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社会を前進させ、自分を前進させるために。コロナ5類への移行で考えるソーシャルジャスティス

コロナ禍において、新型コロナワクチンについての科学的に正しい情報を伝えようと、毎日のようにSNSでの発信を続けていた「こびナビ」チーム(有志の医師たちによる非営利プロジェクト)によるツイッターのスペース「こびスぺ」の特別回が開催された。4月16日に行われた「こびナビスペシャル」の内容を、内田舞さんの『ソーシャルジャスティス』の内容を中心に再構成してお届けします。
メンバーは内田舞 @mai_uchida、吉村健佑 @KSKysmr0511、木下喬弘 @mph_for_doctors安川康介 @kosuke_yasukawa、岡田玲緒奈 @eireonaok、池田早希 @SakiMDCtropMed、谷口俊文 @tosh_taniguc、黑川友哉さん@Tomo_ORLHNSの皆さん、代表アカウントはこびナビ@covnaviです。

久しぶりのこびナビスペシャル


 内田舞 皆さん、今日は参加してくださってありがとうございます、私はこびナビ医師の内田舞です。今日はめちゃくちゃ久しぶりのこびナビスペースで、私もテンションが上がってます。もしかしたら、こびナビのスペースを初めて聞く方もいらっしゃるかと思うので、ちょっとだけ説明をさせていただきますと、私たちこびナビは、新型コロナワクチンの正確な科学情報を届ける非営利プロジェクトとして2021年の1月に発足しました。それから1年強、メジャーメディアやソーシャルメディア、それからブックレット、リーフレット、広告マンガ大賞など様々な方法を通じて全力でコロナワクチンについての科学情報を届けてきました。
 こびナビの活動の中でも、このこびナビスペース=こびスペは、毎朝こびナビの医師がこのように集まって最新のコロナニュースを紹介したり、それについてみんなで議論する私たちの看板番組だったので、たくさんの方が聞いてくれましたし、メンバーにとっても私にとっても本当に思い入れの強いコンテンツでした。それだけに今日の復活は意味がある嬉しいものです。
 さて、紹介が遅れましたが、私はアメリカのボストンに住んでおりまして、ハーバードメディカルスクールのアソシエイト・プロフェッサーについ先週プロモーションを受けました(昇進しました)。日本語にすると、ハーバード大学医学部准教授という立場になったわけですが、引き続きハーバード大学附属病院のマサチューセッツ総合病院にある小児うつ病センターのセンター長をしておりまして、小児精神科医として、子どもの心の不調を診察したり、感情のコントロールに関わる脳神経科学の研究をしております。
 私自身が3人目の息子を妊娠中にワクチンを接種したことが、予想外に日本のメディアで取り上げられたこともあって、日本に住む特に妊婦さん、あとは子どもに向けたワクチンの情報を届けるプラットフォームに立ったことがきっかけになり、こびナビでも活動をしてきました。この活動を誇りに思っていますし、その中で出会えた今日も参加してくださっている先生方は人生の友であり人生の宝です。
 そんな私が、このたび『ソーシャルジャスティス 小児精神科医社会を見る』という本を出すことになりました。この本は、ワクチン啓発の中で私自身も経験した炎上や論破ゲームの波に乗らずに社会の分断や差別を乗り越えるためにはどうしたらいいのかという、答えが出ないような問いに対して、私の専門である心と脳のメカニズムに立ち戻ってみたり、トランプアメリカからパンデミックの間の激動のアメリカ社会の変化を捉えてみたり、また子ども3人を育てる母親としての立場から個人的なエピソードを通して、私なりに考えてみた社会を前進させるヒント、自分を前進させるヒントを詰め込んでみた本です。
 

