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【新刊記事公開】『生きもの毛事典』②

 自然科学出版のスペシャリスト「ブンイチ」が編集・制作した『生きもの毛事典』(保谷彰彦:文/川崎悟司:イラスト)は、ほかの雑学事典とはひと味もふた味も違います。
 「毛に生えた藻はおやつ」と「毛のパラシュートで子孫を残す」を全文公開。まずは試しに読んでみてください!

3 毛に生えた藻はおやつ

 ミユビナマケモノは、南アメリカのジャングルにすむ動きが遅い哺乳類です。体毛には藻類が繁殖しているため、緑色がかって見えます。木の上で枝にぶら下がって暮らし、エサは主に葉。栄養的には貧弱です。排便のために約1週間ごとに木を降りますが、このとき天敵におそわれるリスクが高まり、体力も消耗します。しかし、わざわざ木を降りることには意味がありそうです。
 ナマケモノの毛にはガや藻類、真菌類などがすんでいます。あるガの成虫はナマケモノの毛の中で暮らし、ナマケモノが木を降りたときに、そのフンに産卵します。そしてふ化したガはふたたびナマケモノの毛に戻ります。毛にすむガが増えると、真菌類などの働きで毛につく窒素が増えて、窒素を必要とする藻類が増殖。ナマケモノはその毛で増えた藻類を食べて栄養を補うのです。

緑藻により緑色がかった体毛。
葉にまぎれて身をかくすのにも役立つ。

ナマケモノの毛は薬の宝庫!?

 ナマケモノの毛にすむ真菌類が薬になるかもしれません。パナマ共和国のソベラニア国立公園に生息するミユビナマケモノの毛からは、28種類の子のう菌 (真菌類) が発見されています。それらの抽出液の中からは、病気の原因になる寄生虫に対して効果があるもの、乳がんに対して活性があるもの、バクテリアに対して抗菌作用があるものなどが見つかっています。

ミユビナマケモノ。ミユビナマケモノ科ミユビナマケモノ属の哺乳類。フタユビナマケモノ科と合わせて、現生のナマケモノは2科6種。

参考資料
Pauli J.N. et al. (2014) Proceedings of the Royal Society B 281: 20133006.
Emily D. et al. (2017) Molecular Phylogenetics and Evolution 110: 73–80.
Higginbotham S. et al. (2014) PLOS ONE 9(1): e84549.


4 毛のパラシュートで子孫を残す

 タンポポの果実には冠毛と呼ばれる綿毛がついています。冠毛のおかげで、まるでパラシュートのように風に乗って、果実は遠くへと運ばれます。しかし、パラシュートとは異なり、冠毛の1本1本の繊維はまばらですき間だらけです。そのすき間を風が通り抜けてしまうのに、なぜ冠毛はよく飛ぶのでしょうか?
 最近の研究によると、まず下からの気流が冠毛に当たると空気抵抗が生まれて、冠毛が持ち上げられます。さらに、その気流によって冠毛からわずか上の部分に、渦巻き状の気泡、つまり空気の渦ができるのです。このような気泡は世界で初めて発見されました。この気泡が、さらに果実を引き上げるように働き、その飛行を安定化させていたのです。こうして、タンポポの軽い果実は、風に乗ってより効率的に空気中をただようことができるというわけです。

冠毛の上にできた特殊な空気の渦。

どれくらい遠くまで運ばれる?

 タンポポの果実はかたく乾燥していて、中に1つの種子が入っています。タンポポの綿毛は果実についています。このように、果実につく綿毛のことを冠毛といいます。セイヨウタンポポの果実は風で運ばれますが、その大部分が2m以内に落下するという研究があります。一部の果実は、気温が高く乾燥して風の強い環境なら、数十㎞、時には150㎞近く移動する可能性があります。

 セイヨウタンポポ。キク科タンポポ属の植物。ヨーロッパ原産で、日本をふくめ世界各地に外来植物として侵入。一年中、葉を広げている。

参考資料
Cummins C. et al. (2018) Nature 562: 414–418.


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