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白髪のペト~始まり~

寂しく鎮まる森の奥に
白い髪のペトは棲んでいました
陽の光を遮る厚い緑が屋根代わり
いつしか眼の色まで白くなってしまいました

この世の始まりには、たくさんの穴を掘り
そして、たくさんの種を蒔いたのです
ペトは夢撒き人

夢の種を撒き続けるのが務めです
素晴らしい仕事に、力の限りを尽くします
そんなペトを神様もたいへん慈しまれました

千年経って、神様は
穴が上手に掘れるように、右手の爪を鍬のようにしてくださいました

また千年経って、神様は
種が上手に摘まめるように、左手の爪をお箸のようにしてくださいました

更に千年、ペトは種を撒き続け
夢は大きく育っていき、
やがて、この世を覆う緑のヴェールになりました

ペトの仕事は夢撒きです
この世の果てまでたどり着いたとき
最後の種を撒きました
そして、始めて後ろを振り返ったのです

希望を胸に振り返るペトの眼に映ったのは、
赤黒く燃え盛る炎、そして焼きただれていく真っ黒の森でした

夢の木々は次々と飲み込まれ、崩れ落ちて重なる灰となっていきます
それは始まりの地から広がっていました

ペトは鍬の右手を振り上げました
ペトは箸の左手を突き出しました
あらん限りの声を振り絞り、
絶望の涙は血のように滴り落ちました

この世の果ては、たちまち巨大な緑で堅く閉じ、
ペトはそのなかで、千年うずくまりました
陽の光を遮って、夢の中で暮らしました

神様の声が、届くことはもうありません
ペトは務めを忘れてしまったのです

寂しく鎮まる森の奥で、
ペトは両手を組み合わせます
絡み合わない指を、少し不思議に思いました
でも、ただ、それだけです

ペトの眼に映るのは、色のない世界
もやは役目は失われ、彼の蒔いた一粒の夢のなか
深い忘却とともに意味のない夢を見続けるのでした

文雀

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この作品は三部作になります。
二作目は『黒髪のモダ』
お楽しみに。

かねてより絵本を出版することが夢でした。サポートして頂いた際には、出版するための費用とさせていただきます。そしていつか必ず絵本としてお返しさせていただきたく、よろしくお願いします。ひとりでも多くのこどもたちの夢見る力を応援したい。それがストーリーテラーとしての役目です。