文徒インフォメーション Vol.36

Index------------------------------------------------------
1)【Book】平山亜佐子「問題の女 本荘幽蘭伝」は痛快だ
2)【Publisher】「もし外岡秀俊が朝日の社長だったら」のifは重い
3)【Advertising】「JAA広告賞 消費者が選んだ広告コンクール」グランプリ決定
4)【Digital】実在の人気ゲーム配信者をコミック化
5)【Magazine】「週刊文春」編集長・加藤晃彦「雑誌はデジタル化で三つの壁を超えられる」
6)【Marketing】「週刊朝日」創刊100周年は阿川佐和子の記念対談
7)【Comic】坂口尚「石の花」がKADOKAWAから大判で復刊された
8)【TV, Radio, Movie& Music】ネトフリ「新聞記者」絶賛が忘れさせる危険
9)【Journalism】新聞の速報至上主義の矛盾があらわになってきた
10)【Person】朝日新聞33歳記者の自殺はいまだに深掘りされていない
11)【Bookstore】書店も地域の課題を解決するサービスを提供できないか
----------------------------------------2021.1.17-21 Shuppanjin

1)【Book】平山亜佐子「問題の女 本荘幽蘭伝」は痛快だ

◎田畑書店社主の大槻慎二は「論座」に1月14日付で「吉村萬壱『哲学の蠅』を読む──『文学の正統』に連なる脱ぎっぷりの良さ」を公開している。
《「異端」であって、あくまでも「正統」。つまり「文学的正統」の系譜に著者はいるのだとわかる。》
《さりげなくどうしようもない市井の人々の描写ひとつひとつが妙に哲学的に立ち上がってくるから不思議だ。2つの本を交互に読み進めると文学と哲学の無限ループにおちいる。これもまさに「正統」のなせるわざだろう。》
https://webronza.asahi.com/culture/articles/2022011300002.html?page=1
「哲学の蠅」の版元は創元社である。

◎1月15日付毎日新聞の「今週の本棚」は平山亜佐子の「問題の女 本荘幽蘭伝」を取り上げている。評者の京大名誉教授・若島正(米文学)は次のように絶賛している。
《幽蘭の生命力に魅せられた著者は、足かけ八年という長い歳月を費やして、あちらこちらに散らばった膨大な資料に目を通し、ジグソーパズルを組み立てるように、幽蘭という怪物とそのまわりに群がった人物たちを再構築した。それはまるで、時代を超えて、幽蘭の魂が乗り移ったような、蛮勇のふるまいだとしか言いようがない。》
https://mainichi.jp/articles/20220115/ddm/015/070/032000c
本書は日本、中国、台湾、朝鮮を舞台にして女優、新聞記者、喫茶店オーナー、活動弁士、講談師、劇団座長、尼僧など数十の職業に就きは生涯で五〇人近い夫を持ち、一二〇人以上の男性と関係を持った、まさに「問題の女」本荘幽蘭の評伝である。「痛快」という意味において「快作」にほかならない。
東京新聞も昨年、11月21日付で書評に取り上げている。評者は作家の小松成美。
《世間を騒がせながら姿を変える幽蘭の軌跡をたどる文章が、ある種の痛快さをはらんでいるのは、著者の視点に哀れみや施しがないからだ。歴史家のような探究心と愛情が八年という歳月をかけた一冊にみっちりと詰まっている。
ジェンダー平等やダイバーシティが叫ばれる令和に幽蘭が生きたなら、時代のフロントランナーになり得たかもしれない。それとも、女の事件簿の主人公か。その終末さえ知れぬ幽蘭の存在に、胸がざわざわとしている。》
https://www.tokyo-np.co.jp/article/143821
私は「問題の女 本荘幽蘭伝」を読み終えて、困ったことに本荘幽蘭に恋してしまった。さすが「戦前尖端語辞典」(左右社)の平山亜佐子である。彼女の次作も読みたい。
平山がツイートしている。
《拙著をたくさん取り上げてくださるのはとてもとても嬉しいのですが、どうかわたしに次の本を書かせてください。専門性がなくて依頼しづらいのは重々承知ですが、オリジナルの企画はたくさんあります。こんなの売れるのかな? と思われるようなニッチなジャンルかもしれませんが出すと意外と好評です。》
https://twitter.com/achaco2/status/1482225551620608001
「夫人小説大全」の完成が待ち遠しい。
http://s-scrap.com/7265

