わが青春想い出の記 8 再開後 川島智

 再開してから2~3日が過ぎたころ、洋子に手紙を書いた。

「一寸頼みがあって手紙を書きました。へんな頼みで怒りになるかと思いますが、この頃、あなたには何でも言えるような気で僕はいるのです。失礼だったら怒りになってもよろしいが、お許しください。

実は、友人から仲の良かった友達数人が中心になって、僕の帰省・滞在中にクラス会を開く計画が進められていることを聞かされました。その時、余興として出席者全員が一人一芸、歌で良し、踊りで良し、とにかく何でもいいから披露することになっているから君も何か面白いものを考えておけと言われました。僕には何の相談もなしに進められたものだけに呆気にとられました。それより僕が無芸だということは君が一番知ってるじゃないか、と言ってやったが、代理でも良いことになっているから一つ考えてといわれ困っています。

その時、「代理でも良い」、の言葉が頭に浮かび、あなたのことが思いだされました。内容もあなたの名前も僕は言いません。しかし、面白い余興が出来そうな人なら知っているから、承知するかしないかはわからないが、頼んでみてもいいと引き受けました。

お頼みする以上、このことは直接会って頼むのが筋だとは思いますが、直接に言うとあなたに「エッチ」とか「スケベーねー」と言われて軽蔑され、挙句の果てに断わられると思うから敢えて手紙にしました。お許し下さい

あなたのデングリ返りをもう一度拝見したい気もしているのです。お断り下さっても勿論困りません。お断りする場合、今度お会いする時はこの問題には触れないでください。あなたに軽蔑されるのが怖いから。

数日後、洋子から折り返しの手紙がきた。

「お手紙頂いたとき、何とはなしにドキットしました。読んで見て呆れました。おかしくなり笑いました。

出る、出ないは考えて見るとして、デングリ返しがそんなにご覧になりたければいつでもいらっしゃればお目にかけますが、珍しいだけが取り柄のものですから、滅多にはお目にかけませんがねー。智さんが出れと言われれば命令に従います。

 僕は調子にのって手紙を書いた。

「お手紙うれしく拝見。僕の命令は困ります。しかし皆を驚かしたい気はします。あなただと言うことをどこまでも隠して、匿名で出てくだされば友達も喜ぶでしよう。男装姿で出てください。誰も気がつかないだろうと思います。

幹事には承諾をとりましたと知らせてやります。こんなことを言うとあなたに叱られるかも知れませんが、もう相当前ですが、あなたが警察の道場で友達とデングリ返しをしていたのを見てからもう一度見たかったからです

するとまた洋子から手紙が来た。

「お手紙拝見。私とデンクリ返しを結び付けて考えるのをやめて下さい。お頼みのこと承知しました。しかしどう考えてもデングリ返りと逆立ちでは面白くないと思います。それで私は、短い笑劇のようなものをつくり、その中にデングリ返りとか、逆立ちを入れたらどうかと思います。

私が高校生の頃、演劇部にいた友に喜劇の上手なのがおりますから、その方と相談して何とか考えます。つまらぬものをお目にかけて智さんの面目を傷つけるようになると思いますが、それはお許し願います。

デングリ返りを見たいなんて言う智さんの人格も想像出来て甚だ幻滅が感じられましたが、私はまた現実を実演し幻滅を与えて復讐したいと思います。

お友達こそご迷惑になると思います。しかしお友達がお喜びになろうと、なるまいとその責任は私ではなく智さんにあるのですから、わたしは一向にかまいません。

名前も匿名でもなんでもかまいません。本名でも一向平気です。

左様ご承知願い上げます。智様」。

僕はそれを読んで苦笑いした。しかし悪い感じは勿論しなかった。その日のくるのを楽しみにしていた。

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