年間ベストアルバム2020
今年よく聴いたアルバムを12枚選びました。特に順位は決めていません。
1. "Tara Clerkin Trio" Tara Clerkin Trio 〈Laura Lies In〉
ブリストルを拠点に活動するTara Clerkinを中心に結成されたトリオのデビュー作。ループで作られるリズムとエキゾチックなムードはPierre Bastienに少し近いものを感じる。ダウンテンポやトリップ・ホップとは一味違った風通しの良いサウンドスケープ。
2. "I'm Cindy" Cindy 〈World Of Paint〉
〈Beats In Space〉〈Dekmantel〉〈Pinkman〉〈1080p〉などの有名レーベルからリリースの経験もあるPalmbomen IIことKai Hugoによる変名ユニットCindyのデビュー作。SFテレビドラマ『X-ファイル』に登場する架空のキャラクター、Cindy Savalasの世界観を探求したコンセプトアルバム。ボーカルを務めるのは、女優/映像作家のBlue LoLãn。ドリーム・ポップやシューゲイザーの影響を感じさせるサウンドとイタロ・ディスコ風のローファイで温かみのあるシンセのループによって催眠術にかかったような気分になってくる。アルバムに併せて製作された三編の映像作品もアルバムのコンセプトに沿うものであり、とてもエステティック。
3. "Room for the Moon" KATE NV 〈RVNGIntl.〉
モスクワを拠点に活動するアーティスト、Kate NVことEkaterina Shilonosovaの3作目。無国籍なヴォーカル、フォークロア的なメロディー、タイトで硬質なビート、80年代の日本のニュー・ウェーヴのようなサウンドが融合している。MARIAH『うたかたの日々』を思わせるアヴァンギャルドなポップ・センスに満ちた一枚。
4. "Elephant" Frederik Valentin & Loke Rahbek 〈Posh Isolation〉
デンマーク・コペンハーゲンを拠点とする〈Posh Isolation〉の設立者Loke Rahbek(Croatian Amor)と非定型ポップグループKYOのFrederik Valentinによる2回目のコラボレーション作品。ギター、シンセ、ストリングス、フィールド・レコーディング、ピアノといった、アコースティックの要素とエレクトロニックの要素が有機的に絡み合っていて繊細なテクスチャーと没入感のあるアンビエンスを楽しめる。
5. "Shall We Go On Sinning So That Grace May Increase?" The Soft Pink Truth 〈Thrill Jockey〉
MatmosのDrew Danielによるサイドプロジェクトの5作目。コーラスのJana Hunter、Colin Self、Angel Deradoorian、サックス奏者のAndrew Bernstein、パーカッショニストのSarah Hennies、そしてMatmosの相方であるM.C. Schmidtも参加していて、これらの共同製作者の絶妙なアンサンブルによって荘厳で慈愛にあふれた作品に仕上げられている。本作ではMatmosに見られる独特なコンセプトやユーモラスなグリッチサウンドは影を潜めていて、ジャズ、ディープ・ハウス、ミニマリズムを見事に融合させた温かく柔らかい祈りのような強さが感じられる。
6. "Pleasure, Joy and Happiness" EDDIE CHACON 〈Day End〉
92年にヒットした"Would I Lie To You?"で知られるCharles&EddieのEddie Chaconによるソロ作。プロデューサーに迎えたのは、Frank Ocean、Solange、Blood OrangeなどのR&Bサウンドを生み出してきたJohn Carroll Kirby。ぼんやりとしたシンセ、シンプルなドラムパターンの音色とEddieの切ないヴォーカルのバランスが素晴らしい。特に、ヴォーカルのファルセットには心奪われる。制作中にインスパイアされたという楽曲をまとめたプレイリストが公開されていたので以下にシェア。
7. "ORCORARA 2010" Elysia Crampton Chuquimia 〈Pan〉
ボリビア系アメリカ人クィア・アーティストElysia Cramptonの新作。カリフォルニア州のシエラネバダ山脈での起きた火災の消火活動に尽力した囚人消防士Paul Sousaに捧げられた本作は、エレクトロ・アコースティック、ノイズ、アンビエント、サウンド・コラージュ、喉歌、詩の朗読、南米アンデス地方で広く親しまれるフォルクローレ音楽ワイノ(Huayno)など、様々なジャンルやスタイルを行き来する。
8. "To Mix With Time" Brendan Eder Ensemble (Not On Label)
LAを拠点とする作曲家/ドラマーBrendan Ederが率いる室内楽団の新作。木管楽器とエレクトロニクスを駆使してファンクやジャズ、インディー・ロックなど様々なジャンルを華麗にクロスオーバーするアンサンブルに魅了される。特にドラムのスタイルがインディー・ロック風なので親しみやすく聞こえる。アルバムを締めくくる”#20”は、Aphex Twinのカバー!
9. "Bright Serpent" Inwards 〈Small Pond〉
イングランド・ウスターシャー州を拠点に活動するエレクトロニック・アーティストInwardsことKristian Shelleyの新作。サイケデリックなモジュラーシンセと人間の声やフィールド・レコーディングによって構築されるメロディックなエレクトロニカ。Lemon Jellyのような00年代のIDM/ダウンテンポを思い起こさせるサウンド。
10. "Philadelphia" Shabason, Krgovich & Harris 〈idée fixe〉
Destroyerのメンバーとして活動し、 The War On Drugsの作品にもゲスト参加しているトロントのサックス奏者Joseph ShabasonがNicholas KrgovichとNicholas Krgovichとのトリオを結成。透明感のあるシンセの音色、ふらふらと彷徨うピアノやフルートのラインが心地良い。ゆったりとしたフィールド・レコーディングと日常的であり叙情的な楽曲のテーマは日本でいうところの「侘び寂び」を感じさせる。一曲目の”Osouji”は「お掃除」かと思っていたら「大掃除」だった…。
11. "You Already Know" Ted Poor 〈Impulse!〉
シアトル在住でワシントン大学で助教授も務めるジャズドラマーTed Poorの新作。サックス奏者のAndrew D'Angelo、ヴァイオリン奏者のAndrew Bird、マルチ・インストゥルメンタリストのRob Mooseも参加している。全体的にはサックスとドラムにスポットライトを当てていて、他の楽器は控えめに配されている。本作はBlake Millsとの共同プロデュース作品であり、研ぎ澄まされた音響は流石としか言いようがない。
12. "Continuous Portrait" Inventions 〈Temporary Residence Limited〉
Matthew Robert Cooper (Eluvium)とMark T. Smith (Explosions in the Sky)のデュオによる3枚目のアルバム。フォークトロニカ、ネオ・クラシカル、アンビエントなテクスチャーの間を行き来する遊び心のある作品。鳥の鳴き声、銀食器の音、人の言葉の断片を巧みにエディットしたタイトル曲の"Continuous Portrait"はThe Booksを思わせる音像。
以上、12枚選びました。その他のお気に入りアルバムや曲単位でよく聴いていたものについてはプレイリストにまとめてシェアしておきます。最後までお読みいただきありがとうございました。
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