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パート1 脚本をすごく解釈したくなる為に(カレーライス脚本解釈術2)

脚本解釈について改めて解説したい3つの理由

理由1 解釈についての情報不足と解説のアンバランス

 役者の演技創作の為の本は、皆さんご存じの通り本当にたくさんあります。素敵な事に翻訳も次々なされています。それらの本が解説している内容について改めて考えてみます。

 作品公開をカレーライス提供に例えてみると

 本番までの役者の作業の流れを整理します。カレーライスを提供する作業に例えてみます。なぜ、カレーライス? それぞれの作業量の重さを身近に感じてもらう為です。

 脚本は、こんな具材が入ったこんな味の風カレーがあったらどうですか、と文章で提案します。脚本はレシピではありません。完成品の描写と捉えてみます。こんな具材があって、こんなルーだったら、こんなカレーでおいしそうですよね、と。あなたが引き受けた役はそのうちの具材の一つと例えます。5段階で考えてみます。

本番までの作業

A 作品とは別に、日頃の基礎力の鍛錬(個人作業)

必須の素地:モチベーション、日常、継続的な自他の感情に対する興味と感心など

作業内容:稽古と勉強

カレー提供に例えると→畑の開墾、材料を育てる、改良する。調達するお店の知識、畑の勉強。

B 脚本を読む(個人作業)

必須の素地:読解力、日常、継続的な自他の感情に対する興味と感心、感受性。

作業内容:・ホンのやりたい事を理解する。

     ・歴史や専門分野など必要であればリサーチ。

カレー提供に例えると→出来上がりをイメージし、自分の分のライスを準備。作品に合わせ、オーダーされた材料の調達

C 演技を具体的に考える(個人作業)

必須の素地:技術、経験、日常、継続的な自他の感情に対する興味と感心、感受性。

作業内容:演技を構成する。表現の選択、身体的な訓練が必要な時も

カレー提供に例えると→実験調理、下ごしらえの試行錯誤 

D リハーサル(共同作業)

必須の素地:コミュニケーション力、技術、経験、専門分野であればと特殊な訓練(個人、共同作業)日常、継続的な自他の感情に対する興味と感心、感受性。

作業内容:本読みで他者と調整、再構成、または修正する。

カレー提供に例えると→実際の調理、試食、調整、全体が一番おいしくなるよう完成に向ける。

E 本番で表現する。必要であれば修正する。(共同作業)

必須の素地:身体をコントロールする力、技術、経験、感受性。

作業内容:本番で表現する。必要であれば修正する。

カレー提供に例えると→カレー販売開始、その中で微調整。

 この5段階、私の独断でその重要度を円グラフにしてみます。(作業量のグラフでない事に注意、作業量についてまた違う割合になるので後程触れます。)Aは重すぎるので、当然の礎という事で、B以降で作ってみます。

皆さんとイメージ比べていかがですか。

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 そんなに解釈が場所をとるものか、と感じる人もいると思います。

 私が脚本を書くので解釈の比重をひいきしてる、と感じますか。確かに解釈の作業量はそれほど多くないかもしれません。でも、ここでしくじれば後は総崩れになるのは間違いありません。最初からやり直しです。最後まで読んでもらえたらこのグラフの感覚をわかってもらう自信があります。

 演技の本で解釈に触れる部分はわずか

 映像には小説と違い、動きや音、色や時間など、あらゆる要素が入っています。セリフという「言葉」だけでなく、状況、演技、セリフなど様々な要素含め、でやっと「意味」が完成する企てもよく見ます。そのため、セリフのままに演じれば、まるで意味が伝わらなくなる場面も珍しくありません。

 私が演技の本を読み始めた動機は間違って解釈されやすい自分のホンへの誤解を減らす為でした。思いがけず、衝撃的に面白くかんじました。演技はそういう風に作っているのか! と、仕組みが見えて夢中になりました。自分のホンを役者に明確に伝える事ができる可能性に触れて、本当に感動的でした。

