マガジンのカバー画像

月刊文芸誌『文活』 | 生活には物語がみちている。

noteの小説家たちで、毎月小説を持ち寄ってつくる文芸誌です。生活のなかの一幕を小説にして、おとどけします。▼価格は390円。コーヒー1杯ぶんの値段でおたのしみいただけます。▼詳… もっと読む
このマガジンを登録いただくと、月にいちど、メールとnoteで文芸誌がとどきます。
¥390 / 月
運営しているクリエイター

#文と生活

駅前猫と三時|左頬にほくろ

   0時は夜で、6時は朝。それなら、3時は夜と朝のどちらに属する時間なのだろうか。深夜にしてはすこし深すぎて、早朝にしてはすこし早すぎる。3時は夜ですか? 朝ですか? 誰かにそう訊ねてみても、きっと年齢や職種によって人々の答えは異なるはずだ。 「・・・という訳で、今回の撤去作業は11日に決定、となりました。イトウちゃん、すまんけど当日は3時に会社前集合で。あー、3時っていうのは11日になった数時間後の方ね? 15時じゃなくて午前の3時。AM、エーエムね?」  11月の月

都会の男|みくりや佐代子

 「なんで?」とその人は鼻で笑った。公共施設とオフィスビルが雑多に混ざっているのを窓から見て、私が「この街好きですよ」と言ったから。 「とびヶ丘のどこがいいの?俺、この街大っ嫌い」  初対面だった。このへんで働いていると言った。何度かやりとりして優しそうな印象だったから、会ってみることにした。 「マッチングアプリよくするんですか?」 「うん、よくするよ」 「私したことないんです。今回が初めて」 「あー。きみ、北の方の出身って言ってたもんね。こっちだと普通だよ」 なるほ

猫とドロケイ | なみきかずし

★11月11日 きょうのミッション★ ねこがいなくなったことをつたえる 六限目。どうとくの授業がもうすぐ終わるころ。 ハルカくんは、自分のノートのはじのところに、今日も「ミッション」を落書きをしました。 ハルカくんのノートのはしは「とくべつコーナー」。今日のミッションをじゅんばんに書いていく場所なのです。 ★11月10日 きょうのミッション★ おにいちゃんが読み終わったマンガをかすやくそくをする ★11月9日 きょうのミッション★ きのうみたドラマ

シュレーディンガーとポッキーの消失による哲学的省察|雪柳 あうこ

 11月11日、11時11分。  あたしのシュレーディンガーがいなくなっているのを、観測した。  朝8時15分頃だと、中央改札の鳶色のロータリーには等間隔で同じ制服の女子達が並んでいる。皆、友達が来るのを待っているのだ。そこから数分、坂を上ったところにある中高一貫の私立の女子校。その数分を、わざわざ一緒に登校するために。  あたしは、皆が電線の雀みたいに見える、その時間帯が大嫌いだった。  だからあたしは、とびヶ丘駅に到着するのは早くても9時半以降の電車だと決め

花の名前|西平麻依

——ねえ、こうやってドーナツをはんぶんこしたこと、忘れないでいてね。 理良が言うと、凌が続ける。 ——「人間は忘れる生き物だ」って、誰かが言ってたよ。 ——だったらなおさら、覚えていられるか試してみようよ。 漂う海の泡のような、儚い記憶が、十五年の長い眠りから覚めようと、頭の中をあっちへ行ったりこっちへ来たりしている。 リラの花が咲くのは、いまの季節じゃないな、と、ホテルの小さな裏庭を窓から見下ろしながら凌は思った。花のことなど、何も知らない。彼女と同じ名前の花だか

まる|北木 鉄

月に向かってジャンプしたら、月も一緒にジャンプした。 びっくりしてえー!って声がでた。もう一度見上げたら、丸い月がなんでもない顔してこっちを見てた。 丸い月。 「死んだらね、丸くなるのよ」 昔ぼくがちいちゃかった頃、母さんが言ってたその言葉を思い出す。今日みたいに真っ暗な夜だったんじゃないだろうか。 丸い月は、なんだか震えてるみたいにも見える。