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〈14〉医療者の二刀流

※文化時報2021年8月2日号の掲載記事です。

 近頃「二刀流」という言葉がよく聞かれる。ピークは7月14日の午前だったかも。米大リーグのオールスター戦が日本でもテレビ中継された。大谷翔平選手が「1番・指名打者」と「投手」の2ポジションで先発メンバーに名を連ねた。日本人初どころか、米大リーグ史上初だそうだ。

 「オールスター」というビッグイベントの主役中の主役が日本人。それを素直に認める多くの米国人。新型コロナウイルス感染症の世界的流行という暗い世情だけに、この明るいニュースは大々的に報道された。

 かねて本紙でも「二足の草鞋」が時々話題になっている。医療職と僧侶を兼任できるかという話である。

 僧籍を持つ医師や看護師はたくさんいるだろう。それは素晴らしいことだと思う。「老病死」の現場で命と向き合う医療者が、仏教に救いを求めるのはごく自然なことだろう。

 しかし、医療職として関わった患者の葬儀で、白衣を黒衣に着替えて導師を勤めることが可能なのだろうか?

 挑戦しようとしている医師がいる。自分が死亡診断書を書いた患者の葬儀で導師を勤めようと考えている。伝統仏教教団で得度した後、現在は通信課程で学んでいる。こちらの「二刀流」も実現が近いかもしれない。

 先日、大阪府下のある大学で講義をしてきた。看護学科の学生約100人。ほとんどが臨床で看護師として働くことを希望している。看護師の国家試験をパスするにはかなりの勉強が必要だろう。そんな学生たちに僧侶が講義するのだ。担当教員は「この教壇にお坊様がお立ちになるのは初めてのこと」と持ち上げてくれた。

 「二刀流」がいいのか、「看仏連携」がいいのか。いずれにしても医療界と仏教界の距離は急接近している。いろいろチャレンジする人が増えるのは喜ばしい。

 ただ、形だけ整えるのではなく、中身も伴っていてほしいと心より願う。僧侶の本分は何だろう? 教団によって考えの違いはあるだろうが、「老病死」に直面する人々に心の安らぎを届ける、あるいは安らぎを願うことは、忘れたくない。それさえ忘れなければ、形は時代によって変化するのが道理だろう。(三浦紀夫)

 三浦紀夫(みうら・のりお)1965年生まれ。大阪府貝塚市出身。高校卒業後、一般企業を経て百貨店の仏事相談コーナーで10年間勤務。2009年に得度し、11年からビハーラ21理事・事務局長。上智大学グリーフケア研究所、花園大学文学部仏教学科で非常勤講師を務めている。真宗大谷派瑞興寺(大阪市平野区)衆徒。
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