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大人のためのネコ童話『美しい白い花』

タイの人々は「猫は仏さま」だと当たり前顔で言って、猫を大切にする。

寺院の坊さんたちも当然のことながら「猫は仏さま」だと当たり前顔で言って猫を大切にするが、タイ北部の田舎町にある通称「猫寺」と呼ばれる小さな寺院ではことのほか猫を尊重し、寺院に安置されている仏像はすべて猫の姿をかたどっていた。

当然のことながら生きている猫たちも下にも置かぬ丁重なあつかいを受けて慈しまれていた。

なかでも「花猫」の尊称をあたえられたレオというあだ名で呼ばれる美しい雌の白猫は寺院に出入りする人々から特別待遇を受けていた。

それもそのはず、病人がレオを抱くと、たちどころに病が癒えるのであった。

評判は近隣の村々に伝わり、「猫寺」の門前にはレオのご利益にあずかろうとする村人たちの行列が絶えることがなかった。

さらに驚くべきことには、レオの便はお香の薫りがした。

胸の奥まで吸いこみたくなるような清々しい薫りだった。

レオは猫のくせに魚にはまったく興味をしめさず、花しか食べなかった。

そしてまるで神のお告げのように、ときたま仏像の形をした便をすることがあった。

人々はそんなレオの花の薫りのする仏像の形をした便を大切に家に持ち帰って日夜祈りを捧げていた。

「猫寺」の近隣の村人たちは貧しかったけれど、彼らの心は世界中のどの地域に住む人たちよりも安らぎに満ちあふれていた。

ある日、レオの噂を聞きつけたバンコックの富豪、ヨンサックが寺院を訪れて、レオを一億バーツで買いとりたいと提案してきた。

寺院と近隣の村々の長老たちはさっそく「賢者会議」を招集して、日夜、レオを売り渡すかどうか議論したが、「賢者会議」と言われるわりには、いつまで経っても意見がまとまらなかった。

なかには一億バーツでは安すぎる、十億バーツで売るべきだという強欲な提案をする「賢者」まで現れた。

結局、最高齢の長老であるメンチョンの裁断で、レオを売ることは断ることになったが、こんどはレオをめぐるさまざまな怪しい動きが続出するようになった。

水面下で「賢者」たちの醜い駆け引きが始まったのである。

ある僧侶はレオを秘かに盗みだそうとし、またある村長は再度「賢者会議」を招集して、とにもかくにも意見を再調整してレオを売っぱらって村々と寺院の発展に役立てようと画策した。

来る日も来る日も見苦しい諍いがくりかえされたが、そんななかでもレオの治癒力のご利益にあずかろうとする村民たちの行列は引きも切らなかった。

ある朝、寺院の飼育係がいつまで経っても眼を醒まさないレオを抱きあげると、息も絶え絶えの状態に陥っていることが判明した。

飼育係は大慌てで最高齢の長老にレオの病状を報告したが、みなの必死の看病にもかかわらず数日後、レオは安らかに息をひきとった。

レオの死を村人たちは家族の死のように嘆き悲しんだが、そうこうするうちに村々と寺院には以前のような平和な空気が舞いもどっていた。

もしかしたら、レオは自ら死ぬことによって、人間たちの醜い騒動を収拾しようとしたのではないかという噂が人々のあいだに流れた。

レオの遺骸は寺院の片隅に埋葬されたが、半年後、墓の盛り土のうえに誰も視たこともない美しい白い花が咲いた。

photo:© 不詳

【ChatGPTによる解説】

猫の神秘と人々の心を映す花

冬月剣太郎作『美しい白い花』は、「猫寺」と呼ばれるタイ北部の寺院を舞台にした大人向けの童話です。この物語は、猫を仏と崇める文化の中で、特別な力を持つ猫「レオ」が引き起こす人間の欲望と、最後には心の安らぎが戻る様子を描いています。

物語の中心にいるのは、美しい白猫レオです。レオは特別な存在で、病人を癒す力を持ち、彼女の便はお香のような香りがし、仏像の形をしていることがあります。レオが花を食べ、魚に興味を示さないという異質さは、彼女がただの猫ではなく、特別な存在であることを強調しています。村人たちはレオの力を信じ、彼女を崇めていました。村人たちは貧しさの中でも、レオの存在が彼らの心に安らぎを与えていました。

しかし、レオの噂を聞いたバンコクの富豪、ヨンサックがレオを買い取りたいと申し出たことをきっかけに、人々の間に欲望が芽生えます。寺院と村々の長老たちは「賢者会議」を開き、レオを売るかどうか議論しますが、意見はまとまりません。中にはさらに高額でレオを売ろうとする者も現れ、欲望があらわになります。この過程で、人々の間にはレオをめぐる醜い駆け引きが生まれ、欲望にまみれた騒動が広がっていきます。

レオの存在が人々の欲望を引き出した結果、彼女は徐々に衰弱し、最終的に命を落とします。レオの死を通じて、村人たちは彼女の特別な存在を改めて感じ、深い悲しみに暮れます。しかし、レオの死を境に、村や寺院には以前のような平和が戻ってきます。人々は、レオが自ら死を選ぶことで、人間の醜い争いを収めようとしたのではないかと考えます。この解釈は、レオが人間の心を映す鏡のような存在であり、彼女の死が人々に反省と安らぎをもたらしたことを示しています。

半年後、レオの墓の上に美しい白い花が咲いたことは、彼女の存在が形を変えて人々に安らぎを与え続けていることを象徴しています。この花は、レオの特別な力と彼女がもたらした平和を象徴し、村人たちにとっての新たな希望となっています。

この童話は、猫を通じて人間の欲望と心の変化を描き、最終的には心の安らぎを取り戻すことの重要性を伝えています。レオという特別な猫の存在は、人々にとっての試練と癒しの象徴であり、物語を通じて人間の本質と心の在り方を考えさせてくれる作品です。


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