見出し画像

【SNSの問題点】東京女子大学現代教養学部2014年改作

(1)問題

次の文章は森川幸孝『インターネットが壊した「こころ」と「言葉」』(幻冬舎ルネッサンス新書2011)第四章、第五章および第六章からの抜粋である。これを読んで問に答えなさい。

①あなたはネットワークにつながり、(a)SNSサイトを訪れ、サイトに表示されている広告をクリックし、その商品を購入したり、周囲に知らせるような購買活動に加担すればよいだけの存在であるのです。

②SNSを運営している会社は資本主義のもとにあり、私たちのコミュニケーションに介在することで「利益」を得ようとしているのですから。そして最も問題であると思われるのは、私たち人間のコミュニケーションという非常に重要な部分を扱っているサイトであるにもかかわらず、商業的な利益を追求している点にあります。つまり彼らは表面上、私たちが普段連絡を取り合っている友人や、共通の趣味を持ったグループ問との仲介役を担って活動しようとしています。しかしその実、そのコミュニテイを利用して利益を得ようとしているのです。SNSサイトを介して広告を印象づけたり、その広告をクリックする、またはその商品を広告を介して購入したり、広告に掲載されているサービスを利用したりすれば、そのSNSサイトの運営会社には広告宣伝費であったり、商品売上げの一部が入ってきます。そしてそれこそが彼らの目的であり、莫大な収益の大部分を占めているのです。(中略)彼らは私たちの購買運動にレバレッジを持たせるために、口コミであったり、メールや日記、つぶやきなどといったコミュニケーション手法を用いています。このような手法を用いて商業的な利益に梃(てこ)を持たせて拡大させているのです。(以上第四章より)

③こういったサービスは、世界のどこに置かれているのかすらもわからない巨大なデータセンターで、我々が普段利用しているSNSサイトの情報を基に、ユーザー数やデータ数の変動に対応できる技術を用いて解析されているのです。そして普段、我々が何気なく用いている言語は細かく言語ごとに分析され、検索エンジンのキーワードとして登録されていきます。細かく切り刻まれたキーワードはまたさらに集められ、その人の嗜好を解析し、購買履歴をさらに付け加えながら、その人が関心がありそうな広告サイトを優先的に転載するように仕向けられています。

④忘れてはなりませんが、SNSサイトはビジネスとしてこのようなサービスを提供しているのです。彼らの利益のために、あなたとあなたが形成する緩いネットワークが次第に侵食されているのです。(中略)近年のインターネットでのSNSなどでのつながりと、それに合わせたコミュニケーションの取り方の大きな変化。これは、人が自分自身のコミュニケーション能力をコンピューターのレベルまで貶めることを要求しているとは言えないでしょうか。(以上、第五章より)

⑤ウィキペディアの出現により事典は大きく変わりました。単語の意味を調べる時には、ネットで検索することができますし、内容もその辺りの事典よりははるかに詳しく記載がしてあります。かつそれらの情報は無料であるため、資料を集める時間がない場合や詳しく調べたい時など非常に役立ちます。

⑥一方でその欠点も最近では多く指摘されるようになってきました。最も大きな欠点は、やはり何といっても記事の信頼性にあります。これはウィキペディアは誰も参加できるというオープンなシステムをとった結果でもあります。このため記事に対する査読制度がないため、問題のある記述はコミコニティの自己管理により解決されるまで待たなくてはいけません。(中略)時には問題のある記事が長らく修正・除去できず、ずっとインターネット上で掲示されているのです。

⑦また多くの学生がレポート作成のため、このウィキペディアを利用するようになりました。そのため内容が同一となっていたり、史実と異なった内容になるなどの問題点が挙げられます。そのほか、真偽の不明確なゴシップ内容を断定的に記載したり、悪意のある意図的な記載――名誉(6)きそんの問題や、記事を書く際に書籍やネット上の文章からそのままコピーしたような文章が投稿されることもあり、著作権侵害の問題も挙げられています。(以上第六章より)
出典:森田幸孝『インターネットが壊した「こころ」と「言葉」』(玄冬舎ルネッサンス新書、玄冬舎ルネッサンス、2011年)