小児精神科医のも、こびナビの活動もソーシャルジャスティス


 内田 この本のプロローグは私のコロナ禍での妊娠の不安から始まり、そこからワクチン接種についてお話をしています。当時私は三人目の子どもを妊娠中で、妊娠中のコロナ感染は、重症化してしまうリスクが非常に高いこと、そしてその際おなかの中の赤ちゃんにも悪影響が及ぶこともあると考えると、妊娠中の感染は何としてでも避けたい、重症化リスクを何としてでも下げたいという思いがありました。逆に、ワクチン接種に関するリスクに関しては、mRNAワクチンのメカニズムを考えると悪影響は非常に考えにくいという科学的な考察を経て、私はワクチン接種をしました。しかし、アメリカにいる日本人の医師が妊婦として妊娠中にワクチンを接種したというニュースが日本に広まると、日本から残念ながら「無責任な母親」「この子供は絶対死ぬ」「児童虐待だ」というような誹謗中傷の嵐に晒されたんですね。
 この状況で、私は「母親ってなんて損な存在なんだろう」と考えさせられました。親全体に言えることではありますが、世界的に、母親は家族のための責任ある決断を頻繁に迫られる状況にあるのに、その決断をするための情報にはなかなか手が届かないことが多いのです。またどんな決断をしたとしても、どんなによく考えて決断をしたとしても、それが批判の対象になることが多く、この状況は、私が日々接している小児精神科を受診する患者さんの親御さんにも通じることなんですよね。
 小児精神科疾患は、様々な生物学的な要素要因に環境要因が絡み合って、子どもの注意や行動をうまくコントロールできないことが起きるんですけれども、そんなお子さんを本当に一生懸命育児されている親御さんたちが、なぜか世間から「あの親は悪い親だ」という偏見に満ちた目を向けられることが多くあります。そのような悩みを聞く中で、私は誰かが間違った情報をもとに苦しむ状況を見ていられず、このような偏見や誤認に打ち勝つためには科学をたくさんの人にわかるように伝えることだと思って、日々臨床に関わり、発信を続けています。
 この本のタイトルである『ソーシャルジャスティス』は、誰かが苦しむ状況を変えるために環境に働きかけることだと私は考えています。大きなデモだったり、政策を立てることだったり、こびナビのようなプロジェクトに関わることももちろんソーシャルジャスティスですけれども、そんな大それたことではなくても、日常生活の中で自分の心の声と向き合うこと、そして社会の声にも耳を傾けることで思いをシェアするという、一つひとつのコミュニケーションこそがソーシャルジャスティスであるというメッセージを込めて書いた本です。
 私たちこびナビが医療啓発に関わった原点はここにあると思っていますので、今日はこの本を先取りして読んでくださったナビメンバーの皆さんに感想を聞けるのも楽しみにしています。しかしこびスペなので、それと同時にコロナニュースの話もさせていただきます。

忘れてはいけないのはヘルスアウトカム


 例えば私は、最近日本の先生方とパンデミック中の立会い出産についての論文を書いたんですけれども、私たちの研究によると、他の先進国では、妊婦さんが希望する場合は感染状況に応じて出産時の希望のサポーターの立会いというものが認められていました。それにもかかわらず、日本ではあの時期、地域感染率やどんな波が来ているかに関係なく、この数年間、一律に立会い出産を希望された妊婦さんの半数しか実現できなかったんですね。同じく子どもの入院などにおいても、地域感染率などに関係なく付き添いに関しては制限された病院がほとんどだったようです。
 もちろん感染対策は本当に大切ですが、忘れてはいけないのはヘルスアウトカム(健康状態の変化)です。出産に関しても入院が必要な子供の病気に関しても、患者さんが信頼してるサポーターが近くにいるという要因がある方が、ヘルスアウトカムが圧倒的に良いという研究結果もあるということなんですよね。
 パンデミック下に感染対策はもちろん本当に大切でしたし、これからも大切ですが、一律に制限されることで失われるヘルスベネフィットもあるわけで、感染のリスクと感染対策のリスクを天秤にかけての難しい判断が必要になっていた時期かと思います。そしてその判断が、これから5類への移行になったことにあわせて、一律にダメというのではなく、大切な部分をうまく実生活の中に取り戻していきながら感染をコントロールするという、そのバランスを考え直す時期に来ているのかなという印象です。

