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【本】おげれつたなか「エスケープジャーニー」感想・レビュー・解説

『俺と太一は、恋愛を挟むとうまくいかない2人だった』

この作品が僕にドンピシャだったのは、僕が直人とまったく同じことを考えているからだ。

『太一とは恋人になれない。友達以上には進むべきじゃない。一緒にいて楽しいし笑える。それだけでいい。それだけでいいはずなのに』

僕はある時から、恋愛はもう無理だな、と思うようになった。恋愛は向いてないな、と。一応書いておくけど、男との恋愛じゃなくて、女性との恋愛だ。

直人が言うように、「恋愛を挟むとうまくいかない」のだ。

どうしてなのか、自分なりに色々考えることはある。近すぎる人間関係だと関係性が濃すぎてその濃い感じを長続きさせられないのかとか(僕は、恋人だけではなく、家族も無理な人間なので)、恋人になってしまうと相手の理想に合わせなきゃいけない気がして窮屈に感じるのか、いつでも繋がってるような感覚が苦手なのか(僕はFacebookとかLINEで人と繋がり過ぎることもしんどく感じられる人間です)、その辺りの理由はイマイチよく分からない。でも、理由はともかく、僕はもう、恋愛という関係は無理なんだろうなと思う。

こういう話をすると、「まだ本当の恋と出会ってないんだね」みたいなことを言われるんだけど、どうなんだろうなぁ。今までの僕の恋愛は、全部自分から告白して、全部自分から振ってる。自分が告白して付き合い始めの頃は、僕の感覚ではすげぇ好きなんです。その感覚が「本当の恋」じゃないとしたら、どういうのが「本当の恋」なんだろうなぁ、と思ってしまう。

でも、半年もすると、もう無理になる。

『男同士で、普通じゃなくても、今まで通り楽しくやっていけると思ってたから。でも、だんだん太一と一緒にいることが楽しいとは思えなくなっていった』

太一と恋愛関係に陥った直人と同じ感覚に、僕も囚われてしまう。「飽きた」と言われればまあそれまでなのかもしれないけど、僕の感覚では「飽きた」というのではなく、「あぁもう一緒にいられない」「一緒にいるのがしんどい」という感じになるのだ。

だから今僕は、女性との関係を恋愛にはしないということを、メチャクチャ強く意識している。

『と…ともだちになりたいの』

僕は何故か女子会に呼ばれる男だった。女子会という名目ではないかもしれないけど、お例外全員女子(女子の人数は1人から5~6人と様々だけど)みたいな場にばっかりいた。男同士でいることはほとんどない。男といるのは苦手なのだ。
ちょっと前に引っ越したのだけど、「そっちに行ったら泊めて」と言ってくる女性は何人かいるし(まだ実現はしてないけど)、僕が上京した時に泊めてくれると言ってる女性もいる。そんな風に、女性から男として扱われない感じが、僕は凄く楽で楽しい。

だから女性とは、どうにか友達になりたいなぁ、といつも思っている。よく言う、「友達以上恋人未満」というのが理想だ。恋愛はもういい、なんていうと、時代的に草食男子だと見られるだろうけど、僕は、積極的に「友達以上恋人未満」を目指しているという点で、草食男子とはちょっと違うんじゃないかと思ってるけど、どうだろう?

『俺たちは恋人とか友達とか、名前のつく関係にはなれない。どんな名前の関係でも結局はうまくいかない。俺と太一は何にもなれなかった』

とはいえ、女性とそういう関係になるのは、かなり難しいし時間が掛かる。直人がいう「名前のつかない関係」というのは、名前がつかないが故に安定させにくい。男女の友情が成立するかという話がよくあって、答えはどっちでもいいんだけど、「男女の友情」という関係にきちんとした名前が存在しないせいで、その関係性が不安定であることは間違いない。名前のつく関係性の引力というのはとても強いから、どうしたって「恋人」とか「元カレ」とか「友達」とか、そういう名前のつく関係性に否応なしに着地してしまうことが多いだろう。「友達以上恋人未満」だろうが「男女の友情」だろうがなんでもいいのだけど、その関係性は、どちらか一方、あるいは両方のかなり強い意志がなければ継続しえないというのは確かだろうと思う。

恋愛はもう止めて女性とは友達になろう、と決めて以降、僕はちゃんと自分の気持ちをコントロール出来ていると思う。危ないな、と感じる時ももちろんあるけど、そういう時は、かつての後悔を思い出すようにしている。

『太一とは、「恋人」じゃダメだった。なら「友達」に戻れば、またうまくいくのだろうか』

僕はよく考える。かつて付き合った女性たちは、友達のままだったら本当に良い関係を継続出来たと思う。友達のままなら、これほど相性が良い人はいないだろうと思えるような人たちだった。けど、一度恋愛にしてしまったせいで、特に男女の関係の場合、「普通の友達」に戻るのは難しい(この作品のように同性同士であれば、その関係性は基本的に周囲に伏せているだろうし、本人同士の気持ちさえ整えば、形としては友達に戻れなくはないと思う。男女の恋愛でも、周囲に伏せていれば同様だけど、完全には伏せないことが多いと思うので)。恋愛にしなきゃ、今でもいい関係でいられたんだろうなぁ、という強い後悔があるから、自分の気持ちが揺れ動いた時は、その後悔のことを思い出すようにしている。

