電気鑑賞

映画館では必ず前の方に座る。

せっかく少ない小遣いをやりくりして行くのだから、目の前をスクリーンでいっぱいにしたい。まっすぐ最後列を目指す人も見かけるけれど、なんてもったいないことをと思う。僕は大きい画面を眺めたいんじゃない、満天の星空に飲まれたいのだ。

ところで、僕が住む街でいちばん上映数が多い映画館では、チケットを買う時に座席を選ばなければいけない。しかも劇場内には大小いくつものスクリーンがあり、それぞれベストポジションが違う。なるべく前がいい、だけどスクリーンを見上げるほどでは、せっかくのハリウッドセレブの黄金比顔のタテヨコ比がおかしなことになる。うんうん迷いながら席を選んで中に入ると、大体いつもやっぱりもっと前でよかったなあという場所だ。強気の決断が功を奏した2列前のおじさんが眩しく見える。やがて場内が暗転する。そしておばちゃんのお菓子のビニールがパリパリ言い、カップルがポップコーンをクチャクチャ食べ始め、2列前のおじさんの咳払いが2分おきに響く中、監督が心血を注いだ作品の幕が上がる。

今年のカンヌ映画祭では、Netflix 作品が話題を呼んだそうだ。映画館で公開されない(かもしれない)これらの作品には、観客から皮肉をこめた反応もあったと聞く。映画監督のアキ・カウリスマキは「本当の映画とは光だが、デジタルは電気だ」と言ったが、これによれば、今や映画館の映画でさえ電気だ。僕もDVDで観る映画の方が多いし、劇場で無神経な人たちに悩まされるのにはうんざりしている。状況は色々と残念だ。だけど今でも美しい光を放つ映画は世界中で生まれている。僕はそんな血の通った作品を、「前の方」で観るのを楽しみにしている。

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