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〈11〉介護事業所のお仏壇

※文化時報2021年6月14日号の掲載記事です。

 介護事業所にお仏壇が安置されることが少しずつ増えてきた。大阪市生野区にある「宅老所あおぞら」もその一つ。宅老所と名付けられているが、実は通所介護施設(デイサービス)である。

 代表の魚本民子さんは、全く畑違いの業種から介護事業の世界に飛び込んできた。「何も知りません」と素直に頭を下げると、事業所開設にいろいろな人が協力してくれたそうだ。

 開設当初、身寄りがないというある高齢女性が通っていた。その高齢女性が頼れる人といえば、魚本さんだけになっていた。亡くなった時「知らんぷりはできない」と思った。でも、親族でもない人のお葬式をどうしたらいいのか戸惑った。

 そんな時、近くのお寺の住職が、事情を知った上で本堂でお葬式をしてくれた。とてもありがたく思ったそうだ。

 お葬式を終えた後、その女性の写真を施設内に飾っていた。すると、他の利用者さんから「お仏壇はないの?」と言われた。魚本さんは「ここまでしたんだから…」と小さなお仏壇を購入した。

 その後、お葬式を出すことはないが、利用者さんの何人かは亡くなっていく。ご家族の了解を得て、その人たちの写真もお仏壇近くに飾るようになった。

福祉仏教の現場から⑪写真

「宅老所あおぞら」に安置されている小さなお仏壇。右が魚本民子さん

 「自宅に近いような空間をつくりたかった」という思いは、利用者さんと共に実現していった。高齢者にとってお仏壇が家にあるのは当たり前。自分が命終(みょうじゅう)した後も、家族のように扱ってくれるデイサービスは、利用者さんにとって、なくてはならない「居場所」となっているようだ。

 魚本さんには、偶然近くのお寺が協力してくれた。しかし、そんなお寺に巡り合えていない介護事業所も多いだろう。少子高齢社会がますます顕著になっていく。身寄りがない高齢者も増えていくだろう。家族のように看取り、弔ってあげたいと考える介護事業所もたくさんあるに違いない。そこに協力してくれるお寺があれば、介護事業所も利用者さんも安心できるようになると思う。

 介護事業所とお寺をつなぐ「マッチングアプリ」が必要なのかもしれない。宗教専門新聞社の出番かな、と思う。(三浦紀夫)

 三浦紀夫(みうら・のりお) 1965年生まれ。大阪府貝塚市出身。高校卒業後、一般企業を経て百貨店の仏事相談コーナーで10年間勤務。2009年に得度し、11年からビハーラ21理事・事務局長。上智大学グリーフケア研究所、花園大学文学部仏教学科で非常勤講師を務めている。真宗大谷派瑞興寺(大阪市平野区)衆徒。
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