『こえーんだよ。なんか…なんでもいい。名前がつかないと。友達とか恋人とか…家族とかさ。
先に進めないのは怖い。ずっと立ち止まったままいるみたいで』

直人と僕が違うのはこの点だ。僕はもう、名前がつかない関係でいることに恐怖はない。むしろ、名前がつかない関係になりたいとさえ思っている。安定しないことにこそ良さを感じている。
でも、直人の恐怖も当然だろうと理解は出来るつもりだ。

『女の子は、友達、恋人、それから結婚して家族になる。でも俺と太一は、恋人がゴールで最後だった。友達以上にはなれても恋人以上には絶対なれない。元々恋人の俺達にはこれから進む先の道なんかなくて、戻る道しかない』

僕には、「家族がゴールで、それが当たり前」という価値観は怖いなって思うけど、世の中がそうなってるんだから、それに囚われてしまうのは仕方ないことだとも思う。好きだから恋人、家族をゴールにしなきゃいけないなんていう思い込みから解放されれば、もっと人間関係が多様になって面白いと思うんだけどな。


高校時代、直人と太一は付き合っていた。コミュ障気味で他人とうまく喋れなかった太一を見かねて、誰とでも喋れるチャラい直人が構ってあげてたのがきっかけで、友達としては最高の関係だった。でも、恋愛になった途端、うまくいかなくなった。些細なことで喧嘩ばかりして、一緒にいることが楽しくなくなった。

そして、最悪な形で別れることになった。直人と太一は、友達以下になった。

大学で、直人と太一は再会する。コミュ力の高さを活かして色んな人に声を掛けまくっていた直人は、その内の一人に紹介された友人の中に直人がいることを発見する。
直人は、最悪な別れ方をして、それから会ってない太一との再会に動揺したが、太一の方はなんだか普通に接してきて調子が狂う。

『要は好きにならなきゃいいんだよ。簡単な話じゃん。なんだよ、よゆーよゆー』

そう思ってた直人は、しかし、もう一度太一を求めてしまう。

『俺はもう知っている、友達以上を。知っているから止まれない』


僕自身のあり方とリンクしすぎてしまう部分が強かったからでしょうか、直人にもの凄く共感して読んでしまいました。直人と同じ道を、僕も歩いたことがある、という感覚にずっと囚われていました。恐らくハッピーエンドだろうな、と予想してたから、途中で直人と僕の選択は枝分かれするはずだとわかっていました。でも、同じ場所から同じ道を通って、途中まで同じ景色を見ていた仲間として直人のことを見ていました。

この関係性は、まさにBLでなければ描けないでしょう。

僕は割と、機会があれば周囲の人間に、恋愛はもういいんですよー、という話をする。するんだけど、やっぱりなかなか分かってもらうことは難しい。ここに書いたようなことを圧縮して話すんだけど、伝わらない。まあそうだろうな、とも思うんです。好きだったら恋愛にするのが当たり前、という世の中だし、昔以上により恋愛至上というか、恋愛をすることが良いことだみたいな風潮を感じる世の中でもあります。恋愛をしていることは幸せだし楽しいことで、恋愛をしていないことは不幸でつまらないことだ、と本気で信じている人は世の中にたくさんいることでしょう。そういう中で、恋愛はいいっす、女性とは友達がいいっす、みたいなことを言ったって、はぁ?となるだろうなと思っています。

ただこの話、男同士に置き換えたら、途端に分かりやすい話になるんですよね。

『女の子は、友達、恋人、それから結婚して家族になる。でも俺と太一は、恋人がゴールで最後だった。友達以上にはなれても恋人以上には絶対なれない。元々恋人の俺達にはこれから進む先の道なんかなくて、戻る道しかない』

同じ引用を繰り返したけど、まさに男同士の関係は、捉え方によっては「戻る道しかない」ことになる。それがすんなりと伝わる。男女の関係で「戻る道しかない」と感じさせる作品を描くには、相当色んな設定を継ぎ足していかないと不可能だと思うけど、BLでならそれが出来る。BLという枠組みだからこそ描き得る関係性に焦点を当てて深く掘り下げている感じが凄くいいなと思いました。

この作品には、BLでありながら女性もたくさん出てくる。BLの中で女性を登場させることの難しさは別のところでも書いたから繰り返さないけど、チャラ男で女性にいくらでも声を掛けられる直人と、自分に思いを寄せてくれる女子がいる太一という、女性もきちんと存在する世界の中でお互いへの気持ちが描かれていく。女性の存在が物語の中で重要な役割を占めるし、そういう意味でも男同士だけで完結してしまうBLよりもよりリアルだなと感じられました。

『特に大事なことって、ただ思ってるだけじゃダメなんだよ』

作品全体としては、直人やミカっていう女性の、うわー俺たぶん友達になれないわー、っていう感じの描写が凄く良い雰囲気出てたと思うし、ふみちゃんって女の子の感じも良かったな、と思います。ホントは、ストレートすぎるハッピーエンドはあんまり好きじゃない方なんだけど、この作品では、ちゃんと落ち着くところに落ち着いてくれて良かった、という感じになりました。

おげれつたなかの作品は、前に「恋愛ルビの正しいふりかた」という作品をなんとなく読んでみて、あーこれは俺が読んじゃいけないタイプのBLだったー、と後悔しました。表紙の感じとタイトルのインパクトで選んだんですけど、やっぱりダメですね。人から勧めてもらわなかったら二度とおげれつたなかを読まなかったと思うので、とてもいい機会だったなと思います。


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