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【今日コレ受けvol.065】分娩台のテニスボール

朝7時に更新、24時間で消えてしまうショートエッセイ「CORECOLOR編集長 さとゆみの今日もコレカラ」。これを読んで、「朝ドラ受け」のようにそれぞれが自由に書くマガジン【今日コレ受け】に参加しています。


突然の告白で恐縮だが、女性に乳首をつままれながら、腕にお灸をすえられたことがある。
変態プレイの話ではない。出産の話だ。

その日は、朝5時に陣痛が来て病院に行ったのに、子宮口がなかなか開かず。夕方になって、陣痛がちょっと治まってきてしまっていた。助産師さんが見兼ねて、「オキシントン」を分泌するためにやって下さったのだ。

オキシトシンは、赤ちゃんがおっぱいを吸うとお母さんに分泌され、母乳が出るのを促してくれるホルモンだ。「幸せホルモン」とも呼ばれていて、ポジティブになったり、集中力が高まるなどの効果もあると言われている。
そして、出産時には陣痛を起こして分娩を促進してくれるのだ。

というワケで冒頭の処置である。お灸も、オキシントンが出やすいツボが腕にあるということでやっていただいた。それが17時頃の話で、子宮口が8cm開いて分娩台に移動したのは、23時半頃。私にはあまり効かなかったのかもしれない。

けれど、なにせ人生ではじめての体験(そしてきっと最後の体験)だったので、強烈に記憶に残っている。一体その場をどんな顔で受け止めたらいいのか、「表情の置きどころ」に困った。


出産は本当に未知の世界だった。
ほかにも例えば、子供はぐりぐりと頭を回転しながら子宮口まで降りてくるのだが、その力でギューギュー押されて、お尻が痛くなる。
超絶下したいのに下せない、その20倍くらいの痛みと圧迫感…を想像してみてほしい。

分娩台に乗ったとき、脇に黄色いテニスボールが目に入り、「なぜここに?」とかなり疑問だった。それは実は、お尻の痛みを抑えるための秘密道具だったのだ。

なぜか、お尻にテニスボールを当て、強く押してもらうと、痛みがかなり楽になる。人体の不思議。東京から飛んできた姉がその役を買ってでてくれて、非常にありがたかった。
「お尻にテニスボールを当てて押してほしい」なんて、イレギュラーな案件すぎて、姉以外にはちょっと頼めない。


と、そんな出来事を昨日、さとゆみゼミ同期のあおもんちゃんの出産を知り(本当におめでとう! そしておつかれさまでした!)、今朝、「今日もコレカラ」に登場したオキシントンで思い出したのだった。

それにしても、人生まだまだ初体験のことがあって面白い。
健康には感謝しているが、万一病気になっても、「おお、私の身体にこんな症状が出ることがあるのか!」とかなんとか、辛いなかでも観察していそうだ。

そういう意味では、「死を知る」瞬間も。
いや、もちろん絶対に死にたくないし、できるだけ長生きしたい。

それでも、いつか訪れてしまったとき。
やっぱりどこかで「はじめて」に驚き、面白がっている自分がいるんじゃないかと思う。

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