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〈21〉耳が遠くなってきた

※文化時報2021年11月22日号の掲載記事です。

 あるお宅で一周忌法要があった。故人の奥さんは90歳近い。「気持ちは若いけど、体が言うことを聞いてくれんのですわ」と笑っていた。「お耳は衰えていませんなあ」と申し上げると「そうなの。よく聞こえていますよ」と。

 後に次男さんからメールがきた。「お坊さんに耳が若いと褒めてもらって喜んでいました」とあったのでホッコリとした。続きには「それでも、今朝は法要があることを忘れていたんですよ」という内容があった。次男さんにとっては、お母さんの耳がよく聞こえていることが当たり前で、法要を忘れていたことは嘆かわしいのだろう。

 別のお宅には、こんな高齢女性がいる。正信偈を一緒にお勤めすると、耳が遠いので徐々にズレてくる。調声しているのはこちらだが、もちろん耳を澄ませて高齢女性に合わせる。大きな声を出してくれるのがうれしくもあり、かわいくもある。

 筆者は「福祉仏教」を勧めているが、そんなに難しいものではない。高齢の人や障害を抱える人と一緒に手を合わせる。そして、こちらが気付かないことをいろいろと教えてもらう。

 読者の皆さんは、車椅子を押したことがあるだろうか?簡単なように見えるが、なかなかコツがいる。下手な押し方をすると怖がられる。機会があれば、一度車椅子に乗って誰かに押してもらうといいだろう。街に繰り出すと、今まで見えなかった景色に遭遇すること間違いなし。

 実は、筆者はテレビドラマを字幕付きで見ている。セリフが聞き取りにくくなってきたからだ。「お耳は衰えていませんなあ」と申し上げたのは、褒めたのではなくうらやましく思っただけだった。

 耳が遠くなってきて気が付いたことがある。声がやたらと大きくなることだ。携帯電話での通話など周りに丸聞こえである。プライバシーの保護を求められるような内容のときは、車の中へ飛び込む。外に声が漏れていないか確かめたことはないが、いろいろ苦労が出てきた。(三浦紀夫)

 三浦紀夫(みうら・のりお)1965年生まれ。大阪府貝塚市出身。高校卒業後、一般企業を経て百貨店の仏事相談コーナーで10年間勤務。2009年に得度し、11年からビハーラ21理事・事務局長。上智大学グリーフケア研究所、花園大学文学部仏教学科で非常勤講師を務めている。真宗大谷派瑞興寺(大阪市平野区)衆徒。
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