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【教育における機会均等と子どもの貧困】教育学部小論文講座(第2回)

(1)はじめに

「【教育学部小論文】書き方」の記事で、教育学部の受験生は小論文対策として、憲法や教育基本法などの法律に目を通しておくようにとアドバイスしました。

今回の広島大学の問題は、これを裏付けるように、教育基本法の(教育の機会均等)を出してきました。

これは、教育学部の入試小論文では、直球の問題です。

きちんと準備してあれば書ける問題ですが、指定字数が1200字程度と多い。

ほとんどの受験生は途中で息切れして、ショートしてしまうかもしれません。

今回は、「教育の機会均等」の問題を深く掘り下げて、現代の子どもをめぐる背景や格差社会の問題と関連付けて考えてみたいと思います。

(2)問題・広島大学教育人間教育学系後期2020年


以下の文章と図は,小川住万,三時真貴子編著『「教育学」ってどんなもの?』協同出版(2017年)の第10章「なぜ学ぶのにこんなにお金がかかるのか?」(著者:滝沢潤)の第3節から第4節(143頁~147頁。なお都合上一部省略・修正を加えている)です。次の文章を読んで,教育を平等に保障することについてのあなたの考えを1200宇程度で論じなさい。

第3節義務教育の費用負担とその影響
① 先に述べたように国公立の義務教育諸学校では授業料は徴収されません。そして私立学校も含め教科書は無償です(義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律第1条)。でも,みなさんが小中学生の頃には,給食や教材費,修学旅行費などを学校に持っていったのではないでしょうか。逆に言えば,義務教育の段階でも授業料と教科書以外は保護者が負担しなければならないのです。文部科学省の調査によれば,次のグラフから分かるように公立の小学校,中学校でも,それぞれ平均年間約16万円,約13万円がかかります(図10-1)。

公立小中学校の児童・生徒にかかる教育費

② 日々の生活費や将来の備えなどの他に,このような学校生活で必要となる費用を負担することは決して容易なことではありません。実際,こうした費用の負担が難しいため,国や地方自治体の就学援助を受けている小中学校等の保護者が近年増加してきました。平成25年度は,平成7年度の調査開始以来,初めて前年度から減少したものの児童生徒の15.42%が就学援助を受けています。つまり,約6人に1人以上の児童生徒が経済的に困難な家庭・保護者のもとで生活していることになります。

③ さらに,現在では,こうした保護者の経済状況が子どもの学力と密接な関係があることが明らかになってきました。読者のみなさんも受けたと思いますが,全国学力テスト(全国学力学習状況調査)の結果(小学校6年生)と家庭の世帯収入の関係を表したのが次のグラフです(図10-2)。

小学校6年生の正答率と家庭の世帯収入

④ 図10-2のグラフから明らかなように,家庭の世帯収入が多くなるにつれて子どもの学カテストの正答率が高くなり,最大で約20ポイントの差がついています。こうした傾向は,塾などの学校外教育支出と学カテストの正答率でもほぼ同様になっていて,学校外教育費を多く出せる収入の多い家庭の子どもほど,学力が高い傾向にあるのです。

⑤ もちろん,子どもの学力は家庭の収入や学校外教育だけが影響するわけではありません。でも,子どもにしてみればどうしようもない要因によって学力が影響されることも確かです。このような現状についてみなさんはどのように考えるでしょうか。小学生の時に,親の経済状況によって学力を十分向上させることができなかった子どもにとって,大学進学は手の届く目標になるのでしょうか。確かに,大学進学を希望しなくなれば,教育費はその分かからなくなりますので,「どうしてこんなにお金がかかるのだろうか」という疑問は湧きにくいでしょう。大学進学というような希望を抱かなくなるのでそれにかかるお金の問題はなくなる,ということになります。子どもは,どの家庭に生まれるかを選ぶことができません。それは運命なので仕方のないことなのでしょうか。それとも不公平,不平等なことなので何らかの改善が図られるべきなのでしょうか。


第4節 教育費は誰が,どのように負担するのか
⑥ 教育を平等に保障すること(教育の機会均等)に関して教育基本法は次のように定めています。

第4条3 国及び地方公共団体は,能力があるにもかかわらず,経済的理由によって修学が困難な者に対して,奨学の措置を講じなければならない。

⑦ 先に見た,就学援助もこの規定を根拠として実施されています。しかし,それだけで十分なのかどうか,そもそも就学援助が必要な子どもたちを支援することになっているのかについて疑問が投げかけられています。

⑧ それでは,義務教育段階の後,高校ではどうなっているのでしょうか。

⑨ これまで述べてきたように義務教育は授業料(国公立のみ)と教科書が無償です。一方,義務教育ではない高校では授業料を負担する必要があります。しかし,みなさんもご存知かと思いますが,いわゆる高校授業料無償化(現在は所得制限あり)によって公立高校の授業料が無償になり,私立高校にも補助(所得に応じた加算あり)されています。

⑩ しかし,先の文部科学省の調査によれば,公立高校で年間約24万円,私立高校では約74万円の学校教育費がかかります。授業料無償化はされましたが,経済格差の拡大や雇用の不安定化のなかで,こうした教育費の負担が困難となり,高校を中退する例も後を絶たないのが現状です。授業料以外の学校教育費を含めた「完全無償化」を求める声も上がっています。

