【映画】「人生タクシー」感想・レビュー・解説

そこまでつまらなかった、というわけではないのだけど、結果的に途中で寝てしまった。だから、映画全体をちゃんと見れていない。

この映画は、イランの有名(らしい)なパナヒという映画監督による作品です。「作品です」と書いたのは、これがフィクションなのかドキュメンタリーなのか、僕にはイマイチ判断できなかったからです。

まずは全体の設定を書いておきましょう。
パナヒ自身がイランで、タクシードライバーをしている。町中で色んな人を乗せ、下ろす。その様子を、車内に取り付けた何台かのカメラで切り取っていく。という映画です。

なんでそんなやり方で映画を撮ろうとしたのか。それは、パナヒがイラン当局から映画撮影を禁じられているから、だそうです。どうして禁じられたのかは、映画を見ている分には分かりませんでしたが、作中に登場するパナヒの姪が、「イランで上映可能な映画の条件」について語っている場面がありました。「女性はスカーフを巻いている」「男女が交わらない」などなど色んなルールがあり、恐らくパナヒはそのいずれかに抵触したのでしょう。

これだけであれば、なるほどルールの網をかいくぐって面白いやり方でドキュメンタリーを撮ったのだろう、と思うでしょう。しかし作品を観ていると、単純にそうとも思えないのです。

というのも、作品の中で色んなことが起こりすぎるからです。

基本的にこの作品は、とある一日の情景として切り取られます。まず最初に、ちょっと強面の男性とスカーフを巻いた女性を乗せ、二人が「軽い罪で死刑にしたがる現状」について議論します。そこから色んな人を乗せながら話が展開していくんですけど、ホントにこれ実際に起こった話なのかな、と思ってしまうような展開もあります。

その最たるものが、交通事故にあった男性を病院まで搬送する場面です。まあもちろん、そういうこともあり得るでしょうけど、パナヒという映画監督が運転しているタクシーにたまたまそんなことが起こるもんだろうか、と思ってしまいました。

その後やってきた、金魚を抱えた二人組の女性もおかしかったし、そんなことを言ったら冒頭に出てきた強面の男性もちょっと変です。これが、何日かに渡って起こった出来事を編集で繋いだ映像なら、全然理解できるんです。でもこの作品は明らかに、一日に起こった出来事として記録されています。だから、「人生タクシー」の中で起こる出来事にはすべて脚本があって、つまりフィクションである、という考え方も出来るだろうな、と思います。

この映画について何か調べたりはしていないので、実際のところどうなのか分からないのだけど、フィクションであるにせよドキュメンタリーであるにせよ、試みとしてはとても面白いと思いました。

作品の中で、学校で短編映画を撮らないといけない、と語る男が出てきます。有名な古典映画はほぼ観たし、今は映画や本を読んで題材を探しているのだけどなかなか見つからない、という話をパナヒにします。それに対して彼はこう答えます。

『映画はすでに撮られ、本はすでに書かれている。他を探した方がいい』

これは、短いながらも実に的確で示唆に富むアドバイスだな、と思いました。確かにその通りだなと思いました。またこれは、映画撮影をまさに今禁じられている自分自身の体験から来るものだろう、という感じもしました。「映画を撮る」という枠組みを外れたところでしか映画を作れない身として何が出来るのか―その思考の果てに、タクシードライバーになる、という形を思いついたのではないか、と思うので、彼自身の実感のこもった言葉として聞くことが出来ました。

さて最後に。この映画の冒頭(という表現は正しくないですが)にはちょっとびっくりしました。突然、日本人による映像が流れ始めたんです。正直、何が始まったのか、さっぱり理解できませんでした。

最初は、とある映像編集会社にカメラを持った映画監督(最後に、森達也だと分かります)が入っていきます。カメラを持った映画監督は、どうも映画撮影を禁じられているそう。そこで彼は、「映画を撮る」のではなく「映像を編集する」という抜け道を探ります。つまり、過去に撮った映像を編集するのであれば、「映画を撮る」からは外れられるのではないか―「映画」と「映像」の論争をするような、ショートフィルムという感じでした。

そしてその後、また監督は代わります(名前は忘れました)。彼は、「もし自分が映画の撮影を禁じられたとして、それでも撮りたいと思うものは何か?」と考え、「息子しか思いつかなかった」と語ります。そして、生後1年ほどの息子を撮影した映像がしばらく続いていきます。

そしてその後に「人生タクシー」が始まる、という構成だったんですけど、イマイチ冒頭の二つの短い作品の存在意義が理解できなかったなぁ、と思いました。

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