【映画】「不思議惑星キン・ザ・ザ」感想・レビュー・解説

いやー、面白い映画だったなぁ。正直、どうなんだろうなぁって思ってたけど、これは観てよかった。

しかし、変な話だった。

まずは内容から。
物語は、案外普通に始まる。建築技師のウラジーミルは、仕事から帰った後で、妻からパンとマカロニを買ってきてくれと頼まれる。買い物を終えて帰る途中、彼は一人の青年から声を掛けられる。
それがなんとも変な話なのだ。
向こうに、裸足のおじさんがいる。なんでも、異星人らしい。通報はしようと思うけど、とりあえずちょっと来てくれない?と。
行くとそこには、真冬のロシアで裸足で立っている男がいた。彼は、自分がベータ星の惑星から来たといい、手のひらサイズの瞬間移動装置を見せた。ウラジーミルは、当然信じない。裸足の男に、「その瞬間移動装置押してよ。それ押して瞬間移動装置しなかったら、警察まで来てね」と言うが、裸足の男は「分かってくれよ、そんなことできないよ」という。ウラジーミルは、どうせ嘘つきだと判断して、瞬間移動装置を自分の指で押した。
すると、ウラジーミルと青年は、一瞬で砂漠に移動していた。一瞬で移動したことには不思議を感じつつも、しかしここは地球上の、いやきっとロシアの砂漠のはずだと言って歩き始めるウラジーミル。しかし、バイオリンを持った青年(このバイオリンは借り物で、彼は弾けない)は、別の惑星に来ちゃったんじゃないか、と戸惑う。ゲデバンと名乗る青年と共にしばらく歩くと、お寺の鐘をもっと大きくしたような飛行物体が近づいてきた。
下りてきたのは、「クー」としか喋らない、薄汚いおじさんたちだった…。
というような話です。

この映画の面白さをどう表現したらいいのか分からないんだけど、ありきたりな言葉を使えば「シュール」ということになる。とにかく最初から最後までシュールだ。なんのこっちゃわからない描写も多々あるのだけど、それでも面白い。

「異星人との遭遇」を描いているのだけど、SF感はまったくない。ゼロだ。だけど当然、現実感というかリアリズム的なものもない。何かの枠組みにはめ込もうとするとどうしてもはみ出してしまうような歪さがずっとあって、なんだか楽しい。

映画を見始めてしばらくは、異星人たちが「クー」しか言わないから、このまま最後まで行くならしんどいと思ったけど、途中から会話が通じるようになる。とはいえ、当たり前だが、まったく別々の世界で生きてきた者同士だから、コミュニケーションには様々な障害が生じる。謎の階級制度があったり、マッチが超貴重品だったり、歌う時には檻に入っていなければならなかったりと、謎ルールのオンパレードだ。

ウラジーミルとゲデバンは、当然、この惑星にはなかなか馴染めない。特に、ゲデバンは割と従順に従うつもりがあるのだけど、ウラジーミルの方は敵対心をむき出しにする。しかし、物語が進むにつれて、彼らの関係性が変わっていくのが面白い。特に後半のある場面で、究極の二択を3秒以内に迫られる場面がある。僕なら絶対にああするけど、彼らはそういう選択をしなかった。それにはもちろん理由があるのだけど、凄いなぁ、偉いなぁ、と思ってしまった。「絶対に地球に帰りたい」と思っていたら、なかなかできない決断だろう。

なんだか分からないながらも、面白おかしく物語は展開し、後半は割と良い話にもなったりして、しかし結局一筋縄には展開せず、おーこれできっと地球に帰れるんだ!と思ったらそうはならず、すったもんだありながらさて最後どうなるでしょう?という、結構ワクワクする物語だ。1986年に公開された映画だというから、35年も前のもので、確かに映像的な古さはあるものの、物語的な古さは感じない。ある意味で異世界が舞台であるが故に古びないということもあるだろう。

最後の最後も、思わず笑ってしまうような終わり方で、なんというか、全体的に非常にセンスのいいユーモアを感じる作品でした。

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