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コロナを越えて⑬宇宙寺院は「来てくれるお寺」

テラスペース株式会社社長・浄天院劫蘊寺責任総代 北川貞大氏

※文化時報2021年3月15日号の掲載記事を再構成しました。

 真言宗醍醐派総本山醍醐寺とともに宇宙寺院の建立を目指すテラスペース株式会社(京都市左京区)の北川貞大社長(52)は「寺院建立ありきで人工衛星を打ち上げようと考えてきた」と語る。目指すのは、人々が「行くお寺」ではなく、人々のいる所に「来てくれるお寺」。背景には、宗教性の薄れた日本人がビジネスの世界で海外と渡り合っていけるのか、という強い危機感がある。(主筆 小野木康雄)

北川貞大(きたがわ・さだひろ) 1968年4月生まれ。京都府京田辺市出身。同志社大学文学部文化学科心理学専攻(現・心理学部)卒業。98年、実家のガス設備会社でプロバイダー事業を始め、2001年に代表取締役に就任。3年で年商1億円に到達してガス事業から撤退し、02年に社名をカゴヤ・ジャパン株式会社に変更した。京都大学経営管理大学院在学中の20年2月、テラスペース株式会社を創業した。

場所に縛られないお寺

 《北川社長は、インターネットデータセンターなどを運営するカゴヤ・ジャパン株式会社(京都市中京区)の経営トップ。新たなビジネスとして可能性を見いだしたのが、宇宙開発事業だった》

――宇宙開発に関心を持ったきっかけは。

 「新規事業を立ち上げるために経営学を基礎から勉強しようと、2018年に京都大学経営管理大学院に入学しました。経営学修士(MBA)を取得するいわゆるビジネススクールですが、他学部の講義も受講できたので、興味のあった天文学や宇宙工学の授業に出ていました」

 「そうするうち、人間が行っているのになぜ宇宙にはお寺がないのか、と考えるようになり、宇宙寺院の建立を志して『宗教の宇宙進出への支援活動』を研究テーマに選びました」

――総本山醍醐寺とはどのようにつながったのですか。

 「宗教者でもない私が一人で勝手にやっても、お寺はできません。そこで、知り合いだった総本山醍醐寺の仲田順英執行に研究発表用の事業計画を見せ、プレゼンテーションをしました。日本人の宗教性が失われている今こそ、場所に縛られないお寺を宇宙に作りたい、と訴えました」

 「仲田執行からは『こういうことがしたかったんですよ』と言っていただき、その場でやることが決まった。19 年6月ごろのことです。その後、研究の中間発表を7月21日に行ったのですが、くしくもアポロ11号が月面着陸してから日本時間で50年という節目の日でした」

宗教へのタブー視を実感

 《昨年2月に人工衛星ベンチャーのテラスペース株式会社を創業。今年2月に宇宙寺院「浄天院劫ごう蘊うん寺じ 」の建立に向けた実行委員会の発足を発表した》

――発表までに時間をかけて準備されましたね。

 「実は、人工衛星の製作は当初、別の会社に協力してもらうつもりでした。ところが『宗教に関係するプロジェクトには参加できない』と断られてしまった。資金調達にクラウドファンディングの活用を検討した際には『そのような宗教活動には使えない』と言われました。宗教へのタブー視を肌で感じました」

 「宗教だからダメだと言われないようにするには、誰でも使える安い人工衛星を、自分たちで作ればいい。そこで技術者を採用し、和歌山大学の秋山演亮教授らに技術顧問に入ってもらいました。国の人工衛星は最高の材質で特注部品を使いますが、ホームセンターで売られているような既製品で代用できるなら、それを使おうと考えています」

 《製作する人工衛星は、三辺が10㌢×20㌢×30㌢の超小型。内部に大日如来や曼荼羅(まんだら)をまつる。オフィスビルの一室に空気清浄度を高めたクリーンブースを設け、4月にも組み立てを始める》

210211宇宙寺院イメージ

宇宙寺院のイメージ図(テラスペース株式会社提供)

――発表後の反響はどうですか。

 「宇宙寺院に寄せられる祈願が、海外を含めて140件ほど届きました。物珍しさや興味本位もあるのでしょうが、新型コロナウイルス感染拡大で不安を抱えた人々から、宗教や国籍の違いを超えて祈りを託していただけたのは、一つの成功だと思っています」

 「今後は英語と中国語のホームページを作るとともに、祈願の内容を詳しく聞き取り、記事の形で公開したい。お預かりするだけでなく、共有できれば、総本山醍醐寺の仲田順和座主が提唱しておられる『国境なき祈り』につながります」

仏教衰退はビジネスにも影響

 《プロテスタント系の同志社香里中学・高校と同志社大学で学んだ。聖書や礼拝に親しみ、他の宗教にも関心の幅を広げてきた》

――宗教界の現状を、どのように見ておられますか。

 「仏教寺院の経営悪化は当然だと思います。檀家制度は、生まれてから死ぬまで先祖代々と同じ土地に住み続けるなら成り立ちます。しかし、今はそんな世の中ではない上に、キリスト教と違って人々が転居先の地域のお寺に通わないから、仏教離れが起きます」

 「深刻なのは、日本のビジネスにも影響が出ていることです。日本にスティーブ・ジョブズのような起業家が現れないのは、学校教育や政治のせいだと言う人もいますが、私は日本人の宗教性が希薄になったからだと考えています」

――興味深いですね。なぜそう考えるのですか。

 「例えば米国には、法律よりも大切な正義があればそちらを優先していい、という考え方が根付いています。人々の役に立つサービスなら、法律違反を問うよりも展開すべきだと、周囲が考えてくれる。だからイノベーション(技術革新)が起きます。そして、正義かどうかを判断する基になるのが、キリスト教精神の息づくアメリカ独立宣言なのです」

 「一方で今の日本には、法律以上に大切なものがありません。戦後、既存の宗教とのつながりを失い、タブー視するようになってしまったからです」

――宇宙寺院の建立は、そうした宗教とのつながりを回復する取り組みとも言えるのでしょうか。

 「そうですね。宇宙寺院は、宗教を身近に感じてもらうことに役立つと思います。宇宙と聞くと遠いというイメージを持たれるかもしれませんが、打ち上げ後に周回する衛星軌道は高度400~500㌔。東京―京都間ぐらいの距離しかありません。故郷の菩提寺が宇宙に持っている別院だと考えれば、よりつながりを感じられると思います」

 「宗教・宗派の垣根なく使ってもらえるお寺を目指しています。さまざまな宗派や寺院の方々にご協力やご意見をいただけると、大変ありがたいです」

210315経済面テラスペース北川社長サブ

総本山醍醐寺で営まれた宇宙法要後、仲田順英執行とともに記者団の質問に答えた=2月8日
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