⑪ それでは,一番はじめに触れた大学進学を考えるとどうでしょう。家庭の収入が低迷するなかでも,大学進学率は上昇を続けてきました。現在は大学進学率が5割を超え,すでに大学は一部のエリートのものではなくなっています。逆に言えば,大学に進学するための経済的負担の問題がより多くの人々に関係するようになっているのです(図10-3参照)。

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図:10-3入学の授業料と奨学金の組み合せ
出典:OECD,2014,:Education at a Glance 2014:,OECD indicators OECD Publishing を 参考に筆者作成)

⑫ 大学教育(高等教育)の費用をどのように負担するかについては,授業料と奨学金を組み今わせて考えることが重要です。両者の組み合わせで分類すると,以下のようなカテゴリーができます。

⑬ みなさんは, 日本が①から④のどのカテゴリーにあてはまると思いますか。

⑭ OECDの分類によれば,「①高授業料・高奨学金」にあてはまる国には,アメリカやオーストラリア,「②低授業料・低奨学金」には,メキシコやフランス.「③低授業料・高奨学金」にはノルウェーやスウェーデンがそれぞれ含まれます。日本は,「④高授業料・低奨学金」 にあてはまる国です。つまり,日本は,国際的にみて,授業料が高く,奨学金が充実していない国,ということになりますので,家計(保護者,学生本人)が高等教育(大学)にかかる費用を最も負担しているタイプの国といえます。さらに,2016年度までは,公的な奨学金には, 貸与型(ローン)しかありませんでしたので,将来,必ず返還しなければなりませんでした。雇用不安が高まるなかでは,特に所得の低い家庭,保護者の学歴が低い(中卒の)家庭では,将来の奨学金の返済に不安を感じて貸与型奨学金(ローン)を忌避する可能性が高いのです。つまり,経済的に余裕がなく大学進学のために奨学金が必要な家庭ほど,奨学金(ローン)を 避けるという問題(ローン回避問題)が危惧されます。

(3)論点整理

①義務教育の無償化の実状

無償化は授業料だけであって、給食や教材費,修学旅行費などは有料。公立の小学校,中学校では、それぞれ平均年間約16万円,約13万円がかかる。

②就学援助を受けている保護者(貧困世帯)の増加

国や地方自治体の就学援助を受けている小中学校等の保護者が近年増加している(平成25年度は児童生徒の15.42%、)。約6人に1人以上の児童生徒が経済的に困難な家庭・保護者のもとで生活している。

③経済格差が学力格差につながっている

保護者の経済状況が子どもの学力と密接な関係があることが明らかになってきた。学校外教育費を多く出せる収入の多い家庭の子どもほど学力が高い傾向にある。

④【問題提起】子どもはどの家庭に生まれるかを選ぶことができない。先天的な要因で生じる不公平や不平等の改善が図られるべきか。

⑤高校授業料無償化の実状

高校授業料無償化(現在は所得制限あり)によって公立高校の授業料が無償化され、私立高校にも補助(所得に応じた加算あり)されている。しかし、公立高校で年間約24万円,私立高校では約74万円の学校教育費がかかる。経済格差の拡大や雇用の不安定化のなかで教育費の負担が困難となり,高校を中退する例も後を絶たない。

⑥高授業料・低奨学金の日本では大学進学のために奨学金が必要な家庭ほど奨学金(ローン)を 避けるという問題がある。

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(4)考え方①哲学を用いる

教育の機会均等の問題を考える場合、哲学者ロールズやセンの議論を用いる方法があります。

詳細は以下の記事を参照ください。

(5)考え方②子どもの貧困と相対的貧困と関連付ける

「経済格差が学力格差につながっている」という上記の③の論点については、日本で進展している相対的貧困が背景にあります。

相対的貧困率

上の図1「日本の相対的貧困率の推移」をみると、1985年以降、上昇傾向にある。2015年時点で15%台となっていて、1985年代に比べ4%ポイント程度上昇している。

子どもの貧困率の国際比較

国際比較で見ると、日本はアメリカに次いで主要先進国の中では際立って高い貧困率となる。

相対的貧困率に伴って、子どもの貧困率も近年上昇している。

相対的貧困率が約15%という数値は、参考文にある「国や地方自治体の就学援助を受けている小中学校等の保護者」で、児童生徒の15.42%に符合する。つまり約6人に1人以上の児童生徒の世帯が相対的貧困※にあたると考えられる。

※相対的貧困の定義

その国の文化水準、生活水準と比較して困窮した状態を指します。具体的には、世帯の所得が、その国の等価可処分所得の中央値の半分に満たない状態のことです。OECDの基準によると、相対的貧困の等価可処分所得は122万円以下、4人世帯で約250万円以下(2015年時点)です。


上記の定義は「公益社団法人・チャンス・フォーチルドレン」のホームぺージから引用させていただきました。

このような相対的貧困は1980年代から始められた新自由主義の結果によるところが大きい。

新自由主義とは、小さな政府を志向する経済政策のことで、背景には日本の財政赤字の拡大と高齢化の進展がある。

従来の福祉国家的な政策が後退し、政府は生活保護水準を引き下げるなど、社会保障費を極力抑える一方で、法人税の引き下げや規制緩和、民営化を行うことで、生活よりも民間の産業重視の政策を採った。

課題の多くは市場メカニズムに任せた結果、市場競争(国際競争)が激化して、優勝劣敗の原理による格差が拡大した。

以下の記事も参照のこと。

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