【映画】「5パーセントの奇跡 嘘から始まる素敵な人生」感想・レビュー・解説

いやー、凄いな。
これが実話をベースにしている、ってのが凄い。


僕は、「夢はいつか叶う」とか「努力は決して裏切らない」みたいな言葉が好きじゃない。だって、そんなわけないだろう、と思う。どれだけ努力したって夢が叶わない人間はたくさんいる(それでも「夢はいつか叶う」という言説が強さを持つのは、それが夢を叶えた者が口にした言葉だからだ)。いくら努力したって、ムリなものはムリだ。人生には、自分の適性を見極め、正しくない努力をしていると判断したらすぐに方向転換する勇気も必要だと僕は思う。

しかし、「夢を持つこと」あるいは「努力をすること」そのものを否定しているわけではない。夢を持つことも、努力をすることも、凄く良いことだ。そして、自分の夢のために努力が出来るのならば、それがたとえ叶わない夢であったとしても、そこに費やした努力が無駄ということにはならない、と思っている。

しかしそれにしても、ほぼ目が見えないのに、5つ星ホテルで視覚障害を隠して働く、なんて、常軌を逸してるよなぁ。映画はあくまでも物語だから、「いかに努力したのか」みたいな部分ばかり描くわけではない。この映画で描かれているのの何十倍も努力しているだろう。しかし、そうやって努力することで、健常者と同じレベルまで出来るようになってしまうんだから、その努力はホンモノだと思うし、今後どんなことだってやれるだろうな、と思う。

僕ならムリだなぁ、と映画を観ながら思っていた。やはり何かをやる前に、「出来そう」か「出来なさそう」かの判断はしてしまう。なるべく安易にムリだと思わないようにしているつもりだけど、でも自分がこの主人公の立場に置かれたら、ホテルマンの夢は100%諦めるだろう。

いや、ホントに凄いなと思う。

内容に入ろうと思います。
高校生のサリーは、学業と同時並行でホテルでの研修も受けている。スリランカ人である叔父が母国でレストランを経営しているのを間近で見ていて、敬意を持って接客する仕事に就きたいとずっと思っていたのだ。しかしある日、彼の視力は急激に落ちてしまう。先天性の疾患の合併症により網膜剥離を起こしているとの診断で、急いで手術をするも、通常の5%程度の視力しか残らなかった。向かい合っている人の顔が分からないレベルだ。
「ホテルマンなんか絶対ムリ。夢は諦めろ」と言われたサリーだったが、諦めきれず、視覚障害者であることを伝えつつ、あらゆるホテルに応募したが、全滅。そこで彼は決意する。視覚障害を隠して、ミュンヘンの5つ星ホテルで働く、と。

面接で出会ったマックスは、1時間遅刻したようだったが、お調子者らしくなんとか切り抜けた。それ以来、サリーとマックスは友人だ。見事面接を突破したサリーは、研修生としてホテルで働くことになった。掃除中、サリーに視覚障害があることを知ったマックスは、サリーの仕事をサポートする。サリーはサリーで、その類まれな頭脳と記憶力で、マックスを助ける。お互い足りない部分を補いながら、ベッドメイキングから調理補助、バーやレストランでの接客などの難関に立ち向かっていく。
しかしやはり、努力ではどうにも突破できない現実もある。しかも、家族にも災厄が降り掛かってきた。視覚障害者であることを隠しながら付き合っている恋人との関係も一筋縄ではいかない。激務に耐えかねたサリーはついに…。
というような話です。

とにかく題材が素晴らしい映画でした。はっきり言って信じがたいけど、この映画の主人公にはちゃんとモデルがいるようです。映画でよくある、「この映画は実話を基にしています」っていう表記がなかったから、物語には結構手が入っててフィクションの要素の方が強いのかもだけど、それでも、「視力がほとんどないのにホテルマンを目指して実現させた男」っていう根幹の部分は事実なんだろうし、それだけで十分凄いなと感じられる映画です。

映画そのものに対して特に言及する部分はあんまりなくて、その事実とは思えないような設定から、まあ想定できる範囲の物語に収まっている、という展開です。だからといってつまらなかったわけでは全然なくて、凄く良かったです。不屈の努力を続けたサリーはもちろんなんですけど、マックスの存在が実に良かったですね。マックスは、レストランを経営している父を持っているのだけど、本人は割と自堕落で、女癖が悪いんだけど、でもサリーのことは親身になって手助けしている。二人のコンビが見ていてなかなか痛快で、枝葉の物語(サリーの恋とか、サリーが手助けしてあげている元外科医の就職とか)もちゃんとあって、楽しめる映画でした。

まあこの映画を、「夢はいつか叶う」とか「努力は決して裏切らない」みたいな感じで勧めるつもりは全然ないんだけど、努力した分だけ何かを得られる、ということはまあ信じていいだろう、と思える映画だと思いました。

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