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火付盗賊改方 その4

火付盗賊改方 その4

 
「おかしら大変です!」
「どーした山﨑 !」
「博徒の三太郎という男が、刃物を振り回して海鮮丼屋 駿河屋に押し入り‥」
 
「ちょっと待て、海鮮丼屋?‥廻船問屋 駿河屋じゃないのか?」
「海鮮丼屋‥大変失礼しました」
「落ち着け、山﨑!」
「で、金品を略奪したのか?」
「いえ、駿河屋の主人、正直左衛門が一喝のうえ取り押さえたそうです」
「ほ、ほー、そりゃ結構なことじゃねーか」

ところが三太郎は、
「私は悪くありません。
私は可哀想な博打依存症なのです‥」と、
「蘭方医、壺振玄庵先生も、この者は可哀想な博打依存症という病に罹っているというお見立てです」

「うーむ‥病か‥
するってぇと、あれか?
我ら火付盗賊改方が捕まえる犯罪者は、盗む事を止められねぇ可哀想な病にかかっているってことか?
火付依存症、盗賊依存症‥
犯罪者のほぼ全員は可哀想な依存症という病にかかっていると‥」

「おかしら、幕閣の一部では、犯罪者の殆どは可哀想な依存症という病にかかっているので公金を持って救済し、更生出来るような道筋を立てなければならないという意見も出ているようで‥

さらに言うと、奴等を生み出したのは幕政が悪いからで、奴らには何の罪もないと、瓦版屋が書き立て、それが爆発的に売れてるようです」

「とどのつまり、我等が命を賭して犯罪に立ち向かっていることが、病に侵された弱い者いじめになってるように聞こえるが‥」

「よくお気付きで‥
さらに、辛抱に辛抱を重ね、雨にも負けず、風にも負けず、雪にも負けず、あらゆる誘惑にも負けず、ただひたすら米を作り、野菜を育て、納められた年貢を持って、我等が命を賭して捕まえた犯罪者の老後を見てやるのが幕府の義務であると、瓦版屋は書き立てております」

「山﨑よ、わしもそろそろ歳じゃ‥」

「お頭、そんなことはありません!」

「まぁ聞け、わしもそろそろ老後を考えなければならぬ」

「ははぁ!」
 
「そこでだ‥」
 
「ははぁ!」
 
「老後の為に、わしも盗賊になって捕縛されようと思うがどうだ?」
 
「‥‥」
 


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