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〈23〉出所者の孤立防ぐ

※文化時報2021年12月20号の掲載記事です。

 先日、ある男性が刑期を終えて出所してきた。服役中に働いて得た「作業賞与金」が数千円とわずかな手荷物。それが彼の全財産である。これで社会に放り出されて、どうやって生きていけばいいのだろう。

 2006年1月、JR下関駅の東口駅舎が全焼する放火事件が起きた。犯人は前月に刑務所を出所したばかりの74歳の男性だった。

 男性は出所しても行く当てもなく、北九州市の区役所へ生活保護の申請に訪れた。しかし、住所がないことを理由に追い返されたそうだ。その後、隣接する下関駅まで移動してきたが、暖を取るためにたき火をしたのが燃え広がったとされている。

 北九州市でホームレス支援などを行っている奥田知志牧師は、このニュースを聞き「私が出会っていればこんな事件は起きなかったかもしれない」と心を痛め、裁判中から男性の支援に関わるようになった。そして、男性が服役中も手紙を送り「今度は迎えに行くから」と励まし続けた。

 実は、筆者はこの話のまねをしている。年齢こそ違うが、12月に出所し行く当てのない男性を孤立させてはいけないと思った。だから、刑務所まで迎えに行った。

 真っ先にすることは生活保護の申請である。北九州市の例から分かるように、生活保護の申請に役所へ行っても、その行政区に住民票がないと追い返される。厳密に言うと、住所がなくても申請を受け付ける義務は行政にあるのだが、実務上では却下されるリスクがある。だから、先に「住民登録」をしておくのが大事となる。

 それとポイントがもう一つある。刑務所に「在所」していたという証明書を刑務所で発行してもらっておくことだ。証明書には使用目的として「生活保護申請のため」と記載してもらう。住民票があって刑務所が発行した証明書がある。これで申請が却下されることはまずない。

 ただし、これは本人だけではできない。手助けする者がいる。

 刑務所から出て行く当てもなく、所持金を使い果たすとまた刑務所に戻る。これを繰り返している人が少なくない。宗教者として見て見ぬふりはできない。(三浦紀夫)

 三浦紀夫(みうら・のりお)1965年生まれ。大阪府貝塚市出身。高校卒業後、一般企業を経て百貨店の仏事相談コーナーで10年間勤務。2009年に得度し、11年からビハーラ21理事・事務局長。21年には一般財団法人安住荘の代表理事に就任した。上智大学グリーフケア研究所、花園大学文学部仏教学科で非常勤講師を務めている。真宗大谷派瑞興寺(大阪市平野区)衆徒。
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