉には気が付くけどガンに気が付かないキャラ」ですね。後に刑務所で「あなたは歯磨き粉を私が一回使っただけで気が付く人よ」そんなあなたが「(設計の)おかしな所見逃すはずない」って強めのセリフがあるんです。主人公が隠していた事実を白状する流れのきっかけになるセリフです。でも歯磨き粉使ったの気づくから設計逃すはずない、って……。 おそらく先生も弱いわね、と思ったので歯磨き粉を「一回使っただけで」と手を入れたんだと思いますが。恐縮ですが先生! アイデアどのくらい練ったんでしょうか!
 
 つっこむだけならだれでもできるんで。僭越ながら私だったらこうします、を考えてみました。主人公、建設にかかわる人、ということで、例えば、

歯を磨きながらタオルハンガーの見えにくい部分のネジが一か所を見て何か気が付き、少し触る。(現在の洗面所の歯磨き粉クイの替わり)
場所変わってリビング。
夫「ネジかわったね」
妻「一個取れてたのから入れたの」
夫「取れてた取れてた」
妻「……」
夫「あそこに下地入ってないから。そりゃ取れちゃうよ」
妻「あそこが一番使い勝手がいいの」
夫「どうしてもつけたいならアンカー使った方がいいんだけど、また使ってなかったでしょ(つぶやき)またすぐとれんだろうなあ」
妻「……」 
夫「あとどうせつけなおすならステンレスのにすればよかったのに。水場なんだから」
妻「何か違うの」
夫「違う違う全然違う、スチールつったら錆が」
妻「(遮って)じゃ、あなたがやればいいでしょ!!」
夫「(急に怒られてびっくり)」
妻「皆の為に大きな橋は作っても、家族の為に小さいタオルハンガーの釘一本つけられない。あなたらしい」
 
ってどうでしょう。そしたら業界人ぽいし、細かい事に気づいても妻の病気に気が付かなそう。妻の方に癌になっても「あんたには言わないわよ」って感じが匂うかもしれないし。あと、あれだ。眺めていて気付いたけど、夫婦としての夫は認めてなくても「橋屋」としての夫の事は認めてる感出てるじゃない。いいじゃない。刑務所シーンの歯磨き粉に気づくから、おかしな所見逃すはずない、よりも、タオルハンガーのネジ一本変わっただけで気が付く人が(設計の)おかしな所見逃すはずない、の方がジンワリ説得感増しませんかね。だねえ、って。
 
 「人」を作ろうでなく「ドラマティック」を作ろう、に走らないようになりたい。自戒込め。自分の脚本、がんばって作っている。

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