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コロナを越えて⑮お寺のアプリ、出資者と

浄土真宗本願寺派大親寺副住職 石川大夏氏

※文化時報2021年5月10日号の掲載記事です。写真は開発中の画面(名前などはダミー)。

 「法務や門徒の情報を一括で管理できる安価なアプリが欲しい」。そんな僧侶の願いが、間もなく実現する。浄土真宗本願寺派大親寺(大阪府東大阪市)副住職、石川大夏氏の呼び掛けで開発が始まった「OTERAplus(オテラプラス)」。すでにクラウドファンディングが成立し、出資者らとオンラインサロンで話し合いを進めている。ソフト関連の株式会社コギト(京都市中京区)が開発し、7月中の完成を目指す。(編集委員 泉英明)

5月10日・経済面1

石川大夏(いしかわ・たいか) 1989(平成元)年7月、大阪府東大阪市生まれ。同志社大学商学部卒業後、龍谷大学大学院実践真宗学研究科で学び、在学中に影絵で教えを伝える「ともしえ」を開始。現在は浄土真宗本願寺派の職員として勤務している。妻の由美子さんも大谷本廟で勤務経験を持つ。

妻の一言から開発決意

 《石川氏は、平日は本願寺派職員として宗務所で勤務し、休日は東大阪市の自坊で法務を行う。「スマートフォンで全ての情報を管理したい」と考えていたが、手頃なソフトがなく諦めかけていたところ、若坊守で妻の由美子さんから「自分たちで作れないかな?」と思いもしなかったことを言われた》

──開発の経緯を教えてください。

 「ご門徒と接する時、情報を管理するさまざまなツールを使っていた。住所や電話番号はもちろん法話の内容や『今度、孫が遊びに来る』など、些細な会話もメモアプリなどに記録していたが、故人の情報管理は寺のパソコンで行っていた。また、市販のソフトやアプリは高価で、手頃な価格でクラウドを用いてスマートフォンで管理できるようなシステムではなかった」

 「そんな時に妻から『自分たちで作れないかな? 知り合いに聞いてみようか?』と提案があった。友人や知り合いに話を聞き、インターネットでも会社を探していたところ、大谷本廟の墓地ナビゲーションアプリなどを手掛けるコギトさんと偶然縁ができた」

 「開発費の一部をクラウドファンディングで募り、出資してくれた僧侶の意見を聞きながら開発を進めた。当初は5月中に完成する予定だったが、現在は7月中の完成を目指している」

オンラインサロンを活用

 《クラウドファンディングは目標金額100万円で昨年末に募集。約40日間で136人が参加し、113万9千円を集めた。リターンには、開発に向けたオンラインサロンへの招待などを設定。新型コロナウイルスの影響で直接会うことが難しい中、新しい可能性を秘めているという》

──オンラインサロンの意見を開発につなげています。

 「クラウドファンディングの開始時には、龍谷大学大学院の実践真宗学研究科で立ち上げた影絵で教えを伝える『ともしえ』のメンバーらに声を掛けた。『ともしえ』は活動を休止したが、つながりは続いている」

 「多様な意見を聞きたかったので人を集めたかったが、どうしても宗派が偏りがちだった。そこで、宗派にこだわらず話を聞けるオンラインサロン活用の提案がメンバーからあり、支援者で作ったグループで話し合いを持った」

 「意見の中には『葬儀の施主の名前や続柄を残したい』との声があった。このことで故人との関係性が見えてくる。また、今回は難しかったが、カスタマイズ機能の要望もあった。皆がどのようなシステムを、どう活用しているのかなどの声も集めた」

5月10日・経済面2

開発は妻・由美子さん(左)の一言で始まった

門徒と双方向で発信を

 《アプリの柱は「カレンダー」「門徒情報」「故人情報」の三つ。これらを集約し、マップなどの機能もスマートフォン一つで使える。クラウドを用い、パソコン・スマートフォンなどさまざまな端末から閲覧・編集・共有が可能となる。利用料金は月額980円からを予定。お試し利用ができる無料プランも用意する》

──目標はありますか。

 「価格を抑えている以上、多くの人に使ってほしい。コギトは『リリース後1年で千カ寺』を目標にしていると聞いた。ターゲットは若い世代の僧侶が中心になるだろう。ハードルが高いのは、現在の管理ツールからの移行だろう」

 「自分が欲しいから開発したいと考え、クラウドファンディングだけでは開発費が足りなかったが、コギトも『開発に取り組みたい領域』と賛同してくれた。出資していただいた人には、アプリで『スペシャルサンクス』として氏名を掲載するリターンも用意している」

──完成後の関わり方は。

 「サービス提供や保守管理はコギトが行う。私自身は認知度の向上などに協力したい。また、今回は活用できなかったアイデアなどもある。バージョンアップなどニーズの調査などに協力できればと考えている」

 「思いやアイデアだけで、これほど物事が進むのかと、妻と驚いている。資金や専門的な知識がなくても、多くの人に支えられ、開発が可能になった。オンラインサロンでさまざまな意見も聞ける。完成してもまだまだ欲しい機能はある」

 「寺院と門徒の接点ができるような機能も考えられる。コギトも、登録された門徒に情報を発信でき、寺院と連絡を取り合えるような双方向の発信も模索している。将来的には、しっかりと寺院と門徒がつながるツールになってほしい。どうしても寺院と関係を持つにはハードルが高くなるが、今の時代のツールを使うことで、寺院が地域の中心となる姿を実現したい」

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