わが青春想い出の記 41 忘れ得ぬ人 その4

 人は死んでしまえばそれですべてのものは終り楽になるかもしれない。しかし、残された者はその時点で深い悲しみが残り、苦労もあれば痛みも淋しさも残る。

死んだ人だって「死ねば全てのものは終って楽になる」、と言う考えは生きている人間の考えであって、実際のことは何も分からない。残された人間以上に肉体では感じられない多くの苦痛や悲しみ、痛みがあるかも知れない。だから人間は死なない方がよい。

 自分は文頭で「恋は、恋をする者にとって人生最高の喜びであり、幸せである」と書いた。しかし、その言葉はここで訂正する。

「恋をすることは人生最高の幸せであり、喜びに違いはない。しかし、それが壊れた時はそれ以上に辛く、悲しみや痛み、苦労も残るのだ」と言う事を知って欲しいと。

 自分はこの悲しみと痛みを抱えながら生きて行くことになるが、しかし忘れない。あれだけの夢があり、あれだけの希望が持てたことを。だから耐えます。耐えて見せる覚悟もついた。

自分は再び東京に行くことになるだろう。洋子が葬られている土地にいるとあまりにも悲しく、洋子が哀れに思われるからだ。

もっと正直に言うと、洋子が死んだなんて考えたくないし、思いたくないからだ。離れているとまだ生きているような気持になり、

「ヤッター」と言ったり、「バンザーイ」と言って喜び、或いは宙返りして喜んだという手紙がいまにも来るような気がするからである。            

  おわり


昭和三十五年 四月                    川島 智                             

                                               


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