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【能登半島地震】青林寺、御便殿と復興目指す 和倉温泉の象徴

※文化時報2024年2月2日号の掲載記事です。

 最大震度7を観測した元日の能登半島地震では、観光客に人気のある和倉温泉(石川県七尾市)も被災した。源泉からお湯を引くパイプが破損するなどし、旅館は営業できない状態が続いている。写真映えする庭園が注目を集める曹洞宗青林寺(濱田晃瑞住職)も、本堂や山門に被害があったが、温泉街のシンボルとなっている客殿(御便殿=ごべんでん)はほぼ無事だった。地震発生から1日で1カ月。濱田住職らは前向きに復興を考えている。(松井里歩)

 老舗の旅館が並ぶ温泉街で、給水車が水を配っていた。現地に入った1月20日時点も温泉街は閑散としていた。

 和倉温泉は開湯1200年の歴史を持つ。平安後期の永承年間(1046~53年)に地殻変動で温泉が枯れ、一時は漁師町として栄えたこともあったが、再び海中から湧き出たという。江戸時代に加賀藩主、前田利長・利常らによって評判が高まった。

 温泉街が本格的に形成されていったのは明治時代。地域の発展の基盤としてお寺が必要になると考えられたことから、羽咋(はくい)市にある曹洞宗の古刹(こさつ)、永光寺(ようこうじ)の孤峰白巖大和尚が別院として青林寺を建立した。

 その近くに建てられた真宗大谷派の信行寺と合わせて、2カ寺が中心となって街並みが整っていった。特に青林寺は、全国で唯一の御便殿が残るお寺として知られている。

滞在2時間の名建築

 御便殿ができたきっかけは、大正天皇が皇太子(東宮)時代の1909(明治42)年に行った北陸行啓。生来病弱だったため、金沢から富山への道中の休憩場所に選ばれたのが、名湯として知られた和倉温泉だった。

倒壊を逃れた御便殿。温泉街のシンボルとして、復興への期待がかかる

 普通、天皇や皇族方の行啓にはその土地の藩主の館でもてなしが行われるが、和倉には武家がいないことから建物がない。そこで街の人々は、東宮が訪れる2時間のために、立派な御便殿を造ったという。

 御便殿は木造平屋瓦葺(ぶ)きで、建築面積159平方メートル。随行者らの控室としての供奉(ぐぶ)殿も隣に建設された。

 本来御便殿は利用後に取り壊されてしまうものだが、その時一緒に訪れた東宮主事の錦小路在明が建築をほめ、永久に残すべきだと言った記録が翌日の北國新聞に残っている。

 以前は七尾湾を一望できる白崎山の中腹にあったが、戦後に御便殿を青林寺客殿、供奉殿を信行寺書院として、それぞれの寺院に移築。地域に根差した歴史的な皇室建築であることが評価され、2017(平成29)年には国の登録有形文化財に登録された。

今度こそ、いつかのため

 濱田住職によれば、今回の地震では、本堂の鴨居が落ちてきたり、雨漏りがしたりしたものの、御便殿を含めて伽藍(がらん)自体はほぼ無事だったという。

本堂は雨漏りがしているという

 御便殿は現在、副住職の友人が贈ってくれた支援物資を保管しておく拠点として使用している。

 地元の七尾市で建築の歴史などを研究している福井工業大学の市川秀和教授は「年末に住職や市長とも集まり、これから御便殿を観光資源として盛り上げていこうと言っていた矢先の地震だった」と話す。能登半島地震については、天皇皇后両陛下が時機を見て能登にお見舞いしたいとの思いを持っている―と側近が明らかにしたとの報道もある。

 大正天皇は即位後の再訪はかなわなかったが、温泉街の人々は御便殿を大切に守り抜いてきた。市川教授は「今度こそ、天皇陛下にお立ち寄りいただきたい」と明るい表情を見せた。

 「市川先生のお力を借りて、前に進みたい。境内の復旧はまだまだこれから。できることから、やっていくしかない」

 濱田住職らは、いつか天皇陛下が御便殿に足を運ぶ日を夢見て、復興への一歩を踏み出している。

御便殿について話す市川教授(左)と濱田住職

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