【映画】「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」感想・レビュー・解説

観に行こうと思ったきっかけは、ヤフーニュースでした。

「2時間の映画を、ワンカットで撮っているようにしか見えない撮影」という説明に惹かれて、映画を見に行きました。

僕は、映画を見慣れた人間ではありませんが、それでもやっぱりこの映像には驚きました。冒頭から本当に、ワンカットで撮っているようにしか見えません。時間経過や場面の転換さえも、ワンカットで取るという撮影技法の中に押し込んでいて、長回しで撮っているようにしか見えない。

監督は、俳優に秒単位の演技を要求し、リハーサルを繰り返した上で撮影したというが、それでもよくもまあこんな映像を作り上げたものだと思う。僕には経験がないけど、映画を撮ったことがある人間なら、恐らくその労苦をより強く実感できるのだろうと思う。

映像が凄い、というだけでは、ただの編集技術の話になってしまうのだけど、この映画のこの撮影手法は、見ている側に、普通の映画以上に物語に引き込む力を与える気がする。「物語そのもの」が、物語に引き込む力を持つ映画というのは、それはたくさんあるだろうと思う。しかし、「映像手法そのもの」が物語に引き込む力を持つ映画というのは、そうそうないのではないかと思う。観客は、自分がカメラを持って現場をうろついているような、そんな感覚になるのではないか。その映画に、観客としてではなく、参加者の一人として関わっているような、そんな気にさせるのではないかと思う。

劇場と、その劇場がある街の周辺という実に限られた空間だけで物語を展開させ(そうでなければ、ワンカットで撮ったように見せるのは不可能だ)、観客をその狭い空間の中へと引き込んでいく。「演劇の舞台」という、リアルタイム性を内包するテーマを扱っていることも、その撮影手法をより映画に馴染ませる結果になったかもしれない。狭い空間ながら、「舞台上」と「楽屋裏」という、役者のキャラクターががらりと入れ替わる明確な境界のようなものを持っている環境であるというのも、この映像手法を上手く使う上で重要な要素だったのではないかと思う。

物語にも触れよう。
かつてシリーズ化もされた「バードマン」というハリウッド映画で主演を務めた主人公は、今は舞台の演出兼俳優として、再度這い上がるチャンスを狙っている。親友であるプロデューサーと共に、舞台の世界でのし上がっていくつもりでいるのだが、なかなかうまくいかない。翌日にプレビュー公演を控えているタイミングで役者の一人が怪我をし、主人公は公演の中止さえ考える。しかし、そこに降って湧いたように現れた実力のある俳優。しかし、この代役の男は、俳優としては一流だが、相当御し難い男だった。薬物治療から退院した娘、離婚した妻、妊娠を告げる恋人。金は底を付き、プレビュー公演はハチャメチャ。おまけに主人公は、断続的にやってくる幻聴に悩まされる。
主人公は、そんな中、舞台の成功を目指して、醜くも突き進んでいく。

正直に言えば、物語そのものは、僕にはそこまで面白いとは感じられなかった。何が、というわけではないのだけど、たぶん、自分の好みの物語ではなかった、ということに尽きると思う。主人公の虚栄心とか、劣等感とか、暴力性みたいなものが、少なくとも僕が認識している僕自身の内側にはあまりない感じで、主人公が抱く様々な感情にそこまで何かを感じることが出来なかった、ということではないかなという気はする。成功したいのに出来ないとか、こんなに頑張ってるのにうまくいかないとか、かつては輝いていたのに今は…というような想いを抱えている人が見れば、恐らくまた違った感想になるのだろうと思う。

さて、物語的に楽しめなかったからといって、じゃあ満足度は低いのかというと、そういうわけではない。そもそも僕の期待は、「ワンカットで撮られた風の映像を見たい」というところにあったので、そりゃあもちろん物語も面白ければその方が良かっただろうけど、満足度が低いわけではない。冒頭に貼ったリンク先には、「正直、100年を超える映画の歴史の中でも、こんなにも長いワンカットは他に見たことも聞いたこともない。」と書かれている。誰が書いているのか知らないけど、恐らく映画に詳しい人物だろうし、そういう人間が見たことがないと言うならそうなのだろう。そういう、斬新な映像を見ることが出来たという満足感は結構高いので、良い映画鑑賞だったと思う。

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