問 400字以内で、筆者が指摘しているSNSのいくつかの問題点を挙げ、これに対するあなたの考えを書きなさい。

(2)考え方

 参考文で話題に上がっているSNSの問題点を以下、抜き出しました。

①私的なコミュニケーョンが商業的な利益のために利用される。
②個人情報が守られずにプライバシーが侵害される。
③名誉棄損が為される。
④間違った情報が拡散されると、回収・訂正が困難である。
⑤情報の信頼性の問題。
⑥学生がレポート作成のため、このウィキペディアを利用し、同一の内容がとなる、事実と異なった内容になるなどの問題点。
⑧著作権侵害の問題。

 このすべてに言及すると指定字数をオーバーするので、数点を取り上げる。考える際には、プライバシーの権利は日本国憲法に規定されていない、新しい人権の1つであることを押さえたうえで、個人情報の保護について、権利と義務とに分けて、具体的な法律名を記して論述すると説得力が増す。

 政治経済の知識が少なく、わからない人は先に(4)の解説を読んでから、参考にして答案を作成すること。

3781SNSを使いこなす女性スタッフ

(3)解答例

 S N Sの問題点を挙げる。私的なコミュニケーョンが商業的な利益のために利用され、個人情報が守られずにプライバシーが侵害され、名誉棄損が為されること。間違った情報が拡散されると、回収・訂正が困難であること。

 ネット業者は個人の他人に知られたくない性的嗜好や趣味に至るまで把握している。これは不快であるばかりでなく、これらの情報は流用、悪用されるリスクが常にある。

 プライバシーの権利は現在では、「自己の情報をコントロールする権利」として認識されている。これを根拠に以下の権利を保障すると同時に業者には義務を課すことを提言する。個人情報の収集に制限を設ける。個人は情報管理者に自分の情報の有無確認、内容開示、消去、修正などを求める権利を持つ。情報管理者はこれらの実施に責任を負う。

 個人情報の保護は喫緊の課題である。速やかに個人情報コントロール権を情報主権として確立し、法整備を急ぐべきである。(397字)

(4)解説

 (2)の考え方で取り上げたSNSの問題点ごとに解説する。

① 私的なコミュニケーョンが商業的な利益のために利用される

この問題は商業主義(コマーシャリズム)と簡潔にまとめることができます。企業は営利を最優先するあまり、法律やルールを破り、モラルを逸脱する傾向にあることが問題となります。これに対する解決策としては、企業の社会的責任(CSR))を確認し、コンプライアンス(法令遵守)を徹底させるという方向でまとめるとよいでしょう。

② 個人情報が守られずにプライバシーが侵害される

この問題に対しては、まずプライバシーの権利の理解から押さえてください。これは日本国憲法には規定されていない、新しい人権と呼ばれるものの1つになります。定義としては「人に知られたくない個人情報を秘匿(ひとく)する権利」ということになります。現在では、その請求権的な側面が重視され、「自己の情報をコントロールする権利」であると考えられるようになりました。プライバシーの権利は個人情報保護法1988年に制定されています。この法律は国や民間企業に個人情報の保護を義務付けたもの。


③ 名誉棄損が為される
④ 違った情報が拡散されると、回収・訂正が困難である
⑤ 情報の信頼性の問題

・名誉棄損については刑法で対応可能。

・2017年(平成29年)の東名高速あおり事故で「容疑者の父」というデマがインターネットで拡散された事件について名誉毀損容疑でデマを流した人物が起訴された。

・2016年の熊本地震時の「ライオン逃げた」とライオンの画像を付けてツイッターに投稿した男が逮捕された。

⑥ ウィキペディアの問題
⑦事実と異なった内容になるなどの問題点

・背景として、学生の情報リテラシーなどのスキルやモラルの低下が指摘される。

⑦ 著作権侵害の問題。

この著作権は広く知的財産権(知的所有権)として定義される。知的財産権とは、コンピューターや音楽ソフト・書籍の著作権、特許権、商標などで、WTOドーハラウンドでも知的財産権の保護が議題にあがった。

受験生のみなさん、小論文に関すること、何でも質問してください。

コメント欄に書いてね。

それでは、がんばってください。

以上、『OK小論文』塾長、朝田隆(りゅう)でした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?