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Graduate Fashion Week International 2024 PORTFOLIO AWARD 藤井安寿星

2024年6月にイギリスのロンドンで開催されたファッション系大学の卒業イベント「Graduate Fashion Week 2024」のインターナショナル部門で、文化服装学院ファッション高度専門士科卒業生、藤井安寿星(あずさ)さんがポートフォリオアワードを受賞しました。受賞した藤井さんのポートフォリオを全解説!

ーポートフォリオアワードの受賞おめでとうございます! 藤井さんは今年2024年3月に卒業して、今回のイベントにデジタルポーフォリオで参加しました。まず、卒業コレクションのテーマを教えてください。

ひとつの区切りとしての卒業コレクションではあるものの、むしろこれからプロとして始まる序章として「PROLOGUE(プロローグ)」というテーマにしました。1体ごとにタイトルをつけて、自分が今まで自分が受けてきた刺激や経験をもとにメンズ6体、ウィメンズ2体を制作しました。

ー今回受賞したのはポートフォリオの賞ということで、GFWのウェブサイトに掲載されているポートフォリオを解説してもらいながら見ていこうと思います。

1体目と2体目は「HOMESEEKER(ホームシーカー)」、家を探す少年のイメージです。自分は生まれも育ちもばらばらの国で、地元や故郷のような場所がないと思っていて、ファッションを通して自分の居場所を作れたらと思い、このタイトルを付けました。

家を探すとなった時に、海や空などの広い場所を思い描きました。全体的に青っぽいトーンなのはそこから。また、家族も居場所だと思うので、お父さんが運転している写真や、自分が生まれたマレーシアの写真、自分が好きなバスキアの絵だったり、ラフ・シモンズやエディ・スリマンのコレクションも入っています。

1体目はコートがメインで、内側のベストの襟から繋がっているデザインです。今まで住んできた場所は違うけど、それが全部繋がって今の自分になっていると考えたときに、自然とこういうデザインになりました。覆いかぶさるような、自分を包み込んでくれる家のようなシルエットです。

スタイリングには共通して、ブローチを着けています。ここでは、マレーシアのソンケットという生地の幾何学的なモチーフを拡大して、フェルトとレザーをレジンで固めて作りました。これをひとつ胸元に置くことによって自分の生まれた場所を表現しています。

これは太いケーブル編みのニットで、これもまた包み込むみたいな、連続性があるデザインにして、マフラーがぐるっと繋がって袖になっています。

胸元のブローチは親の結婚写真です。わざとくしゃくしゃにしてレザーの上に貼り、レジンで固めました。たまたまレジンが染みてしまったんですけど、マレーシアの洪水で水没してしまったアルバムの雰囲気に近くて、結果的にいいものができました。

次は「BOYS’ ADVENTURE(ボーイズ アドベンチャー)」。色々な場所を旅行した経験から、その時のわくわくしていた気持ちや、引っ越す時の、不安もありつつ、でも楽しみでもあったりする、少年のような心。エネルギッシュさとノスタルジーを感じさせるイメージです。

3体目はウィメンズで、ネックライン深めで着丈の短いMA‐1。袖のシガレットポケットを変形させています。

4体目はショートパンツにロングシャツを合わせました。丈のアンバランスさは、小さい頃にすぐ成長するからと大きい服を買ってもらっていたイメージで、袖口は幼さをリボンで表現してアクセントに。パンツにはセンタープレスとワンタックを入れて、子どもっぽくなりすぎないようにしました。生地は強度と上品さのあるシルクとポリエステルのギャバです。

私立の小学生の制服が好きで、そこから影響を受けてこういうスタイリングにしました。ウィメンズのMA-1と合わせています。ソックスも学校の授業で編んだものです。

これは「SCENT OF PLAYGROUND(遊び場の香り)」。高専4年生になる前の春休みに久しぶりにマレーシアに帰った時の、おじいちゃんの家に行って感じた懐かしさ。小学生の頃に毎年遊びに行っていた場所なんです。おじいちゃんの家の庭とか壁、草木、日本では見ないような色味。こういうのを服にできないかなって。

バサッと着れるオーバーなコートで、ナチュラルなベージュとか、土のような色味。デザインポイントは、比翼が見えるところ、巾着のポケット、ベルトがロープになっているところ。どこか野暮ったさを取り入れたくて。でも素材はカシミアで、袖はラムレザーを使って贅沢に仕上げました。

パンツはポケットがいっぱいついたカーゴパンツ。走り回ったり、面白いものを見つけたらすぐポケットに入れてしまえるようなイメージで。子どもの頃は全てが新鮮に見えて、植物とか石とか何でも拾ったりしていたんです。

コートとパンツがメインなんですけど、都会的なスタイリングにして、中に黒いテーラードジャケットを差して締まるように。差し色のニットタイは2年生の時に自分で編んだもの。作りにこだわったのでお気に入りのルックです。

