【映画】「見えない目撃者」感想・レビュー・解説

面白かったなぁ。


あの場面で、自分だったら動けるか、と何度も思った。
無理だろうな。
怖ぇよ。
もちろん、物語だからこそ、登場人物たちは向かっていけるわけなんだけど、
にしたって怖ぇよ。
と何度も思った。

僕は、割と、誰かのためになりたい、と思っている人間だ。
見知らぬ誰か、まで救おうと思えるかどうかは、あまり経験がないから分からないけど、
自分の身の回りにいる人であれば、
自分に多少の不利益があろうとも、その人のためになりたい、という気持ちはある。
けど、
そう思ってても、動けない時ってあるだろうな、と思う。

そういう指標で「強さ」を判定するのはたぶん良くないけど、
でも、
強くなりたいなぁ、と思った。

内容に入ろうと思います。
浜中なつめは、警察学校に入学し、無事卒業。明日から交番勤務が始まる、というその夜に、ちょっとした不注意から車で事故を起こしてしまう。同乗していた最愛の弟を亡くし、自身も視力を失い、絶望の淵に立たされた。
それから3年が経ち、彼女は盲導犬と共に生活し、タイピングの仕事もするという日常を送ることが出来ている。薬は手放せず、通院もしているという状況で、決して安泰というわけではないが。
そんな折、夜道を歩いている時、彼女は不審な車に遭遇する。アルコールの匂い、大音量のラジオ、窓を叩く音。そして、車の中から少女の声。「助けて」という少女の声が耳に残る。すぐさま警察に連絡するも、視覚障害者の証言ということで、まともに受け取られない。なつめは、ちょうど同じタイミングでその場所を通りかかったスケボー乗りの男性がいるはず、その人も何か見ているはずと訴える。
半信半疑ながらスケボー男を探す警察は、国崎春馬という高校生に行き当たる。確かに夜、車にぶつかりそうになったが、女の子の姿など見ていない、という。結局警察では、なつみの「聞き間違い」ということで処理されることとなった。

納得のいかないなつめは、自ら春馬を見つけ出し、話を聞く。他人や世の中に関心を持っていない春馬は、なつめの訴えに大した関心も無さそうにあしらうばかりだったが、しばらくして気が変わり、なつめの「妄想」にしばらく付き合ってあげることにした。
二人は独自に「捜査」を続ける中で、「キューサマ」という言葉に行き当たる。「救様」と書き、風俗業界から抜け出させてくれる神様のような存在として、都市伝説のように広まっているのだという。
果たして「救様」など存在するのか?行方不明だろうと思われる少女たちは、どうしているのか?
というような話です。

面白かったなぁ。正直、映画を見て、特に残るものは無いっちゃ無い。けど、物語が面白かった。ちゃんとストーリーを精査したら粗っぽいところもきっとあるんだと思うけど、でも、面白かった。

とにかくまず、主人公の造型が見事でした。警察官を拝命し、いざ交番勤務という時に事故を起こし依願退職、自責の念に駆られながら日々を過ごしている女性。この設定は、主人公のなつめという女性の中に、「強さ」と「弱さ」がキメラの如く入り混じっている、という状態を違和感なく与えてくれます。だから、物語の中で、物凄く勇敢な場面があったり、物凄く不安定な場面があったりするのだけど、この「浜中なつめは」という登場人物の場合、そのどちらに対しても違和感がない。どういう振る舞いにも、彼女なりの強さ/弱さの背景があるということが観客に伝わるので、非常に納得感を持って映画を見れるんじゃないかと思います。


さらにその上でなつめには、「目が見えない」という条件がある。この条件もまた、物語の中で大きな要素となる。「目が見えないのに」という表現は、時に視覚障害者を殊更に低く見るような物言いになりかねないけど、なつめの場合は「目が見えないのに」と言っても許されるだろうと思うくらい、いやいやそれは無茶でしょ、という行動を取る。そもそも普通だったら、「警察が事件性を判断せず、捜査しないと決まった」となった時点で諦めてしまうでしょう。目が見えようが見えなかろうが関係なく、そうなってしまうと思います。それなのに彼女は、目が見えないという大きなハンデを物ともせずに行動する。映画を最後まで見れば分かるが、なんなら彼女は、目が見えないという事実をプラスに利用しさえしようとする。

ストーリーがほぼ同じで、主人公の目が見えたとしても、それなりに面白い物語に仕上げることは出来ると思います。ただ、目が見えない主人公を設定することで、非常にスリリングな展開をもたらすことが出来ていると感じます。


相棒的な感じで捜査に協力する春馬との関係もなかなかいいです。「いや、そんなの俺には関係ないから」というところから、あそこまで協力的になるという部分の繋がりはちょっと飛躍を感じてしまったけど、二人の関係性はいいじゃないかと感じました。

警察の描き方には、きっと、現実と齟齬がある部分もあるだろうな、と思ったけど、少なくとも、ミステリ小説をそこそこ読んでる、という程度の人間に明確に指摘できるほどの違和感はなかったんで、普通に楽しめるんじゃないかなと思います。いや、さすがに令状無しで○○しちゃうのはマズイっしょ、とは思ったけど。

物語のクライマックスは、犯人が判明してからの展開で、いやーここは手に汗握る的なやつでした。「頼むから車の中で待っててくれ」と何度も思ったし、あの場面で自分だったらああ行動出来るかと聞かれたらたぶん無理だと思うけど、でも、今ここで行動しなかったら後で後悔する、という感覚も分かる気がするし、きっと彼らも、そういう感覚に突き動かされたんだろうな、と思います。

ハラハラドキドキさせる、非常に面白いエンタメ作品でした。

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