身近なことから始められる「ソーシャルジャスティス」の実践本


内田 さて、ここからは他の先生方のコメントをいただきたいと思います。では、いつも一番最初に発言してくださっていた安川康介先生お願いします。
安川康介 皆さんおはようございます。まず、内田先生の本の感想からお話しします。僕はこの本を読んでいろいろ感動しました。
 ”ソーシャルジャスティス”、”正義”というと、日本ではハーバード大学のマイケル・サンデル先生の『これからの「正義」の話をしよう』(早川書房)という、しばらく前にベストセラーになった本が思い浮かんだり、あるいは「最大多数の最大幸福」ということばで知られるジェレミ・ベンサムの功利主義とか自由主義などの問題を考えてしまう人が多いと思うんです。しかし、内田先生の本は「正義とは何か」という正義の大文字の定義を考える本ではなくて、ソーシャルジャスティスというのは、実は一人ひとりの関係の中、もっと細かく言えば、一つひとつのお互いに掛け合う言葉の中にあるということを伝えてくれる本だと感じました。
 つまり「ソーシャルジャスティスとは何か」という入門本ではなく、日常生活の中でどうやって人と関わっていけばいいのかを考える「ソーシャルジャスティスの実践本」だと思いました。本当にいい本なので、皆さんにぜひ読んでいただきたいです。
内田 ありがとうございます。今日はフロリダからログインしてくださった、アメリカで感染症内科も一般内科もやってらっしゃる安川康介先生でしたが、先生はYouTuberでもいらして、この本の中に出てくる「再評価」というコンセプトを説明するYouTube動画「感情と向き合うことから始めるソーシャルジャスティス」https://www.youtube.com/watch?v=JDst9nc64JAを最近一緒に作成しましたので、ぜひそちらも見てみてください。
 さて、次は池田早希先生にいきたいと思います。池田先生は、シングルマザーとして、アメリカでの小児科と小児感染症の研修をしながら、ロンドンの公衆衛生大学院で学位まで取られて、さらにこびナビの副代表も務められたスーパーウーマンの小児科医の先生です。
池田早希 ありがとうございます、スーパーウーマンの内田舞先生にそんな紹介をいただいて、とても嬉しいです。本当に怒涛の3年間でしたよね。
(内田先生の)本、まだ全部は読めてないんですけど、過去にもこびスペやいろんな記事で伝えてくれている内容もありながら、前からみんなが感じているようなモヤモヤを、すごくうまく言葉で表してくれるんですよね。マイクロアグレッションの話もそうですし。
 何か私たちの気持ちを言語化し、代弁してくれていると感じましたし、安川先生も言っていたように、ソーシャルジャスティスというのは身近なもので、それぞれ一人ひとりができることがあるんだよということを、いろんなエピソードを交えながら説明してくれて、自分には何ができるんだろうと考えさせてくれる本だなと思いました。
 あとは旦那さんであるジャックと出会いのエピソードの話や子育ての話などプライベートな話題もいっぱい入っていて、内田舞先生のプロフェッショナルとしての魅力はもちろん、人間としての魅力もぎゅっと詰め込まれていて、もっと知りたいと思わせてくれる本でした。
内田 ありがとうございます。本当にたくさんのパーソナルなエピソードを詰め込んでみたんですが、それは私が日々学ばせてもらっていることです。こびナビの活動の中でも毎日いろんなことを学ばせてもらっているし、育児もそうです。子どもは自分の思い通りにならず、私自身の考え方がチャレンジされることが多いので、その中で考えるプロセスを紹介させていただいてもいる本です。

「本質から逸れない」を心がける


内田 では次はですね、まさかこの人よりも先に私が炎上の本を書くことになるとはという、「手を洗う救急医Taka」こと木下喬弘先生お願いします。
木下喬弘 ほんまやで。もうそれだけはやめて欲しかったんですけど(笑)、この本を読みながら、自分がもし炎上の本を書くとしたら何を書くかということを考えてみたんですよ。とりあえず炎上しますよね、すると方々からいろんなことを言われて、一気に批判が自分のところにきますよね。それで、こちらは「いや、この人らは何言ってんのやろ」って思うという……。
内田 1行で終わりですよ、その本(笑) 。
木下 だから、よくこの本を280ページも書いたなぁと思って。
内田 ありがとうございます(笑)。Taka先生からの褒め言葉として受け取っております。次は現代表のれおにい先生いきましょう。こびナビのインスタライブでは半年くらいにわたって、毎日何千という質問に答えて、ワクチンに関して毎日同じような質問が何回来ても同じ答えを優しく答えてあげるという、そんな修行の滝に打たれていたれおにい先生です。
岡田玲緒奈 どうも。そんなこともやっていましたね。
内田 あれを見て安心感を得た人はたくさんいるはずです。でも体力的にも精神的にもよく続けられたな、というのが私個人の感想です。
岡田 先生の本、まだ序盤の方を読んでるところですが、SNS上でのねじれたコミュニケーション一つひとつに「それは何々という論法だ」ということがたくさん解説されていて、なるほど、そういうことだったのか、と思ったりしています。
内田 プロローグの後の第1章に、SNS上で使われている様々な「論理のねじれ」について紹介してみました。何か本質について話すのではなく、本質からは逸れた方向に論理を持っていくような論理を何パターンかに分けて解説しているんですが、私としてはこうした「ねじれた論理」を自身に向けられた時に、この一つひとつを知っているだけで、自分の気持ちの保ち方が結構変わるんじゃないかなと思っています。どんなに論理がねじれた方向に持っていかれたとしても、自分自身は本質から離れないようにすることを私自身は心がけているのですが、そんなこともあって重要だと思っています。

