【映画】「偽りの隣人 ある諜報員の告白」感想・レビュー・解説

面白い映画だったなぁ。めちゃくちゃシリアスでハードな状況を描いてるのに、場面場面で観客から笑い声が上がるような、社会派でありながらユーモラスな映画だった。

しかし、映画を観終えて家に帰って公式HPを見たら、

【1985年、軍事政権下の韓国】

が舞台だと書かれていた。驚きだ。僕は歴史にあまりに疎いので全然知らなかったのだけど、たかだか30年ぐらい前まで、韓国って軍事政権下にあったのか。

そういう時代のことを描く映画だからだろう、映画の冒頭で

【この映画はフィクションです】

という字幕が表示された。結構映画を観ている方だと思うけど、なかなか見かけない文句だ。よく見るのは「この映画は実話を基にしている」という類のもの。その逆の文句を冒頭で表示しなければ韓国国内で上映が許可されなかったのか、あるいは、ある程度実話を基にしているから「フィクションですよ」という断りが必要だったのか、それは分からないけど、なんとなくこの作品が持つ「リアルさ」みたいなものを、この冒頭の文句からも感じさせられた。

まずは内容から。
イ・ウィシク総統が、アメリカから帰国した。彼は野党政治家だが、軍事政権下の韓国で身の危険を感じ、3年もの間家族を置いて韓国を離れていたのだ。しかし、次期大統領選を控え、満を持して帰国となった。
しかしなんと、白昼堂々空港で拉致されてしまう。国家安全政策部の仕業だ。彼らはウィシクを自宅軟禁とし、その間に「共産主義者」としてのレッテルを貼るべく画策していた。
ウィシクの自宅の隣で盗聴と監視を行う任に選ばれたのは、愛国心は強いがとある事情から左遷されていたユ・デグォンだ。デグォンは、空港でウィシクを拉致した一人であり、2人の部下を従えて、隣家から24時間体制でウィシクの生活を監視することになった。
直属の上司であるキム室長に忠誠を誓い、任務を完全に果たそうと意気込むデグォンだが、監視する中で彼は、ウィシクが国や人民を徹底的に思い、韓国の民主化のために力を尽くそうとしていることを知る。
彼の任務は、最終的にはウィシクを出馬させないことだが、それが正義なのかデグォン自身分からなくなっていく。
「隣人」としてウィシクと接することにもなり、さらにデグォンの考えは揺れ動いていくが……。
というような話です。

設定や物語の構造は非常にシンプルですが、思わず笑ってしまう場面や、緊迫感溢れてハラハラする場面もあり、エンターテインメントとしてよく出来ていると思います。真剣に任務に取り組んでいるのだけど、デグォンのチームは結構ドタバタで、「なんでそんなことに!」と思うような展開が何度もやってきます。諜報員としては失格という場面は多々ありますけど、映画的には面白く観られます。

あととにかく、ウィシクがいいですね。自分がどんな立場に置かれているのかをすべて理解しながら、それでも理想や信念のために前に進んでいく。無理だと分かっていて、危険だと気づいていても、それでも「私は私の仕事をする」と言い切り、行動に移していく感じがいいなと思います。

そして、そんな姿にデグォンも感化されていく。彼は彼で、「自分の行いは正しいはず」だと信じているでしょう。盗聴や監視は悪ではなく、善を実現するための手段だ、と考えているはずです。

そういう時代だったから、としか言いようがないでしょうが、彼は彼なりの理屈で自分の正義を実現しようとしていたはずです。ただ、ウィシクの人柄や発言を知り、自分が抱く「正義」が果たして本当に正しいのだろうかと疑問を抱くようになったのでしょう。彼の葛藤は、分かるような気がします。

ウィシクは、まさに「徒手空拳」というようなスタンスで大統領選に挑みます。彼自身、「我々は体だけでやってきた。失うものなど何もない」というような発言をしています。

権力や金などで動く人間は、それらが失われたり手に入らなくなると分かったりすると歩みを止めるでしょうが、ウィシクのような人間は自分の信念が崩れない限り突き進んでいきます。だから強い。そんな強さに感化されていく感じは分かる気がします。

ラスト付近で、ウィシクに大いなる危機が訪れるわけですが、ここでのデグォンの振る舞いは良かったなぁ。「変態が暴れていて前に進めません」というセリフを言う人物が出てくるが、まあ確かにそう表現するしかない状況だった。

過去がどうあれ、「これが正しい行動だ」と決めた際の行動力は見事だし、映画のラストシーンもすごく良かったなと思います。

ちなみに調べてみると、この映画のモデルになっているのは「金大中大統領」だそうだ。どこまで実話なのか知らないけど、やはり実在のモデルがいるからこそ、「これはフィクションです」と強調したのだな。

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