中高生の頃にバスケと出会って、そこから派生してヒップホップに出会うんですが、その初期に聴いた「THE WORLD IS YOURS(ザ ワールド イズ ユアーズ)」という曲がすごくかっこよかった。そういうカルチャーから何か1体作りたいなと。

90年代のアメリカのヒップホップカルチャーのイメージで、すごく太いスウェットパンツと、切り替えを入れたジップアップのジャケットをデザインしました。ジャケットは全部わざと角(かど)がある切り替えにしたんです。このカルチャーに出会った頃の自分は反抗期で尖っていて、人と違うことをしたいっていう当時の自分にもマッチするし、特徴的なバスキアの髪型からもインスピレーションを受けています。

ブローチは2つ付けて、ひとつはバスキアのシルエット、もうひとつは自分で描いた少年のキャラクターの絵。キャップには、自分のイニシャルである「A」と「F」をスラッシュで区切り、最高評価の「A」と最低評価の「F」をかけた言葉遊びにもなっています。

最後が「THE SOLO SESSION(ソロ セッション)」。いっとき、地元がないことや、自分って何なんだろう?という漠然とした悩みを抱えた時期がありました。その頃に出会ったのがビル・エヴァンスというジャズピアニストで、いつもブラックスーツを着て、クラシックを混ぜたような、美しいけど儚げなピアノを弾いているんです。自分の中の深く暗いところに響く、その人の演奏に感銘を受けてしまって。

苦労に苦労を重ねても自分の見せたくないところを覆い隠すような感じで、はたから見たらレイヤードして綺麗だけど、自分の心情的には隠したい部分があるというような。全部統一したブラックウールで作りました。

スタイリングは、外側からベスト、コート、その下にテーラードジャケットを着て、パンツも折りたたんでレイヤードしています。

一見テーマが全部違うので、ばらばらに聞こえるかもしれませんが、自分の中ではストーリー性があるコレクションに仕上がったと思っています。

ーポートフォリオ自体の制作で、工夫したところはありますか?

コラージュの部分は、紙を切って、貼って、それをスキャンしてページを作っています。その方がやりがいもあるし、手を動かしながら考えられるし、配置とか考えるのがすごく楽しい。自分の筆跡も残りますし、個性とか、らしさとか、わざとビリビリに破いたり、生地を貼り付けたり。クラフトマンシップとまでは言いませんが、全部デジタルで配置してというのも味気ないと思ってしまいます。そこはこだわったところですね。

ー文化服装学院を選んだ理由は?

高校の時は理系のコースで、このままエンジニアとかになるのかなと思っていたんです。でも面白くもないし、好きでもない。たまたま適職診断テストみたいなのを受けたら、「あなたはファッションが向いています」と出てきて、すごく腑に落ちて、これだ!と。服を作ったこともなければ、ミシンを踏んだこともありませんでしたが、高3から学校を探し始め、オープンキャンパスに来て、BUNKAに入学を決めました。課題は大変でしたが、辞めたいとか、つらいとか、嫌になったことはないです。服がすごく好きなので。

ーファッション高度専門士科での4年間はどうでしたか?

あっという間でした。僕はコロナのドンピシャ世代なので、2年生の前半くらいまではオンライン授業がほとんどで、クラスにも友達がいませんでした。でも3年生では、文化祭のファッションショーのシーン長を務め、初めて他科の人とも交流できて、楽しくて濃密な時間を過ごしました。

藤井さんがシーン長を務めた文化祭ショーのシーン 「WE HAVE A DREAM」

ー藤井さんを知ったのは、2年生の時のジョナサン・アンダーソン(JW ANDERSON、LOEWE クリエイティブディレクター)とのオンライントークセッション。フランス語と英語が堪能で、語学を生かしてたくさんの海外プロジェクトに参加していましたね。

4年間で色々な人と交流できて、ジョナサン・アンダーソンやマックイーンのデザインチームとも話せましたし、ポール・スミスにも会えました。

2023年10月 原宿で開催されたポップアップイベント『ポール・スミス ストライプを紐解く − STRIPE, UNFOLDED』にて
ポール・スミス本人と

海外のプロジェクトもそうですが、自分の中で一番大きいのは、ずっと好きだったソウシオオツキのデザイナー 大月(壮士)さんとも知り合えて、ファッションショーのお手伝いもさせてもらえたこと。色々な人と交流していると、縁が巡ってくるし、友達も増えましたし、楽しい4年間でした。

ー文化服装学院の「すみれ会留学サポート奨学金」の奨学生にも選ばれて、これからの活躍がますます楽しみです。

頑張ります!

Graduate Fashion Week
主催:Graduate Fashion Foundation
開催地:イギリス・ロンドン
応募資格:GFW参加校のその年の卒業生
提出作品:デジタルポートフォリオ


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