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〈9〉難関国立大学を出るよりも

※文化時報2021年5月10日号の掲載記事です。

 京都に花園大学という臨済宗妙心寺派の宗門校がある。読者諸氏には卒業生もおられるだろう。筆者は週1回「臨床死生学論」の講義を担当している。医療福祉現場で起きた事例を用いて、学生の死生観を明らかにしていく。

 「死」という字が入った科目名は目に留まりやすいそうだ。学生が教えてくれた。「他の大学ではない授業だろうと期待している」という、うれしい声も届く。仏教系大学でありながら「仏教と医療・福祉のつながりが分からない」という学生も多い。

 仏教には「四門出遊」の伝説がある。出家前のお釈迦様が城の門から外に出て、老人、病人、死人と出会い「将来の私の姿」だと気付いて怖くなる。生まれてきた意味を見失ったのかもしれない。そして、最後に修行者に出会い、その神々しい姿に感銘を受ける。それがきっかけとなり修行の旅に出るのである。

 この伝説が仏教の本質をよく表していることを学生に伝える。仏教とは、思い通りにならない老病死を乗り越えていく教えとも言える。そこが理解できないと、せっかくの環境で学んでいる意義が薄れてしまうのだ。

 キャンパス内は、宗門校らしく教職員をはじめ学生にも剃髪の作務衣姿が見られる。こんな風景は他の大学ではなかなかない。在学中は分からなくても、卒業してから「花園大学で学んで良かった」と思えるようになってほしい。

 筆者は授業の中で「仏教的視点を養うことが強みになる」と言い続けてきた。今年度からそれを、より大きな声で言えるようになった。今年4月にソフトバンクの代表取締役社長執行役員兼CEOに就任した宮川潤一氏は、花園大学仏教学科の卒業生である。ソフトバンクには、おそらく東大、京大などの出身者がゴロゴロいるのだろう。その中で経営トップに花園大学の卒業生が抜擢されたのだ。

 世の中は絶えず変化している。諸行無常である。東大や京大などの難関国立大学の卒業生が安定した人生を送れる時代ではなくなった。宮川氏に続く人材が次々に現れることを夢見て、医療福祉現場でいかに仏教が必要とされているかを、これからも語っていこうと思う。(三浦紀夫)

 三浦紀夫(みうら・のりお) 1965年生まれ。大阪府貝塚市出身。高校卒業後、一般企業を経て百貨店の仏事相談コーナーで10年間勤務。2009年に得度し、11年からビハーラ21理事・事務局長。上智大学グリーフケア研究所、花園大学文学部仏教学科で非常勤講師を務めている。真宗大谷派瑞興寺(大阪市平野区)衆徒。
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