 一方、演技の作り方はこんなに面白くて、明確で、戦略的なのに、なぜ一番大事な脚本解釈の話がほとんど書かれていないのかとても不思議に思いました。少し、一般的な演技の良書の内容を見てみます。

 例えばイヴァナ・チャバックさんの『イヴァナ・チャバックの演技術:俳優力で勝つための12段階式メソッド』の中で、本番までの12の準備にわかりやすく分けて解説しています。傾向を項目別に分けてみます。読まれた事がある皆さんもそれぞれの項目がどの段階に強く作用するか想像して見てください。

1 全体の目的 C

2 シーンの目的 C

3 障害 C

4 代替者 C

5 インナーオブジェクト C

6 ビートとアクション C

7 すぐ前の出来事 C

8 場所と第四の壁 C

9 ドゥーイング C

10 インナーモノローグ C

11 過去の状況 B,C

12 手放す E

  脚本解釈の話が随分とわずかですね。もう一冊、素晴らしい演技についての本。ウタ・ハーゲンさんの『“役を生きる”演技レッスン』は299ページ3つのパートに別れています。

パート1 A

パート2 Cの為のA

パート3 B、C、D、E 役作りを全11章で説明。

 このわずかなBについても、解釈は演出家が決めるけど、自分もやっておきましょう、という姿勢です。しかも、何度も読んで脚本をリサーチすると「質感が得られる」、「論理や理屈ばかり思索しない」と、とっても感覚的だ、と感じます。

 この本を作るにあたり、日本の映画監督が脚本の読み方について解説している本がありましたので、内容を確認しました。脚本解釈の大切さについてお話されていて、それを大きな理由として本を書かれたのは素敵だと思いました。ただ「映画監督」が書かれているからか「映画監督の脚本解釈術」のように感じます。十分な経験や素地がある人ならそれで乗り越えていけるかもしれませんが、これがわからないのか、と言われたら役者は大変苦しいだろうと思います。

 後程解説しますが、脚本解釈は「恣意的」な部分があります。監督の恣意的解釈は必要であれば監督が説明すればいい、と思います。もちろん、考え方の違いがあって当然なので、これから私が指し示すことが「邪道」と言われる覚悟もあります。皆さんが試してみて、しっくりくる場所を見つけて下さい。

 演技を作る本は、カレーライス提供の作業から言えば、レシピ本です。詳しい作り方が載っている良い本はたくさんあけれど、肝心の材料をどう準備すればいいのか触れられてない、センス・感覚まかせ、という感じです。材料のことは書いてないのにくわしい調理法はこれでもか、と書いてあるので、なんとなく全部が書かれているような気持ちになるのも問題です。

 Dの部分(演出や他の役者とのかかわりで作る部分)も比重は大きいですが、私の経験値が十分でない、という事と、演者と演出の関係に特化した本はあります。また、DはBの部分(解釈)をしっかりとこなしておく事でかなり楽になる作業内容です。(とはいえ個人的にはDパートが一番苦しく楽しいパートなので修業と経験を積んでいつかまとめたいですが)

 普段の鍛錬(A部分)についても詳しいものがあります。でもそれをレシピとどうつなげるのか、その橋渡し部分が不十分だと感じます。だから役者は「当然」とされている材料を適当に、たぶん、これね、と買ってくる、そんなイメージです。(一方、評価されている役者は素材そのものについてよく知っていて、それを普段から地道に畑で育てていたり、自分で揃えられない時も、幅広い知恵を持って、良質の素材を売るお店を知っていたり、下ごしらえする知識を持っている、と考える事ができます。)

 「皆できてるでしょ、わかるよね」から話が始まるのに現場では「あの役者はホン読めない」という言葉が度々聞こえてくる。読めない人はセンスない、とばかりです。本来そういう話はだいたいセンス「合わない」でいいはずです。

 他の部分(A、C、D、E)は良書がたくさんありますので、是非たくさん読んでみて、合うものを選択してください。

 次回は理由、2つ目です。


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