◎朝日新聞は1月15日付書評面で小田雅久仁の「残月記」(双葉社)を取り上げている。評者の大矢博子は絶賛している。
《物語の余韻がいつまでも消えてくれない。小田雅久仁の9年ぶりの新作は、それだけ待った甲斐のある圧巻の中短編集だ。》
《どれも真面目に生きてきた主人公が非現実の中に放り込まれる。残酷で救いのない世界を、著者は抜きんでた筆力で克明に描き出した。その〈非現実のリアリティ〉が凄まじい。非現実が現実を照射する。次第にそのふたつが地続きであるような感覚に陥る。それは歴史と未来が地続きであるのと似て見えた。》
https://book.asahi.com/article/14522015
大森望も「超絶大傑作」とまで評価していた。
https://twitter.com/nzm/status/1460447851616497666
「本の雑誌」のツイート。
《【本日の一冊】小田雅久仁『残月記』(双葉社)。一月号新刊めったくたガイドで大森望さんが5つ星!をつけてますが、社内でもみなで面白い面白いと読んでおります。見返しと別丁扉の紙も素敵。》
https://twitter.com/Hon_no_Zasshi/status/1468388260829626368
丸善お茶の水店のツイート。
《【2021年店長おすすめ第1位】
2021年に読んだ本の中で最も面白かったのが
『残月記』小田雅久仁(双葉社)でした!
この先「月」を見るとこの物語を思い出してしまうでしょう。
文芸書話題書コーナーにて展開中です。》
https://twitter.com/Ocha_MARUZEN/status/1478918826377252864
そういえば豊崎由美がこんなツイートを投稿していた。
《第166回芥川賞直木賞の候補作が発表された。
小田雅久仁の『残月記』は候補に挙がらなかったか。相変わらず狭量だなあ、直木賞の下読み委員は。》
https://twitter.com/toyozakishatyou/status/1471695739776823296
豊崎、痛いところをついている。
日本翻訳大賞の生みの親でもある西崎憲は、小田雅久仁を《現代の日本の最高レベルにいる作家》だと評価している。
https://twitter.com/ken_nishizaki/status/1371118666536738824

◎「新聞記者」の原作者でもある望月衣塑子が、が等身大の菅義偉を描く柳沢高志「孤独の辛相」(文藝春秋)を絶賛している。
《菅義偉前首相に食い込んだ、柳沢高志記者の「孤独の辛相」。菅氏の功罪を描き、菅氏の本音が見えた一冊。面白く一気に読了
これと決めたら省庁を動かし、政策遂行する剛腕さは流石だが、結局それも権力闘争のため
側近のスキャンダル対応に追われ、日々の支持率に一喜一憂。これが最高権力者の姿とは》
https://twitter.com/ISOKO_MOCHIZUKI/status/1482882920469901312
山口一臣が望月に同意。
《面白かったねぇ~》
https://twitter.com/kazu1961omi/status/1482924498437689346

◎世界文化社は、生理にまつわる疑問や不安をイラストでわかりやすく医学的に解説した、韓国発の生理トリセツ本「生理中です」を刊行している。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001236.000009728.html

◎朝日新聞が運営する「好書好日」の「じんぶん堂」は1月18日付で名嘉真春紀の「読者が変えたベストセラー――『日本国紀』元版と文庫版を検証すると(後編)」を掲載している。名嘉真は浮世博史による「もう一つ上の日本史 『日本国紀』読書ノート」(幻戯書房)の担当編集者である。
《もとより、『[新版]日本国紀』を読んで面白かった、初めて日本史に興味を持った、という方の「感動」を奪ったり否定したりする気持ちは、私にはありません。ただ願わくは、その「感動」を、より良いかたちで活かしていただきたい、と思うのです。
オススメは、「面白い!」と勢いがついたその流れでぜひ、歴史に関する他の本も読んでみてはどうでしょう、ということです。すべての本はその一冊だけで成り立っているのではなく、あらゆる他の本へと開かれ、広大なネットワークを形成している。読書の醍醐味は、単に「真実を知る」よりも、むしろそこにある。『日本国紀』のロジックに則っていえば、参考文献が一切なく「鎖国」していた百田さんが、文庫版では参考文献をたくさん挙げて「開国」している。とすれば、本当の「民主化」が始まるのは、ここからではないか?》
https://book.asahi.com/jinbun/article/14521046

◎初沢亜利の写真集「東京 二〇二〇、二〇二一。」が徳間書店から刊行されたのを記念し、日本橋小伝馬町のギャラリー「Roonee 247 Fine Arts」で、写真展「匿名化する東京」が1月30日(日)まで開催されている。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000399.000016935.html

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