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【小説】夏休みに男の娘になる男子高校生の話(第1話:縮毛矯正・セーラー服)

注意)過去にpixivで投稿した内容の再掲になります
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「早川〜。そんなに髪伸ばして暑くないのかよ。」

「な、夏休みになったら、切ろうと思ってさ!」

僕、早川蒼(あお)は焦ってそう答える。もうすぐ念願の夏休み。実は誰にも話していない秘密の計画があった。

ーー女装をしてみたい!

小さい頃は、女の子向けのアニメが好きだったり、女子の友達とよく遊んだりしていて、僕も周りの女子のような髪型や格好をしてみたいと思っていた。でも中学生以降はそんな思いは心の奥に秘めて、高校3年生になる今まで普通の男子として生活していた。

声も低いし、身長だって175cm以上ある。でもこれから歳をとるほど女装するチャンスは無くなっていくだろう。



話は変わるが、僕の家庭は母親との2人暮らしだ。父とは僕が小さい頃に別れてしまったらしい。

そんな母は仕事ができる人で、今年は長期で海外出張になるらしく、僕が夏休みの間はまるっと不在だ。僕もついていくと言う話もあったが、大学受験を控えていることを理由に家に残ることにした。

そんな訳で、夏休みの間を女装して過ごそうと思い準備を進めてきた。バイトでお金をため、メイク道具や洋服を集め、ダイエットして体重を落とした。また髪が強い癖毛なのを活かして、こっそり髪を伸ばし続けた。見た目には耳が半分隠れるくらいの長さだが、くるくるの毛を真っ直ぐにすると顎下くらいになる。バイトで貯めたお金で、夏休みに入ったら縮毛矯正をするつもりだ。


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母を空港まで見送りして、明日はいよいよ終業式。終わったその足で美容室を予約している。

「じゃあ、またなー」

クラスメイトとも別れて、美容室に向かう。カバンにはネットで買った、女子用の制服が入っている。髪型を変えたら着替えるつもりだ。ちょっと緊張してきた。

「よ、予約した早川です」

こちらへどうぞー。と席に案内される。店内には他に2、3人のお客さんがいる。

「本日担当します、本田です。ご予約では縮毛矯正といただいてましたが、今はパーマとかではなく、癖毛ですか?」

「そうです。生まれつき癖がすごくて。。。」

「そうなんですねー。完全な真っ直ぐじゃなくて、セットしやすい緩いパーマとかもにもできるけどどうします?」

僕は意を決して希望を告げる。 

「あ、あの。。。できたら内巻きのボブっぽくしたくて。。。」

「それだと、女性っぽいシルエットになっちゃうけどいいんですか?」

僕はこくんと頷く。本田さんは何かを察したのか準備を始めてくれた。

先にシャンプーで汚れを落として薬を塗っていく。

「まずは、薬剤で髪の結合を切っていきますねー。」

その状態でラップを巻いて、しばらく放置される。その間に少し本田さんと会話する。その中で僕が女の子の髪型に本気でしたいことを悟ったのか僕の耳元で囁く。

「じゃあ、思いっきり可愛くしてあげますね」

僕は恥ずかしくて耳が赤くなるのを感じて下を向く。30分ほど時間を置いたあと再びシャンプーで流して、ヘアアイロンを使う。顔のシルエットに合わせて、若干の内巻きにしながら髪が伸ばされていく。全体的に顎の下くらいの長さで、生まれて初めて前髪で視界が遮られる。

「それじゃあ形状を記憶させるための薬剤も塗っていきますねー」

先と同様に、薬を塗り時間を置いてシャンプーで洗い流す。今はまだ長さもバラバラで髪の長い男の人って感じだ。

「じゃ、いよいよカットしていきますよー」

前髪を櫛でおろすと視界が遮られる。次の瞬間「チョキっ」と音がして右目の視界が良好になる。「バサっ」と音がして15センチくらいはある髪の束がケープに落ちる。切り進めて、おでこの真ん中が少し短い曲線状の眉上ぱっつん前髪になる。

僕の前に立ってバランスを見る。「うーん。。。そうだ!」小さなシェーバーを取り出して、眉毛を整えていく。「うん!可愛くなった。」眉尻がほぼ剃り落とされ丸みを帯びたマロ眉になっている。

横は耳がぎりぎり隠れる位置、後ろはうなじの生え際に髪が被さる位置で全体的に丸いシルエットに整えられていく。

仕上げはヘアアイロンで全体的に内巻きにして、まん丸のボブが完成する。前髪も内側に巻かれたことで、眉上3センチくらいの位置になり、マロ眉の影響もあってかより幼い印象になったと感じる。

「はーい、お疲れ様でした!すごく可愛くなりましたよ。」

合わせ鏡で後ろ姿を確認すると女性の黒髪ボブにしか見えない。立ち上がると175センチ超えの身長と、首元が強調された髪型の相乗効果で、首がより長く顔も小顔に見える。

「ありがとうございました。」とお礼を言ってお店を出る際に、他のお客さんに二度見されてしまった。やはり声は誤魔化しが効かない。人前で声を出す時は気をつけようと思う。

公園の多目的トイレで、準備した女子用のセーラー服に着替える。軽く薄ピンクのリップを塗ると気分もより女の子に近づいたように感じる。鏡の前でくるりと回ってみると、スカートがフワリとたなびく。リボンを整えると、意を決して外に出た。

真夏の蒸し暑い夕日の中にも風が吹き込んできて、サラサラになった髪を揺らした。

「ねぇ!早川くんでしょ?」

僕はドキッとして、思わず声の方向を見てしまう。そこには同じクラスで比較的仲の良い女子の橘さんがいた。

「さっき、あの美容室から出てきたでしょ。私もお客として店内にいたから、全部見たたんだ。」

僕は、しまったと思った。もっと完全に個室の美容室にすれば良かった。。。

「他の人には言わないからさ。夏休み中、私に付き合ってよ。」

僕にノーと言う選択肢はなかった。

「明日、10時に駅前に勉強道具もって集合ね!一緒に夏休みの宿題しよ。もちろん女子の制服で来てね!」
(続く)

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