【映画】「バリー・シール アメリカをはめた男」感想・レビュー・解説

内容に入ろうと思います。
航空会社TWAのパイロットとして働くバリー・シールは、学校を首席で卒業、TWAの最年少パイロットであり、美しい妻と暮らす不自由のない生活をしている。1978年、冷戦真っ只中の時代に、こっそりキューバから禁輸品を持ち込んでは小遣い稼ぎをしていた。
そんなバリーに声を掛けたのが、シェイファーという男。彼はCIA所属であり、バリーに仕事を依頼した。当時ソ連が南米の共産主義組織を支援しており、飛行機で南米まで飛び、共産主義組織の兵士の写真を撮るように言われたのだ。バリーは見事な働きをするが、危険な任務でありながら、TWAの高給を捨てて満足出来るほどの報酬はまだもらえていない。
そんなバリーに、南米の麻薬密売組織が接近する。後に数十億ドルを稼ぐ麻薬カルテルの前身であり、バリーは彼らの麻薬をアメリカ国内に運び込む代わりに、大金を得ることになった。
とはいえ、そうそううまく行くはずもない。バリーはある日南米の警察に拘束されてしまった。バリーを救い出したシェイファーは、彼にさらなる任務を与える。CIAが支援している南米の組織に銃を密輸しろ、というのだ。そこで、あの麻薬カルテルのボスと再会し、バリーはまた運び屋も兼ねることになったが…。
というような話です。

「これが実話なのかぁ!」という驚きで見せる映画かな、という感じがしました。確かに面白いのだけど、「こんなとんでもない話が実際にあったことだったなんて!」という驚き以上のものはなかったかなぁ、と思いました。ちょっと厳しい評価だけど、実話を元にする場合、そう感じてしまうことが多いです。実話を基にしているから、物語自体を大きくいじるわけにはいかないだろうし、だから難しいのは分かっているんだけど、それでも、もう少し「映画としての面白さ」みたいなものもあってほしいと思ってしまうことが多いです。

しかし、バリーの人生は凄いものです。まさに時代に翻弄された、と言えるでしょう。バリーの人生は、普通であれば、南米の刑務所に拘束された時点で終わっているはずです。でも、時代がそれを許さなかった。天才的な腕を持つパイロットであり、南米の麻薬カルテルと繋がりのあるバリーは、その時その時で様々な組織から使い勝手の良さを買われることになります。そのことが結局、バリーの人生を破滅に導くことにはなります。瞬間的にでも人生を謳歌出来たから良い、と考えるしかないかな。

しかし、麻薬の運び屋としての収入はハンパではありません。生の現金を家に持って帰ってくる。資金洗浄をしてからじゃないと使えないからです。しかし、そのヒマがない。だから家中に紙幣が溜まっていく。物置に、靴箱に、草刈り機の中に、車のトランクに、そして地面にまで金を埋めていきます。しかし不思議だったのは、その有り余る金によって、何かが崩壊しなかったということです。いや、まったくということはありません。例えば、妻の弟であるJBの件があります。けど、それぐらいかなぁ。普通あれだけ大金があれば、もっと金にまつわるトラブルが起こりうるだろうと思うんだけど、それはなかったのか、あるいはバリーの家族や周囲の人間に取材出来ずに分からなかったのか、どうなのかは分かりません。

バリーは、どれだけ大金を得ても運び屋の仕事を辞めなかったのだけど、これには恐らく二つの理由があります。一つは、麻薬カルテルの仕事を一度引き受けてしまった以上、抜け出せなかったという理由。そしてもう一つ、僕はこっちの理由の方が大きいのだろうと思っているのだけど、バリーが飛行機で空を飛ぶ事が好きだったからだろうと思います。航空会社の規則など無視して、自分で航路を考えて自分の力だけで飛んでいく、そういうフライトが気に入っていたんだろうな、と思います。普通なら、麻薬カルテルやあるいはCIAから抜けたがるような素振りがあってもいいような気はするんだけど、少なくとも映画の中では描かれませんでした。実際のところはどうか分かりませんけど。

しかし、周りの人間はバリーをどう思っていたんだろうな、と思います。バリー家族は、警察の手から逃れるために一度夜逃げのように引っ越しをし、ミーナという町に逃れます。特に何があるわけではない寂れた町で、バリー一家が来た時には空き店舗があったり仮設の警察署があったりという状態でした。しかしバリーが銀行などに金を預けまくり、恐らくミーナの町にも多くのお金を落としていたのでしょう、次第に裕福な町へと変わっていきます。

それは明らかな変化であり、その根本にバリーがいたことを、ミーナの住人はそれなりに知っていたはずです。少なくとも、銀行員や町の行政に関わる人間は知っていたでしょう。そういう人間は、バリーが何をして大金を稼いでいたのか知っていたのだろうか?と思いました。知っていたなら、そんなヤバイ金で町が潤うことに嫌悪感を示す住民が出て来るだろうし、知らなかったのなら、何故そんな大金を得られるのか疑問を持つ住民が出て来るでしょう。しかし、そのどちらも映画の中では描かれていません。住民がバリーのことをどう思っていたのかは気になるところだなと思いました。

ちょっとネタバレになってしまうかもだからぼかして書くけど、この映画は、基本的にはバリー自身の告白がベースになっているはずです。その「告白」がどんな風に表に出てきたのか(アメリカという国は、情報公開をする国だから、そういう関係で出てきたのかもしれないけど)分からないけど、この件に関して積極的に喋りたいと思う人間は多くはないだろうから、どうしてもバリーの告白に頼らざるを得ないのでしょう。だから、全体的に、ここはもう少し描いても良い気がするんだけど、という部分を感じました。

サポートいただけると励みになります!