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〈3〉チャプレンの必要性

※文化時報2021年2月8日号の掲載記事です。

 米国の病院には「チャプレン」と呼ばれる聖職者が常駐している。キリスト教の牧師が多いそうだが、イスラム教や仏教など他の宗教者もいるようだ。医療従事者とは違う立場で、患者やその家族に接するのが仕事だ。

 「なぜ私がこんな病気に苦しめられるのか?」医療者は病気の原因を医学的に説明してくれるだろう。でも、患者が知りたいのは「それがなぜ私なの?」ということかもしれない。医療者は、人間の力には限界があり、答えられない問いがたくさんあることを知っている。そこでチャプレンの出番となる。

 では、チャプレンならその問いに答えられるのか?という疑問が湧く。チャプレンは、おそらく直接的な答えを示すことはないだろう。受け入れ難い現実を嘆き悲しむ人々。チャプレンはじっと耳を傾け、時には聖書の一節を読み聞かせる。人々が嘆きや悲しみを受け入れていく時間を一緒に過ごしてくれる。チャプレンとはそんな存在だろうと思う。

 日本でもキリスト教系など一部の病院では、チャプレンが配置されている。ただ残念なことに、日本で暮らす多くの人にとっては、キリスト教と死生観がマッチしていないような気もする。それならばと、仏教僧侶がチャプレンのように病院へ配置されるケースも出てきた。ビハーラ僧と呼ばれる。

 筆者もビハーラ僧の養成講座を受けたことがある。キリスト教のチャプレンに交じって病院実習もこなした。そこで得た結論は、「米国のまねをすれば良いとは限らない」ということだった。

 日本では檀家制度が機能していた。寺と縁の深い人々も多い。世界医師会(WMA)の「患者の権利宣言(リスボン宣言)」には「聖職者の慰問を受けるか受けないかを決めるのは患者の権利」とうたわれている。

 僧侶が病床を訪れることを病院側が拒むことはできないと、医療者側から宣言しているのだ。僧侶の訪問を拒むとすれば、患者やその家族である。日本にチャプレンを普及させることを考える前に、寺と檀家の関係を今一度見つめ直す必要があるだろう。(三浦紀夫)

三浦紀夫(みうら・のりお)1965年生まれ。大阪府貝塚市出身。高校卒業後、一般企業を経て百貨店の仏事相談コーナーで10年間勤務。2009年に得度し、11年からビハーラ21理事・事務局長。上智大学グリーフケア研究所、花園大学文学部仏教学科で非常勤講師を務めている。真宗大谷派瑞興寺(大阪市平野区)衆徒。
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