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〈1〉 今年を「福祉仏教元年」に

 ※文化時報2021年1月11日号の掲載記事です。

 日本の市民活動史では、1995(平成7)年を「ボランティア元年」としている。阪神・淡路大震災のあった年だ。

 それまでボランティアとは一部の人が行う特殊なものだと認識されていた。ところが震災後、自らの意思で被災地へ向かう市民が大勢いた。わが国でボランティアが市民権を得たのがこの年だったということだろう。

 その流れから3年後、特定非営利活動促進法(NPO法)が制定され、現在5万を超えるNPO法人が全国で市民活動を展開している。

 「ボランティア元年」という言葉は、大学で福祉を学ぶ学生にはよく知られている。もう一つよく知られているのが、聖徳太子が建立したとされる四天王寺を発祥とする「四箇院の制」である。これを「わが国の福祉の始まり」と教えられている。

 敬田院は、本尊をまつり仏教を学ぶところ。療病院は、病気やけがを治療するところ。施薬院は、薬草を栽培し処方するところ。悲田院は、身寄りがない高齢者や孤児が飢渇しないよう保護するところ。この四つの院を設置したとされる。大学等で福祉を学んだ学生は「福祉の始まりはお寺から」とインプットされて社会に出る。

 大学で学んだことが社会で通用しないことに面食らうのは、福祉に限った話ではない。わが国の福祉の始まりだったお寺は、現代では福祉とは無縁の存在となっている。福祉は、行政や一部の特殊な人が取り組むものと考えられている。仏教に関わる者として、とても寂しい気持ちになる。

 2020年はコロナ一色で終わった。医療や福祉の現場は疲弊しているという。人間の「限界」を嫌というほど思い知らされただろう。そんなご時世だからこそ、お寺は苦しむ人々の「心のよりどころ」を示す役割を果たしたい。

 社会不安が広がり、私たちはいつ終わるか分からないトンネルに迷い込んでしまった。お寺が、苦しむ人々と接点を持つ機会がやってきたとも考えられる。後に「福祉仏教元年」と呼ばれるような2021年になることを願う。(三浦紀夫)

三浦紀夫(みうら・のりお)1965年生まれ。大阪府貝塚市出身。高校卒業後、一般企業を経て百貨店の仏事相談コーナーで10年間勤務。2009年に得度し、11年からビハーラ21理事・事務局長。上智大学グリーフケア研究所、花園大学文学部仏教学科で非常勤講師を務めている。真宗大谷派瑞興寺(大阪市平野区)衆徒。
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