社会全体で正義を考えるいいタイミング


峰宗太郎 どうもこんばんは。1100人も聞いているなんてすごいことですね。しかも、Twitterアプリ開くのが久しぶりだったんで一瞬使い方がわからなくなりました。というかTwitterまだあったんですね(笑)。イーロン・マスクさんがCEOになって消えたのかと思ってました。
内田 いや私も、このオーナーのこのプラットフォームは日々葛藤しながら使っていますよ。
峰 それで先生の本をゲラで読ませてもらっているんですが、SNSでつっかかってくる人たちかどういう心理状態なのかという分析も含めて本当にわかりやすく書かれていて素晴らしいなと思ったんですけど、何より驚いたのが先生、日本語が上手ですよよね(笑)。
内田 いや、上手になったんですよ! 私はアメリカに来て16年経ったところなんですけれども、新型コロナワクチン接種するまでの14年間くらいまったく日本と関わっていなかったんです。でも妊婦としてのワクチン接種の写真を所属先の病院スタッフがSNSにあげたところ、突然日本のメディアから声がかかるようになって、最初は英語混じりの日本語だったのが、最近スラスラ出てくるようになりました。このこびスペでの会話のおかげかと思っています。
 感想に戻ると、この本はソーシャルメディアと関わる方はみんな読んでいいんじゃないかなと思いましたね。実際にエコーチェンバーにはまってしまったり、いろんな炎上をさせてしまう人たちこそこの本を読んでほしいと思いつつ、そういう人たちにはあまり届かないと思うので、むしろ炎上に巻き込まれる側の人たち、あるいは炎上させてしまう人の近くにいて困ったり悩んでいる人たちに読んでいただけるといいなと、特に1章を読んでいてい思いました。
 あと、暮らしていた時に思ったことですが、アメリカは本当に分断が大きな社会で、でも日本には分断がないかというと、SNSに入ってみるとかなり顕著に見えてくる。それはもちろんSNSに拡声器のような効果があって、たとえ少数でも目立つ人とか悪目立ちする人の声が非常に大きく見えるからでもあります。ただ、それがSNS空間にとどまらず、いろんな政治運動や団体運動に繋がることで、ソーシャルに分断を進めてしまう現象が現実にかなり起きていますよね。特にこの数年間、SNS発の政党をはじめ、かなり偏った政治運動、社会運動が大きな力を持ちつつあることを日本の皆さんも感じられているんじゃないかと思います。そういう中で、社会全体で正義を考えるのはいいタイミングだなと思ったし、これはいい題材を見つけられたなとニヤニヤしながら読んでいたわけです。
内田 ありがとうございます。峰先生といえば、聞いてくださっている方々の不安や思いに共感しながら、必要な情報を届けるプロフェッショナルな方だったと思うんですけれども、どうしてそういったことができるようになられたのか、そのモチベーションがどこから湧いてくるのか、何かお考えになることはありますか?
 僕の場合は「対社会」ってあまり考えたことはなくて、「対個人」なんですよね。とりあえず目の前にいる人に向かい合うことから始めたというのがすべてで、私自身も1人の人間なので等価な人間としてしか発信できないわけです。だから大言壮語を吐くのではなく、「私はこう考えています。あなたはどうですか?」ということです。それから、当然人間には想像力が必要ですが、それと同時に経験も大事ですよね。「こういう経験をしているから私はこう思うよ」と伝えるその経験というのは一つのエビデンスと一緒で、それがあまり経験に偏りすぎると当然のことながら科学的な思考ではなくなるわけですが、それでもリアルな経験は非常に強いわけですね。
 だから、僕としてはとにかく一対一で、目の前の人に思いを伝えようという思いだったし、実際にプラットフォームも一対一の使い方をしていたということです。一対多であれば起きがちな炎上も、一対一であれば起きないですしね。
内田 確かに、ろうそくの火は吹けば消えますからね。
 そういうことです。

