〈32〉「親なきあと」の現実㊦
※文化時報2022年5月17日号の掲載記事です。
父親を亡くして一人残された知的障害のある息子さんの自宅で、満中陰に待っていると、葬儀社の担当者が来た。「お父さまの遺産相続のお手伝いに、司法書士を紹介しました」という。
その司法書士に電話して確認すると、「お父さまの預金通帳や印鑑、戸籍謄本などの書類をお預かりしていますが、社会福祉協議会からの指示がないのでそのままです」とのこと。社会福祉協議会に連絡してみると「金銭管理に関するご相談を受けましたが、その後ご連絡がありません」と言われた。
要は、それぞれ自身の職域から出ないように「お見合い」をしていたのだった。まさに「縦割り」の弊害であろう。
満中陰以降、息子さんは毎日のように筆者に電話をしてくるようになった。一人で心細いのだろう。知的障害があるので自分のことでもなかなか決められない。逆に誰かが「こうしなさい」と言うと素直に従ってしまう。悪い商いをする者にとっては格好の「獲物」になってしまう。
筆者はすぐに法人後見を専門にしているNPO法人障がい者・高齢者市民後見STEPに相談した。代表の竹村哲也氏は、「文化時報 福祉仏教入門講座」の講師でもある。必要な書類を整えてもらい、本人申し立ての準備を始めた。
息子さんは、納骨の心配をしていた。聞けば菩提寺に母親の遺骨もあるようだ。
もちろん、納骨がスムーズに行われるようにお手伝いはする。しかし、遺骨やお寺に渡る金銭に理解のない弁護士などが後見人に指名されたりすると、スムーズにいかない可能性もある。「裁判所が許可しないでしょうね」を決まり文句にして、後見人の価値観を押し付けてくるのがよくある話なのだ。
この息子さんの場合、そうはならないように手を打っていくが、最悪の場合は納骨前に菩提寺との縁を切られてしまうこともあり得る。お寺は檀家さんにもっと関心を向けてほしいと願う。(三浦紀夫)