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コロナを越えて⑰中高年向けPC教室 就労に一役

真宗大谷派乗円寺住職・株式会社歩あゆむ代表取締役社長 福田乗氏

※文化時報2021年6月21日号の掲載記事です。

 真宗大谷派乗円寺(金沢市)の福田乗住職(42)は、人材採用大手リクルートを退社後の2010年1月に起業した株式会社歩あゆむで、中高年の就労支援や高齢者の居場所となるパソコン教室を行う。「年配の人への就労支援は『上から目線』では難しい。一人一人の適性を見ながらチームで考えたい」と話し、住職と社長の二足の草鞋を履きこなしている。(編集委員 泉英明)

解決必要な社会課題

 《福田住職はリクルート時代の採用経験などを生かして起業した。ただ、中高年の就労支援は簡単ではなく、リクルートでも求人誌で作った中高年向けのページはほとんど機能せず、半年でなくなってしまったという。それでも解決が必要な社会課題として取り組む》

――起業のきっかけを教えてください。

 「リクルート北陸支社のゼネラルマネジャーなどを務めたが、10年にリーマンショックの影響で社員の半数をリストラせざるを得なくなった。自分で採用した人たちを解雇する以上、自分も会社にはいられないと退社した」

 「当時から中高年の人の話を聴くことが多く、就労は社会課題と感じていた。退社後、大谷派の女性僧侶で産業カウンセラーの三橋尚伸先生の講義を受けたことを機に、就労に関する相談とカウンセリングを本格的に手掛けようと起業した」

 「派遣会社以外で、中高年の就労支援をする企業は全国でも少ない。当初はリーマンショックの余波で、若い世代すら仕事がない状況だった。全国で中高年向けのビジネスを見て回り、パソコン教室に活気があることに気付いた。講師や仲間と共に悩む温かいコミュニティーだと感じた。そこで、中高年が頑張るための居場所として、『パソコン道場 樂』と『NPO法人シニア道場 樂』をつくった」

寺院内でも事業展開

――浄土真宗の教えは、事業にどう生きていますか。

 「浄土真宗は、自分の思い通りにいかない時でも寄り添ってくれる教え。その部分が中高年の思いと合致しやすい。企業から求められなくなり、思い通りにいかない時に教えは通じる。高齢者教育を行う金沢市中央公民館の高砂大学校では『仏様と考える これからの生き方・働き方』などの講題で話すこともある」

6月21日・経済面「仏教の考え方を交えながら講演を行う」

講演は仏教の考え方を交えながら行う

 「ほかにはハローワークで職業訓練を行っている。中高年職業訓練の就職率は当初20%程度だったが、80%まで上がった。受講者をひとくくりにするのではなく、一人一人と向き合いながら、チームとして方向性を示すようにしている」

 《土日は法務、平日の午前中は月参りをしながら、社業をこなす。創業当初は従業員が少なかったため、「葬儀が入ったらどうしよう」と心配しながら働いていたという》

――事業と寺院活動をどのように両立させていますか。

 「13年に住職に就任したが、寺院内に学びのスペース『普照庵』を作り、そこでも会社の事業を進めている。今は新型コロナウイルスの影響で難しいが、命を見つめる講座や、中高年の生きがいを考えるイベントなど、寺院という場を生かしたいと思っている。ただ、当初は『就労支援を入口に門徒さんが増えれば』とも考えていたが、今は違うと感じている」
 
「『NPO法人シニア道場 樂』では当初、健康講座や体操教室をやっていたが、今は仕事になるIT講座を運営している。NTTドコモなどでスマートフォン講座の講師として活躍している修了者もいる」

コロナ禍の情報弱者救う

 《「居場所づくり」でもあった「パソコン道場 樂」には変化が見え始めた。新型コロナウイルスワクチン接種の予約で必要に駆られた人たちの入会が増加したのだという》

――パソコン道場の現状は。

 「月謝を頂いている人が100人ほどいるが、インターネットを使いたいという要望が多い。一定の操作はできても、問い合わせ先が欲しくて入会する人もいる。最近はワクチン接種の予約をするための入会が増えている。『予約の電話を120回したがつながらない』と駆け込んできた人には、3時間かけて手ほどきし、予約にこぎ着けたこともあった」
 
 「道場では、体が動かなくなってもネットで買い物をする方法などを教える。また、スマートフォンの扱い方を知りたいとの需要も増えつつあり、携帯電話会社の高齢者向け講座で理解できなかった人たちが訪れる。できる人にとっては簡単であっても、ワードやエクセルよりも感覚で使う分、使い方を教えるのは難しい。IT弱者は確かにいると感じている」

6月21日・経済面「中高年の就労相談などを手掛ける」

中高年の就労相談などを手掛ける

――コロナ下での事業の見通しは。

 「中高年の就労支援は大変な状況にあり、特に今は50代の退職相談が増えている。大きな特徴は、サービス業や飲食業からの転職が多いこと。これまで採用されやすかった清掃業などでも、中高年に目が向かなくなっている」

 「金沢はコロナ前、北陸新幹線効果で観光需要が伸びていた。ホテルの建設ラッシュがあり、有効求人倍率は1.7倍ほどあった。それが今では0.9倍ぐらいまで下がっている。リーマンショックでは0.6倍ほどまで落ち込んだが、今はコロナ禍の支援策などで、企業がお金を借りて雇用を維持している側面がある。これからリーマンショック以上の状況になることを恐れている」

――寺院活動は、今後どうなるでしょうか。

 「これからの寺院は兼職が増えてくるはず。人口減少で、寺院の収入が一気に落ち込む時が来るのではないか。本当に必要とされていないと寺院護持は難しくなる」

 「講義などを通じて、若い世代から亡き人への思いを感じることが多い。お寺からは離れていても、精神的な興味はあるはずだ。今後は命に関わることを入り口にしたいと考えており、9月には助産師の講演なども計画している。命の話や亡き人を縁に、教えや人と出会ってほしい」

6月21日・経済面福田乗氏

 福田乗(ふくだ・じょう)1979(昭和54)年2月、金沢市生まれ。大谷大学卒業後、広告代理店を経てリクルート北陸支社でゼネラルマネジャーを務める。2010年1月に中高年の就労支援などを目指して株式会社歩を創業。「パソコン道場 樂」「NPO法人シニア道場 樂」などを手掛ける。
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