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技術ある表現者

 ちょっと古いですが昨年のM―1、すごく楽しみました。その中で優勝したコンビが路上ミュージシャンについて「人の歌を我が物顔で歌う痛いやつ」というフレーズを使いました。……ふふ。笑ってしまいましたが、真面目に考えてみると、他人の創作物で気持ちよくなっているだけの時に受け手にそう感じられてしまうんだろな、と思います。受ける人はド素人だろうがなんだろうが、そういうのは感じるったら感じる。
 
 そんな事を考えると脚本と演者の関係がそこで終わっている場合もよく見かけます。(演技する前に、そもそもの脚本という創作物が未熟な場合はなおさら残念な結果になってしまうんですが)
 
  「痛いやつ」の表現はみんなに見覚えがあるからこそ笑いになってしまうんですね。「痛いやつ」を乗り越えるハードルは確かにとんでもなく高い。あまり乗り越えられてる人を見たことがない。

 だからなんだか「作った人が表現するのが偉い」風潮がある。素人だから言いますけど、この風潮の要因は表現者の力不足、あるいはプロデューサーと呼ばれる人たちの発掘力不足。意欲不足。見る目のなさ、なのか。それともあれかな、見た目がよいだけの「アイドル」によって歌が中途半場に「使われた」事があったからかな。

 私はどこかで原作者と表現者は別モノの時のパワーが好きです。昭和のスターには多いですね。個人的にはこっちが好きです。だって原作と表現の筋肉は全然違うところだから。使う場所も鍛錬する場所も違うわけだから。

 原作者と表現者が同じである事の良い部分も分かります。ごくまれに両方を備えている表現者もいます。原作者が表現していれば、それだけで受け手は表現の中に「リアル」を勝手に想像してくれます。信憑性を感じてくれる。「表現力」という意味ではそれだけで半分くらいの高さの下駄が履ける。でもそういう利点を利用できる半面、リスクも背負いますね。これは本人の「恋」の話か、過去のゴシップの「あの人の事か」なんて、受け手も引いてしまうような事があります。
 
 アメリカのゴット・タレントという番組が好きですが、あの番組は冒頭や演奏後に演者が自分のリアルな状況を話すことで「表現」の出力が変わる時がよくあります。「大切な友達を無くしました」と言って友達を想う歌を歌いだす時。賞金は何に使いますか、と聞かれて「ステージ4の父の為に使いたい」と少女が言う時。表現に加味される。それごとがエンターテインメントで、すごいパワー。これはこういう前提の番組だからいい。だってこれはプロでなくてある意味の「素人」の番組だから。

 表現者=原作者の時のまずい部分を考えてみる。まず、極単純にそれぞれに費やす訓練の時間が半分ずつになる。次に自分で作ったものを自分で表現しようと思った場合、ほんとはこの音の方がドラマティックだけど、俺という楽器は2オクターブしか出ないから……などと制限がかかる。ほんとはここまでやりたいけど、俺の恋人が、家族が、友人がなんて思うかななどと考える。これがブレーキでなくてだんだろう、と思う。声かすれても高音苦しそうでも声量足りてなくても原作者が歌ってんのが響く!ってのはなんか「思い込み」ごと味わってるいるところもあるんじゃないでしょうか。いいじゃないか、それが好きなんだ、と言われても否定しませんが、もっと「高いところ」に連れて行ってくれる表現者がいたらそっち見たいですよね。見たことないだけで。例えば「なごり雪」はなぜイルカさんのカバーバージョンの方でヒットしたんでしょう。演技で例を挙げようとすると脚本家の頭の中と実際の演技を比べる事になるので無理ですが、歌でしたら良い例がたくさんあるので見つけたものを最後に貼っておきます。古いですが。素敵。
 
 演技については、これ、すべて分業だから必ず、すべての演者にスーパー筋肉を求められている、という事ですね。

 こう書いてきて私の好きな表現者について改めて考えてみました。
 「表現者」は自分の見た世界、解釈を、(蛹から成虫のような変態を経るように)自分自身の遺伝子と歴史と技術を通して分解し作り直して、受け手に届ける事ができる人。

原作者による表現
https://www.youtube.com/watch?v=HFuwsel1zyI

解釈による表現
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=H2TR3oEA13o 

原作者による表現
https://www.youtube.com/watch?v=CcNo07Xp8aQ
解釈による表現
https://www.youtube.com/watch?v=WSinMOs5eGw
 
原作者による表現
https://www.youtube.com/watch?v=oslkCLGF8Xk
技術と解釈の表現
https://www.youtube.com/watch?v=BviaZV97VJ8


 

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