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猫だけに



中古車販売の店が、郊外にある。その空き地に、春になると猫が子供を産む。おや猫2匹が、5匹ずつ産むので、10匹になる。ミケや、ブチなど様々な雑種の組み合わせが誕生する。

店主の長澤駿平によると、「不思議なもので、全部飼い主が決まるよ」と言う。
毎年なのに、引き取り手がいる。猫ブームと言う追い風もある。その追い風にのって、2匹の猫を捕まえてもらった。

長澤は、猫アレルギーなので、2匹を家に預け、家族が面倒を見ていた。彼等のマンションに初めて2匹を取りに行った。一匹はどうもうで、声を枯らしながら唸っている。

家に着いても、騒ぎ立てているのは、シャムに似た白い猫だった。もう一匹は、目がまるまるのキジトラだで典型的な日本猫。

急いで買った、トイレや餌などをあげて機嫌を取った。2日目くらいから、キジトラは人に慣れ、エサも水もトイレもできるようになった。一方のシャムは、頑固で頑として懐かない。

それでも2匹で、戯れたり、遊ぶ姿を見て安心した。2匹飼おうと言う意見が正解だと確信した。てっきり、獰猛に見えた猫を雄と思いアレックスと付けた。もう一匹をミムと言う女の子の名前でみーちゃんにした。あに図らんや、アレックスが雌で、ミムが雄だった。初検診の動物病院で知った。二匹とも、去勢や不妊手術をしたが、今となっては、反省している。やっぱり、自分の子供を産む権利はある。それだけが悔やまれた。

長澤は、焼き鳥屋「創玄」の店主、創介の友達で、開店当初、アルバイトで働いていた。根が真面目なのだが、バイト料だけでは食べていけるわけにいかず、車好きで、中古車整備の仕事をしていた関係もあり、中古車販売を始めた。

あれよあれよと、中古車が売れて、郊外店をオープンした。近所に、同級生たちも住んでいる。市の土建工事を一手に引き受ける建設会社の息子で専務の荒波岩男、さいきん、工務店を開いたばかりの色男の斉木健二などがいつも会社に集まる。

酒を飲まない長澤は、昼間の方が、都合が良いので、昼休みなどに集まる。高校時代は、ヤンチャ仲間だと想像できた。

彼等の仲間に、隣町に住んでいる姐御肌の一級上の児島祥子がいた。もう一人榊原朋子がいる。何故か気が合う五人だった。ある日、創玄に荒波と斉木と女二人で飲み会が行われた。

「私、健二が好きだった」と祥子が酔いに任せてカミングアウトした。誰もが恨まむカップル誕生だが、賢治は結婚している。しかも、この辺では、滅多に見ない美人妻はだと評判だ。
「実は、私、大工さんと結婚するの」
と、祥子がサプライズな発表のための飲み会にしてしまった。

店にいた全員(九席しかない)が呆気に取られて、絶句したほどだ。若干、落ち着いた頃に、拍手が起こった。焼き鳥の香ばしい香りが食欲をそそる。

「ねぎま、せせり、ぼんじり、皮」と岩男が注文した。生ビールに飽きた男たちが、ハイボールやチユウハイに変えた。


「白レバーとナンコツ、創玄の名物つくね」と医療関連の事務で働いている朋子が、珍しく注文した。接待でゴルフや高級割烹などに行くことの多い朋子は、素朴な焼き鳥が好きだ。


「いずみ橋」
コップなみなみとに一升瓶から注ぐ姿がかっこいい。それを口から近づけて飲む朋子の顔も粋で美しい。
「女の酒豪を初めて見たよ」と岩男が素直に言った。
「それ嫌味なの」
「そんなことないよ。カツコ良いもん」
「ありがとう」
まんざらでもない朋子が舌足らずの甘えた声で答えた。

宴もたけなわの頃、長澤駿平が現れた。
「創ちゃん、うーめんある。焼きおにぎりも」
〆の料理をたのむ駿平に誰も文句を言わない。

全員揃った同窓会のような宴会だ。滅多に会えない仲間たち、意外に猫の話で盛り上がった。

「スコティッシュ・フォールド」は、朋子。
「アメリカン・ショートヘア」は、祥子。
「マンチカン」を岩男が飼っていたことにみんなが驚いた。
創介が混血猫だと白状すると、爆笑が起こった。

子猫は、誰もが可愛がる。仕草といい、甘え方も悦に入る。成猫になると、扱いに苦慮する輩が多い。人によっては棄てると言う。

「みんなで、そんな話になって、写真を持ち寄って、全員で共有しようか」とイケメンの斉木健二が提案した。

たしかに、会うごとに猫談義で盛り上がる。
仲間だから出来ることかも知れない。
創玄に居た仲間全員が賛成した。そこで「キャッツ愛」が結成された。


猫同好会は、静かに動き始めた。

物好きな連中の遊びは、SNSを通して拡散して既に十万人のユーザーがいる。

今の世の中、何が起こるか分からない。顔出しがダメな連中ばかりだった。もっぱら、猫が顔出し担当となったのはラッキーだ。今やYouTubeをやろうとまで拡大中だ。

今の世の中、何が起こるか分からない。
猫だけに化けるのが得意だ。大化けする予感がした。


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