ドライヤー

 お風呂から上がって手探りで部屋着を身につけたあとにこいつの出番はやってくる。
「私は乾かしてから着るけど」
「髪が肌に張りつくのがいやなので」
「あらあら、」
 意味のない言葉が挟まったのを見逃さず、すかさずスイッチを入れる。
「~~~~」
 何か話しているけど聞き取れない状態を聞き取れない側に倒して、何か話していることに気づかないふりをしながら、髪との距離感を測っていく。この作業にかかる時間は慣れと忘却の狭間で振れ幅が限りなく小さくなっていて、これ以上早くなることはない。
「もっと近くからガーッと当てればいいのに」
 とても近くから声がしたので思わず振り向くと、髪が重力によって顔の周りにまとわりついていくのが見えた。

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