【映画】「ダウンサイズ」感想・レビュー・解説

もし、身体を縮小させる技術が本当に存在したら、やるかなぁ。
ちょっと考えてみた。

人によって何をメリット・デメリットと感じるかは様々だろうけど、僕にはデメリットが少ないように感じられた。
目につく大きなデメリットは、縮小化していない家族や友人との関わりが、皆無とは言わないまでもかなり減ること。これが一番だと思う。ここがクリア出来ない人はダウンサイズには手を出さない方がいいだろうけど、僕は多分クリア出来る気がする。

後は、ダウンサイズする前にある程度お金を持ってないと、ダウンサイズ後の人生のメリットが少ない、という感じか。とはいえ、他人との比較をしなければ、資産は単純に増えることになるし、お金を得るための仕事もそこまでしなくてもいいということになるだろう。

あとはあまりデメリットを感じられなかった。面白そうじゃないか、と思う。

物語ではよく、増えすぎた人口や環境の悪化などを背景に、別の居住可能な惑星を探す、という設定が描かれる。しかし、人口の増加や資源の枯渇だけであれば、確かにダウンサイズでも物事は解決する。面白い発想だなと単純に思った。恐らく現実にはこういう技術は開発されないだろうけど、とはいえ、こういう技術が開発される確率は、居住可能な惑星が見つかる可能性と同程度にはあるんじゃないか、と思う。後は、時間と資金と根気の問題だ。

人間はこれまでにも、どう考えても不可能だろうと思われることを成し遂げてきた。古代の人からすれば、人類が月の上に立つなんて想像の埒外だろう。同じように、現代の僕らには想像の埒外であるダウンサイズが、遠い未来に実現する可能性だってゼロではない。その時まで地球が持ちこたえているかどうかは不明だけど、そうなったら面白いなぁ、と思う。

内容に入ろうと思います。
ヨルゲンという研究者が、画期的な技術を開発した。有機体を細胞レベルで縮小する、というものだ。その比率は2744対1。身長180cmの人が、12.9cmになる計算だ。一部の魚介類を除いて、副作用はほぼ皆無。ヨルゲンは、自ら被験者となり、また36人の勇敢な仲間と共に、7×11メートルという小さな村で4年間暮らした後、これを世界に発表した。36人が4年間で出した燃えないゴミは、ゴミ袋半分にも満たない程度だ。これで環境問題の多くは解決する。
このダウンサイズ、社会に少しずつ広まっていった。希望すれば、ある程度のお金を支払って誰でもダウンサイズ出来る。手持ちの資産を現金化し、ダウンサイズ後の資産に換算すると、100倍近くにもなる。一気に億万長者になれるのだ。
作業療法士として働くポールは、妻のオードリーと共に物件探しに勤しむが、なかなか折り合いが付かない。ローンの審査にも、なかなか通らない。ならばと、彼らはダウンサイズを検討することにした。よくよく話を聞き、ダウンサイズ後の生活を垣間見ながら、彼らはその決断をする。

体中の体毛を剃り、入れ歯や金歯などを抜き、いざ準備完了。目覚めたポールは、妻がどこにいるのか看護師に確認するが、そこで予想外の事態が起こっていることを知り…。
というような話です。

これは面白かったなぁ。ダウンサイズなんていう、まず荒唐無稽だろう設定を、実に見事に描き出している。良いことばかりではない。例えば、ダウンサイズを控え、友人たちとお別れのパーティーをしているポール夫妻に絡んできた酔客の話は印象的だった。ダウンサイズした人間も、選挙権は同じなのか?だって消費税は安いし、所得税はない奴もいる。金と仕事を奪っていく奴らだ、と非難するのだ。ニュースでも、消費が落ち込むが故に経済的な打撃は大きい、という話が出てくる。さらに、予想外の形でダウンサイズの技術が悪用される、という事態も起こる。恐らく実際にはもっと色んなことが起こるだろう。僕は、テロなどの危険性があると思う。彼らが住んでいるのは、ダウンサイズしていない人間からすれば実に狭い空間だ。ちょっとした爆弾でコミュニティが壊滅するだろうし、水道や電気などのライフラインだけ破壊するというのならもっと簡単な気がする。ホワイトハウスなどにスパイが紛れ込んだりもするだろうし、他にも色々問題は生じるだろう。そういう部分は、この映画のメインのストーリーと関わりがないので、描かなくて正解だと思うが、突き詰めてみたらどうなるのか、ちょっと想像してみたい気もした。

ダウンサイズした後の展開は、なかなかに予想不能だ。ダウンサイズして幸せな生活を手に入れました、なんて物語では面白くないわけだから当然だけど、ここから話がどう展開するんだ?と思っていたところに、結構斜め上を行く展開が待っていて面白かった。ポールはダウンサイズ後に様々な決断を迫られることになるのだけど、それらがある種究極の選択になってしまうのはダウンサイズしたことによる特殊さであって、そういう部分もとても面白い。

特にポールが最後の最後に直面することになる決断は、なかなか考えさせられる。正しい選択、なんてのは存在しなくて、常に、選んだ道を正しいと思い込むしかないんだけど、ポールも、その決断を正しいと思えたらいい、と思う。


ポールがダウンサイズ後の生活で直面することになる世界がある。詳しくは書かないが、それを見ながら、やっぱりどこにでも“現実”ってのはあるんだなぁ、と思う。それがどれだけ理想に近いものであっても、必ず余白や染みみたいなものは出来てくるし、それを存在させないやり方って存在しないんだろうな、と思う。まあ、だから人生は面白い、とも言えるのかもしれないけど。

こんなもしもがあったら、という想像力を駆使した物語で、なかなか面白い映画でした。

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