大事にしたいメンタルヘルスの話


内田 私はこびスペの中でも思い出の回は何回かあって、一つは谷口先生が死産になってしまったコロナ感染症の妊婦さんのお話をしてくださった涙の回と、もう一つは峰先生と私で予定外のメンタルヘルス対談をしたときだったんですよね。先生がご自身のうつ病の経験を語ってくださった。
 人間って感情的な動物なので、データや数字も大切でありながら、やはり個人のストーリーに心が動かされると思うんですけれども、その点、峰先生がご自分のストーリーを語ってくださったことを私は本当にありがたく思いました。ぜひこれから精神科に関しても、先生と一緒にいい動きを作っていけたらなと思っていますので、よろしくお願いします。
 もちろんよろしくお願いします。あの回は私も非常によく覚えておりまして、あのときは本当に誰も来てくれなかったんですよね(笑)。メインテーマを話して欲しい人が来られなくなってしまったという回だったんですが、 ただ僕自身のメンタルヘルスということでいえば、うつ病も燃え尽きも、一時はOCD(強迫性障害)やパニック障害に近い状況もあったし、若いときはいろんな症状が出ることがあった。置かれている状況が変わると、精神の不調は簡単に陥ることがあり得るわけですよ。
 そういうときに、やはり知識としてメンタルヘルスのことを自分自身が知っているとか、周りの人が知っていることで助けられることはたくさんあると思うんですね。僕もいい経験ばかりでなくて、身近には防げなかった自死とか、どう頑張っても精神状態が改善しない方とか、精神状態以前に改善しなければいけない社会経済的状況とか、様々な問題を抱えている人たちのことも知っています。
 でも、人間って一対一でがっぷり四つに組んでも必ずしもその人のことを助けられるわけではない。それは自助なくしては無理なんですよね。つまり、自分で自分を救いたいという気持ちが出てこなければいけないんですが、この気持ちってどこから湧いてくるのかなって思うとセルフィッシュ(自己中心的)な気持ちでは無理なんですよね。
 人間はもちろん生きがいだとか自己実現といったことも大事だけれど、やっぱり人間は社会の中で生きているから、何のために社会があるのかとか、どうして我々は生きてるのかということも含めて考えないと真の安定というものを得られない。そういう意味では内田先生の本は、プライベートなストーリーがふんだんに書かれていると同時に、社会全体の中での自分の立ち位置とか、社会と自分のつながりについても書かれていると思ったので、今悩んでいる人もそうですし、周りに悩んでる人がいるような人にぜひ読んでいただきたいと感じました。

「社会を診る」、これからのオーナーシップ


 メンタルヘルスって、実は他の病気と違って、1人の個人を診ていても治らないんですね。精神科医というのは扱っているものが、他の医師とはまた違うところがあるし、そういう観点から書かれていることを感じて楽しんで読ませてもらいました。
内田 ありがとうございます。とても嬉しいです。
 ちょうどコロナが第五類に移行というタイミングなので、いまの峰先生の自助というお話にも少し繋げてお話しすると、自分の判断というのは私も大事だと思っています。これからコロナをめぐってはマスクをつけるかつけないかなど公のルールがなくなって個々の判断になっていくなかで、自分はどうしたいのかを考える機会も増えていきますよね。
 これは本の中にも書いたのですが、そういった自分の判断を大切にするということを意味する「オーナーシップ」という心理的な用語があります。これは日本語に訳すと所有権、所有するということですが、自分の経験や情報や考えたことをもとに自分で決断して、その決断に対して自分で責任を持つという感覚のことです。でも、これは決して「あなたの判断はあなたの問題だから」という押しつけではありません。自分の判断をするというのは、その過程でじっくり何を自分は大切にしたいかと考えることだし、そのプロセスを経た決断は、その後の結果がどうであれ、やっぱり自分自身としては気持ちがいいし、責任が持てる者だと思うんですね。 
 自分の大切な人のために責任ある決断をするためには正確な情報も、最良の選択肢を考えるプロセスも必要で、それを大切にするというオーナーシップのプロセスが、ここから日本のコロナ対策においても始まるのかなという感覚でいます。ここからどのように生きていくかは、正解がないことではあるんですけれども、自分にとって一番いい選択ができるように今日のこびスペが少しでも参考になったのであれば、私達も嬉しい気持ちです。
 また、自分のため、それから他人のため、自分の大切な人のために、じっくり考えて決断すること、コミュニケートすること、それを考えるきっかけになればと思って書いたのが『ソーシャルジャスティス』なので、ぜひみなさん読んでみてください。ではでは皆さんまた会う日まで、ぜひともお元気で過ごしてください。では、See you next time! Bye!


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