脚本解釈のヒント

 演技練習用脚本「ひめ」を例に話を進めてみます。
 思ったより皆さんに見てもらってるようで、嬉しいですが。

 あの、演技を創作してもらえましたか。ふふふ。せっかくですので、自分で一つ演技を作ってから読み進めてください。発見が増えるかも。

 何回が言ってますが、演技の為に脚本に喜怒哀楽なんて書いていけない事になってます。でも時間と実力のない現場で必要悪とされているのが現実です。浅い段階での解釈の間違いを防ぐためです。(少し前、朝ドラ主演の女優さんが〇〇さんの脚本には「ここで笑う」と細かく書いてあって世界観がきちんと定められていてすごいんです!と脚本を絶賛していました。そういうテンションで話す話じゃあないよな、と思いました。ものすごく平たく言うと、時間ないでしょ、と言われてんのよ、と思いました)

 「ひめ」の話に戻ります。この台本、当日現場につくまで本人たちの演技を見た事がない、打合せの時間もないという状態でした。そして、2人のうちの1人の役者はほとんど演技の経験がない事も知っていました。私も演出をほとんど分かっていません。そこで必要最低限「笑う」を入れてました。

 3か所、入ってます。
一つ目、男がイタズラされて笑う。この男は漫画を読んでいる最中にイタズラされて怒る男じゃないよ、と言いたかったので「笑う」。イタズラされて怒る男じゃない、と伝われば笑わなくたっていいわけで、「笑う」の記述によって演技の無限の選択肢を奪っているわけです。

 二つ目、女が水を掛けながら笑う。誕生日を忘れられた女はここでダイレクトに怒りを表現しにいかないよ、隠したいのよ、と言いたかったので「笑う」。その意図が伝われば……そう、笑わなくてもいい。

 三つ目、チークダンスになって笑う。これが一番いらない「笑う」と気が付いたのは現場でした。我ながら、これはいかん。最低です。これは結果的に大変な誤解を招いてしまいました。この笑う、も引き続き、ごまかしの笑う、のつもりで書いていました。ごまかせれば、どんな表情でもいいわけです。

 そしておそらく女優さんは台本を頭に入れる中で「誕生日を思い出してもらったから」「笑う」と間違って組み立ててしまったようでした。「誕生日忘れてた」と聞いたとたんかわいい顔でにっこりと笑いました。

 演出のやり方を勉強していない私は本当に「びっくり」して「そこは笑わないで」と瞬間的に言ってしまったのです。女優さんの戸惑った表情が忘れられません。彼女は私が出会った初めてのきちんとした役者さんでした。(そしてそれを猛省して勉強を始める事になりました)その後、なんとか説明して素敵な演技を作ってくれました。

 演技の創作というものすごく面倒な、時間のかかる作業なのに、解釈を間違えていたら、1から作り直しです。どうすればいいでしょう。
 脚本全体で言いたい事。そしてシーンが言いたい事。これを掴みます。もし、万が一、これに自信が持てない場合はすぐに確認してくだい。恥ずかしくありません。現場で間違えている方が大惨事です。ひっそり、次の仕事に呼ばれないだけです。

 以前、役者のシナリオ読解のための講座で解釈は脚本家に聞いてください、と書いてあるのを見たときは冗談みたいで笑ってしまいましたが、本当にそれが最も近道です。監督、脚本家に聞いてください。ただ、監督は役者と脚本家で話をしてもらいたくない人が多いかもしれないので、信頼関係の為に解釈確認の仕方については先に打ち合わせておいた方がよいですね。

 もちろん、自分だけでできるのが「当たり前」とされています。

 解釈の為に、私がいつもお願いしているやり方は、一番のピークのポイントを抑える事です。この「ひめ」のクライマックスはキスシーンです。キスシーンが一番素敵になるには? しかも2回しているなら2回目で一番盛り上がるべきです。2回目のキスでやっと男は女の心をつかむ事ができる、シンプルです。その前は、女は決して心から微笑む事はありません。ここから入ればあとの演技は自動で方向が見えてきませんか。

 もちろん。ここで笑うからここまで笑わない、じゃあ、ありません。それはマガジンでも説明してきましたが、ドキュメンタリーです。基礎中の基礎ですが演技で「感情」を作ろうとするのは間違いです。そのような全体の話を捉えたうえで、状況を自分で設定していくのです。(詳しくは本物の演技の書籍で勉強してください)どんな感情を感じるかは演じてみて始めて分かるのが正解。

 台本ト書きに書かれている「感情」をはじめに全部消す、という役者さんの話も聞きますね。良いと思います。感情表現は時間をかけて本が読めない人達(外部、プロデューサー)用と考えてよいのです。

 以前、まさに「整備不良のポルシェ」みたいな役者さんに会った事があります。解釈がトンデモないのですが、解釈を説明すると自分の心と身体を思った通りにコントロールし、とても素敵な演技をするのです。なんて、めちゃくちゃ、もったいない、と。解釈と演技。分業もあっていいと思うのだけれど…。実際はそうも言ってられないわけです。

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