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出生前診断は危険だ

※文化時報2022年4月15日号に掲載された社説です。

 妊婦の血液から胎児の染色体異常を調べる新型出生前診断(NIPT)について、日本医学会の運営委員会は、施設の数を増やし、希望する妊婦全員が検査を受けられるようにする新たな指針を決めた。近く適用が始まるが、命の選別を助長する施策であり、宗教界は断固として反対すべきだ。

 NIPTは、DNA検査に基づき、ダウン症などに関連する三つの染色体を調べる。

 これまでは、原則35歳以上の妊婦や超音波検査でリスクが判明した妊婦を対象としてきたが、今後は「遺伝カウンセリング」さえ受ければ、若い妊婦でも受診できるようになる。また、日本医学会が認める施設の基準を緩和するほか、母子健康手帳などを交付する際に自治体の窓口でチラシを配り、妊婦全員にNIPTについて周知するという。

 NIPTは、採血だけで簡単に検査できるため、専門医のいない美容クリニックなどが参入していることが問題になっている。適切な説明がなかったり、結果が出た後のフォローが不十分だったりする例が相次いでいることから、日本医学会は正しい情報提供による〝意思決定支援〟が必要として、今回の方針転換に至った。

 新指針は、染色体疾患のある人々の排除に利用される懸念についても触れてはいるが、NIPTの普及を促進させること自体が倫理的に許されるのかどうかという視点が決定的に欠けている。命の尊厳を軽視していると言わざるを得ない。

 東京新聞は3月22~24日付で「NIPTは今 新出生前診断を考える」という意欲的な連載を行った。この中で、昨年3月までの8年間に「陽性」が確定した1397人中、約90%に当たる1261人が人工妊娠中絶を選んでいたとする「NIPTコンソーシアム」の調査結果を報じた。

 障害や病気の可能性があることを理由に胎児の生命を絶つのは、命の選別であり、今を生きる障害者への差別につながる。そのような〝意思決定支援〟は、優生思想を許容することに等しいのではないか。

 もちろん、宗教者にとっては、反対するだけでは不十分だ。事情があってNIPTを受診した妊婦に寄り添うこともまた、取るべき行動である。

 「陽性」と診断されて中絶を選んだ女性。第1子にダウン症の子が生まれ、第2子を妊娠中にNIPTを受けた母親。「陰性」と確認されたのに出産後、別の染色体異常が見つかった子ども―。東京新聞の連載には、さまざまな当事者の苦悩がつづられている。

 どのような思いで検査を受けるに至ったのか。結果を知り、どんな決断をしたのか。当事者に必要なのは、隣にいてくれる人がいて、どんな選択をも否定されないという伴走型支援である。

 そして何よりも、私たちは障害や病気のある子が生まれても、親子が幸福に生きていける社会をつくらなければならない。一連の問題を巡って宗教者が果たせることは、多岐にわたると言えるだろう。

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