【映画】「ストックホルムケース」感想・レビュー・解説

予想通り、面白い映画だった!


心理学なんかにも興味があったりするから、もちろん「ストックホルム症候群」のことは名前は知ってたし、それがどんなものかも知ってた(ちなみに心理学の本で読んで他に衝撃だったものとして、「ミュンヒハウゼン症候群」とか「代理型ミュンヒハウゼン症候群」とかある。気になる方は調べてみてください)。もちろん、「ストックホルム症候群」が、実際の事件から名前がついたものだ、ということも知っていた。

でも、その事件そのものについては、詳しく知らなかったなぁ。

「ストックホルム症候群」というのは、銀行強盗や誘拐などで、人質が犯人に対して好意を抱く状態のことを言う。1973年にストックホルムで起こった銀行事件での出来事からその名がつけられた、心理学用語だ。

心理学的に、それがどのようなメカニズムで起こるのかという説明はもちろん存在するだろうし、僕もきっと本で読んでいるんだと思うんだけど、たぶんそういう説明を文字で読んでも納得感は薄いと思う。やっぱりどこかで、「ンなわけないだろ」という感覚が、拭えないと思うからだ。

でもたぶん、この映画を見ると、印象は大きく変わることだろう。いや、もちろん、「それでも理解できない」という部分は残ってしまうと思うけど、「あり得ないだろ、そんなこと」という感覚は薄れるんじゃないかと思う。

映画の中では全然注目すべきポイントではないと思うけど、この「ストックホルム症候群」を理解するのに一番象徴的だと思ったある人質のセリフが、「誰にだって良いところはあるものよ」というものだ。これは人質になったかどうかに関係ないと思うけど、そもそも「相手の良いところを見ようとする」か「相手の悪いところを見ようとする」かという、受け取り側の視点によって相手の評価というのはすぐ変わる。

有名な例だけど、ビンに半分ワインが残っている時、「まだ半分も残ってる」と思うか、「もう半分しかない」と思うのかは、人やその時の状況による。同じ現象・状況を目にしていても、その受け取り方はみんな違う。

普通、強盗や誘拐が起これば、犯人の悪い面ばかりを見てしまうものだろう。けど、何かの拍子にそのスイッチが逆転することはいくらでもある。逆転してしまえば、犯人の振る舞いに大きな違いがなくても、相手の良い面を見ようと考えるようになるだろう。

また、これは予告でも流れていたはずだから書いてもいいと思うけど、同じ人質が警察から「犯人を信用出来ますか?」と聞かれて「警察よりはね」と答えるシーンも印象的だ。

僕自身、色んなノンフィクションを読んできて、警察だけではなく様々な公権力が、市民や正義を蔑ろにしている、と感じることは多い。もちろんそれは「組織」というより大きなものの問題であって、「現場にいる個人」の問題ではないかもしれないけど、僕らが接することになるのは「組織」ではなく「現場にいる個人」だ。何らかの理由で、公権力に対して信頼感を抱けていない状態の場合、犯人側にシンパシーを感じることもあるだろう。

もちろん、あまりに非現実的な状況下で、正常な判断を下せなくなる、という要因もあるだろう。

人間というのは時に、非常に不合理な判断をするものだけど、そういう判断をまさにしている最中にはそれに気づけないものだ。この「ストックホルム症候群」の実話は、まさにそのことを如実に描き出しているのだと思う。

内容に入ろうと思います。
1973年、スウェーデンのストックホルムにあるクレジット銀行に、アメリカ人の強盗がやってきた。彼は、女性行員二人を残して銀行から人を遠ざけ、そしてグンナー・ソレンソンを連れてくるよう命じた。刑務所に収監されている男だ。男は行員たちとゲームをして時間を潰し、やがて釈放されて連れてこられたグンナーと合流し、ここからの脱出を目論む。しかし首相が、人質を連れての逃走を許可しないために立てこもりを決意する。人質たちは怯えるが、犯人の振る舞いの中に優しさみたいなものを感じ取り、次第に心を開いていく。どころか彼女たちは、犯人の逃亡を手助けするような振る舞いを見せるようになっていく…。
というような話です。

面白かったです。ストーリーももちろん面白かったんだけど、あんまりそれは触れにくいので(どういう展開になるのか先がなかなか読めないストーリーだっていうのが一つ面白いポイントなので)、別のことを書こうと思います。

とにかくこの映画、人質である女性の一人、ビアンカがメチャクチャいい。見た目的にも、美人さんなのに野暮ったい眼鏡を掛けてあんまり美人美人して見えない感じとか、それぞれの状況下でなかなか予測不可能な行動や反応をしたりするところなど、見た目も雰囲気も振る舞いも素敵だなぁ、と思いました。非常に理性的で、恐らく「犯人に協力しちゃってる」という葛藤ももちろんあったと思うんだけど、自分の行動の正しさみたいなものを信じている感じもあって、良かったなぁ。

そんなビアンカには、夫も子供もいる。それが伝わる割と最初の方のシーンで、すごく「場違い」だけど「真剣」な場面があって、それも凄くいいなと思いました。自分は絶対に生きて子どもたちと再会する、という気持ちがあって、その実現のために犯人に協力しているのか、と最初は思うのだけど、どうもそれだけでは説明がつかない感じがあって、なかなかミステリアスな存在感が素敵だと思います。

映画は、ビアンカに焦点が当たるので、もう一人の女性人質であるクララの存在はかなり薄いです。実際にクララが映画の通りの振る舞いだったのか分からないけど、なんとなく、映画の中でビアンカを強く浮き立たせるために、クララを真逆のキャラにしたのかな、という気もしました。

また、犯人役もいいですね。基本的には粗暴であまり知性を感じない人物なんだけど、どことなく憎めない感がある。これを演技で醸し出すのは凄く難しかったんじゃないかなぁ、という気がします。今となっては「ストックホルム症候群」という言葉も割と普通に知られているだろうから、犯罪者側もそういう状況になることを想定して計画を立てるなんてこともあるかもしれないけど、この時点ではそんな発想があるわけはないので、ナチュラルな振る舞いの結果としていつの間にか人質から信頼を勝ち得てしまう、という、結構難しい振る舞いが要求されると思うんだけど、メチャクチャ自然にそれが出来ているんで、凄いなぁ、と思いました。確かに、この犯人だったら、「協力する」って選択肢は頭の中に現れるよなぁ、と感じさせられるよな、って思いました。

非常に興味深い物語だし、映画としても面白かったです。

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