データ分析・活用の事例を分析する:店舗の時間帯別の利用者
分析屋の下滝です。
データ分析の概念が未だに掴みきれていません。
・データを「分析すること」と「集計すること」に違いはあるのでしょうか? 集計してないけれど分析するケースはあるでしょうか?
・データを「分析すること」と「活用すること」に違いはあるのでしょうか? 分析してないけれど、活用しているケースはあるでしょうか?
・データを「分析すること」と「AIを適用すること」に違いはあるのでしょうか?
・データを「活用すること」と「AIを適用すること」に違いはあるのでしょうか?
たとえば『データドリブン思考』ではデータ分析という言葉は「集計やグラフ作成から機械学習までを包含する」言葉として使われています。
他には『POSデータ活用検定テキスト 第1版』では、次のような説明がされています。
このようにデータ分析という言葉の意味する範囲にはばらつきがあるようです。
また、ビジネスにおけるデータの役割は何でしょうか? 課題を解決? 課題を発見? 仮説を立案? 仮説を検証? 施策結果の確認? 何らかの示唆を得る? 意思決定を支援? 意思決定を自動化?
たとえば『デジタルマーケティングの教科書: データ資本主義時代の流通小売戦』ではデータ分析とは「仮説を確認する行為であり、方程式を説いて答えを発見する行為ではない」と書かれています。
他には『店頭マーケティングのためのPOS・ID-POSデータ分析』では次のような記述があります。「…そのため、ID-POSデータを活用することで「顧客の買い方」に基づいた売場の課題発見と施策の検証が可能となります」。
他には『リテールデータ分析入門』では、「以上のように問題点の発見、仮説づくり、実験結果の分析においてデータ分析は重要な役割を果たす」とあります。
他には『ID-POSマーケティング』では、このような記述があります「このように、ID-POSのデータを確認すれば、ターゲット・セグメントの追加と店頭プロモーションのバリエーション強化が修正課題として浮かび上がってきます。」
他には『ショッパー・マーケティング』では次のような記述があります。
つまり、デー分析、データ活用、あるいはデータの役割とは、少なくとも次のようなものがありそうです。
・仮説を確認するため
・仮説をつくるため
・課題を発見・抽出するため(問題点を発見するため)
・施策の検証のため(実験結果の分析のため)
ということで、本記事のシリーズでは、データ分析・活用だと思われる事例を分析しながら、我々はどのような活動をデータ分析やデータの活用だと呼んでいるのかを考察していきます。
なお、データ分析の各種の枠組みを分析していくという別観点のシリーズは以下を御覧ください。
京阪電気鉄道の事例
第1回は、京阪電気鉄道の事例です。以下の記事を参考にしました。
内容は、京阪電気鉄道のグループ会社が運営する飲食店街「パナンテ」での来店客の関するデータの分析と活用というものです。
パナンテは、天満橋駅に隣接する飲食店街ということで、16の飲食店や薬局などを有しているそうです。
このパナンテで何のデータを分析したかというと、時間帯別の利用者の数です。パナンテで営業している16店舗のうち、14店舗は平日22時30分までに、1店舗は23時に営業を終了しますが、1店舗だけ23時30分まで営業している店舗がありました。営業時間が長い店舗の利用者のデータを調べたところ、利用者数のピークが22~23時に来ており、しかも他の時間帯よりも男性顧客の割合が多いことがわかりました。
さらに、クレジットカードの利用履歴やポイント履歴などを調べると、22時以降の時間帯で、郊外にある飲食店に利用客が流出していることが分かりました。そこで、残業で帰りの遅くなったサラリーマンの利用者を増やすことを狙いに、試験的に6店舗で営業時間を23時台に延長したところ、「パナンテ全体の男性顧客の利用者が増えた」との結果が得られました。
以上が内容です。結果として売り上げが増えたかどうかはまでは明確には書かれていませんが、利用者が増えたとのことなので、売上も増えたのではないかと考えられます。
事例の分析
第一回なので、分析する視点が定まっていませんが、なんとなく考えてみます。
まずは、今回の事例がどのような要素で構成されているのかをみてみます。
次のような要素が存在すると考えました。できる限り「データ分析」よりも抽象度の高い要素で表現しました。「データ分析」のプロセスは、より一般的なプロセスに対する名称であると考えられるためです。
・見たもの:各店舗の時間帯別の利用者の数
・見たものを見ようと思った動機:不明
・見ることで得られた新たな知見:
・知らなかったこと:利用者数のピーク(もしくは、営業時間が長い店舗の利用者のピーク)がある時間帯
・知ったこと:利用者数のピークが22~23時
・見たもの:時間帯別での性別割合
・見たものを見ようと思った動機:不明
・見ることで得られた新たな知見:
・知らなかったこと:ピーク時間帯と他の時間帯での性別割合の違い
・知ったこと:ピーク時間帯(22~23時)は、他の時間帯よりも男性顧客の割合が多い
・知ったことから生まれた疑問:なぜピーク時間帯(22~23時)は、他の時間帯よりも男性顧客の割合が多いのか?
