【映画】「インセプション」感想・レビュー・解説

もちろんその評価の高さを知った上で観に行ったけど、やっぱり凄い映画だったなぁ!

内容に入ろうと思います。
コブは、ちょっと特殊な産業スパイとして暗躍している。それは、対象者が見る「夢」から機密情報を抜き取る、というものだ。覚醒状態よりも無防備な睡眠状態の潜在意識に入り込み、覚醒状態では絶対に手に入らない情報を盗み出すのだ。とある事情から国際指名手配を受けているコブは、ある任務に失敗、雲隠れするつもりでいたが、そのミッションの対象者であったサイトー(つまり、サイトーの夢から機密情報を奪おうとした)から、新たな依頼を受ける。それが「インセプション」だ。夢の中に自在に入り込める彼は、潜在意識から情報を抜き取るだけではなく、潜在意識に新たな情報を挿入(インセプション)することも、原理的には出来るのだ。しかしインセプションは、超高難度のミッションで、相棒であるアーサーはコブを引き留めようとする。しかしコブは、指名手配犯であるが故に自宅に帰れず、子供たちとも会えていない状況を、ミッション成功の暁にはサイトーが好転してくれるという報酬にすがり、このミッションを引き受けることにする。彼は、この難ミッションを遂行する仲間集めを始め、”設計士”として大学生のアリアドネを、”偽造師”としてイームスを、”調合師”としてユフスを迎え、超帝国企業の次期会長であるロバートの頭に、帝国崩壊を導くための考えを植え込むことにするが…。
というような話です。

僕がこの映画を観る前に知っていた情報は非常に限られていて、「監督がクリストファー・ノーラン」、「可能な限りCGを使っていない映像」ということだけです。レオナルド・ディカプリオが出ることも、渡辺謙が出ることも、冒頭で日本のシーンがあることも知らないまま観に行きました。

前評判通り、映像はやっぱり凄いですね。CDを一切使っていないわけではないということは理解しているのだけど、じゃあどのシーンのどこまで実写でどこからがCGなんだろう?と思いながら見てしまいました。映画を観る前に知っていたのは、ホテルで無重力っぽい感じで男2人がバトルするシーン。回転する廊下を作成して撮った、ということは知っていました。でも他にもネットで調べると、冒頭の方で出てくるパリの街が爆破されるようなシーンとか、機関車が登場する場面も基本実写だとありました。あとやっぱり分からないのは、無重力のシーンなんだよなぁ。「インターステラー」でも思ったけど、どうやって無重力のシーンを撮ってるんだろう。宇宙飛行士の訓練施設みたいなところがあるのは知ってるけど、それにしたって無重力のシーンを全部その施設を使えば撮れるんだろうか?

今回は、夢から夢へと降りていくという、頭が混乱しそうな複雑な構成の物語ですけど、その度にシーンがまったく違うところに飛んで、普通だったら繋がらない光景が頻繁に切り替わっていく映像は、なんだか新鮮でした。この映画では、夢の中の夢の中の夢の中の夢という、4段階の夢が存在するので、同時に最大4つの物語が展開することになります。そして、それぞれは、「誰かの夢」という形で繋がっているので、上位の夢が下位の夢に影響を及ぼす。それぞれの世界の中で起こる不条理な現象が、その上位の夢の影響を受けているというのは面白いと思うし、その設定があったからこそ、異常な映像を生み出す必然性が生まれるとも言えます。

映像も凄かったけど、物語も凄かったです。一番感心したのは、夢の中の夢の中の夢の中の夢という4段階の夢が登場する複雑な物語を、面白く見せる物語にしていることです。僕は正直、この点に一番驚きました。正直、映画の冒頭は何がなんだかさっぱりで振り落とされそうになりましたけど、仲間集めを始める辺りから少しずつルールが分かりかけてきます。ただ、彼らがミッションを決行に移すというタイミングになってもまだ、僕はこの物語のルールをきちんとは捉えきれていなかったと思います。それでも、物語を追いかけていくと、ちゃんと理解できる。ちゃんと理解しようと思ったら結構複雑な設定があると思うんだけど、そういう部分にあまり意識を向けさせずに、映像の打ち出し方でルールや世界観を上手く見せていて、凄いなぁ、と思いました。もちろん、細部までちゃんと説明しろと言われたら出来ないし、そういう意味では理解はしてないんだけど、でも、物語を追いかける分には十分だし、面白かったと思える。ここが非常に大事だなと思いました。ちゃんとは理解できないけど面白い、という感覚がちゃんと残れば、一度しか見ない人も満足だし、何度も見ようというモチベーションにも繋がるでしょう。僕は、ジブリ映画を観るとよく、ちゃんとは理解できないけど面白い、という感覚になるのだけど、方向性としてはそういう感じに近いなと思います。

しかもこの物語、さらに複雑なことに、この難ミッションとは別に、コブ個人の物語も挿管されていく。これも、ちゃんと理解しようと思ったら結構複雑なはずなんだけど、分かった感はちゃんとあるし、このコブ個人の物語が挿管されることによって、全然理解できなかったコブという個人の人間性が分かったり、アリアドネとの関係性が面白くなったりします。

この映画では、基本的に登場人物たちは、「ミッション遂行のための駒」という風にしか描かれません。コブ以外の登場人物の、個人の背景描写はほぼゼロと言っていいでしょう。そういう意味で、「共感」を重視する人には評価が上がりにくい物語になってしまう可能性もあったでしょう。でもそこに、コブ個人の物語が色濃く描かれることで、唯一背景描写がなされるコブに対して「共感」が生まれる余地が出てくる。そういう意味でも、このコブの物語は非常に重要だな、と。

しかしそういうことを考えなくても、このコブの物語は、なんだか考えさせられるな、と。夢を扱った物語なので、「現実とは何か?」という問いが登場するのはある程度予想できることだとは言え、この映画で問いかけられる「現実とは何か?」は、幾重にも複雑に折り重なった様々な要素が絡んでいて、簡単に答えを出せるものではないな、と。この映画と同じような状況下で「現実とは何か?」という問いが繰り出されることはまずないでしょうが、人工知能や仮想現実などが様々な形で世の中に登場し始めている現代においては、テクノロジーの進化と共に、「現実とは何か?」という哲学的な問題に答えなければならない瞬間が訪れるかもしれないなぁ、と思ったりしました。

映画のラストシーンも、好きですね。まさにこれこそ、「現実とは何か?」という問いそのものだな、と。問いそのもののまま終わる、というのも、良い余韻を残していると感じました。

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