・疑問に対する仮説:ピーク時間帯の男性顧客の増加は、残業後に帰宅するサラリーマンによるものかもしれない
・疑問の仮説の検証方法:クレジットカードの利用履歴やポイント履歴などを調べる
・疑問の仮説の検証結果:22時以降の時間帯で、郊外にある飲食店に利用客が流出している
・施策(アクション):営業時間の変更
・変更対象:営業時間(試験的に6店舗で営業時間を23時台に延長)
・施策により起こる結果の仮説:残業で帰りの遅くなったサラリーマンの利用者が増える
・施策結果:パナンテ全体の男性顧客の利用者が増えた
まず、このような要素分解が必要なのかどうかは別として、要素としての表現が難しいように思えました。
・思考のプロセスが断片的。特に動機にあたるものが分かりません。
・要素としてどのようなカテゴリとして扱うのかが難しい。たとえば、「疑問」や「仮説」といった抽象度の高い概念を厳密に扱う必要があると思われました。今回の記事では厳密な扱いはできていません。
では、考察していきます。
考察の観点では、プロセスのパターンに着目しました。以下のプロセスのパターンが存在すると考えました。
・集計のプロセス
・集計の動機を生み出すプロセス
・知識を生み出すプロセス
・比較のプロセス
・疑問を生み出すプロセス
・疑問の仮説を生み出すプロセス
・疑問の検証方法を生み出すプロセス
・疑問の仮説を検証するプロセス
・施策を生み出すプロセス
・施策の仮説を生み出すプロセス
・施策を実行するプロセス
・施策の仮説を検証するプロセス
このようにプロセスを抽出することで、以下のようにさらに踏み込んだ分析ができるようになります。
・どのプロセスがデータ分析での必須のプロセスになるのか。たとえば、「比較のプロセス」なしにデータ分析と思われる行為は可能でしょうか?
・データ分析を構成する最小単位のプロセスは何か。たとえば、上記のプロセスのどれか一つのプロセスだけで、データ分析と呼べるプロセスは存在するでしょうか?
・データ分析を構成するプロセスが異なるプロセスは存在するか。つまり、プロセスの組合わせがあるデータ分析を構成するとした場合、組み合わせの違いは、データ分析のパターンがいくつか存在することを意味するのでしょうか?
さらには、上記のプロセスのパターンは、今回扱った一つの事例から特定したものであり、データ分析を構成するプロセスのすべてを特定できたかはわかりません。たとえば、冒頭に上げたデータの役割である
・仮説を確認するため
・仮説をつくるため
・課題を発見・抽出するため(問題点を発見するため)
・施策の検証のため(実験結果の分析のため)
は、それぞれ、上記のプロセスの組み合わせだけで全て表現できるでしょうか?
この表現力の確認は、次回の記事で見ていきます。
まとめ
本記事では、データ分析とは何を指すのか、データ分析の役割は何か、といった疑問に答えるために、データ分析と思われる事例を分析しました。
事例を構成する要素を抽出するとともに、要素を生み出すプロセスのパターンを特定しました。
次回は、プロセスのパターンが、データ分析の役割を表現できるのかを確認します。
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